生活に汗する 菊地澄子(児童文学作家)

戦中・戦後の厳しい時代を生き抜き、通常学校と特別支援学校(養護学校)の教員、児童文学作家として障害児教育の充実に力を尽くしてきた菊地澄子さん、90歳。過酷な戦争体験や教育の実践から学んだことを交えて、よりよく生きるヒント、生涯現役の要諦をお話しいただいた。

平和を語る時、それは個々の育ちの背景や、置かれている状況によって、違いのあることでしょう。

平和を考えるとは、戦争のない世界について意味するだけではありません。

社会に生きる者として、障害(バリア)のある人々の「いきづらさ」を理解することも平和を目指す世界に繋がることですね

菊地澄子
児童文学作家

――菊地さんは教師、児童文学作家として障害児教育の充実に力を尽くされ、90歳になる現在も文章の寄稿、本の出版などいろいろと活動されているそうですね。

<菊地> 
「障害と本の研究会」では、障害に関する子どもの本を読んで紹介文を書き、仲間と年に一冊リスト本を頒布しています。「創作文学どんぐり」では、執筆した作品を持ち寄り、同人誌を制作しています。他には、地域(東京・八王子市)の史跡を訪ねて、いまに繋がる意味を知るために歴史探訪したり、依頼があれば、障害に関することの講演に出かけたり……。

鑑賞、散策、講演や取材も含めて、目が見え、耳が聞こえ、口で会話でき、足が動く限り続けていきたいと思っているんです。

――その原動力、バイタリティはどこから来るのでしょうか。

<菊地> 
いまの年齢だからこそ、私にできることがある、と思うようにしています。もの書きは、ことばで書かれたことを人に読まれることによって、充実感が得られるんですよね。ことばは、魂となって、世に放たれるわけで。それが自分に還ってくることにより、また、何かを創造できるエネルギーをもつのではないかしら。

改めて自分の歩んで来た道を振り返ると、生きているうちにまだ書き残すべき使命があります。

今年は、終戦から80年という節目の年です。紛争や戦争だけでなく、災害や貧困、偏見や差別など心が痛みます。人間の愚かさを問い、価値観の多様化する中で人々へ何をどのように委ねていくか。私の生き方そのもので伝えていきたい、という思いがあります。

~本記事の内容~
◇90歳のいまだからこそ伝えられることがある
◇戦中・戦後に体験した無言の教え
◇どんな子どもでも可能性を諦めない
◇いま生きていることへの意味を問い、活かされる

プロフィール

菊地澄子

きくち・すみこ――昭和9年広島県生まれ。東京の女子大学を卒業。都立高校勤務を経て、東京教育大学附属大塚養護学校、都立七生養護学校、都立多摩養護学校、都立南大沢学園養護学校、都立大学(非常勤)で教鞭を執る。退職後、母子の発達相談室「和みの会」を開設し、障害児教育に力を尽くす。同時に児童文学の創作にも取り組む。「創作文学どんぐり」主宰、「障害と本の研究会」代表。著書に『峠を越えて』(小学館 全国学校図書館協議会 課題図書)、『わたしのかあさん』(北水/児童文化福祉賞受賞し、令和6年に山田火砂子監督により映画化)『たかがスリッパ 障害児教育40年の記録』(学研)など。『子どもの本にみる「ともに生きる自覚史」(仮題)』(偕成社)発刊予定。


編集後記

インタビューは、菊地澄子さんのご自宅にて行われました。戦争体験、教師として障害児教育に奮闘した日々、そして児童文学作家として作品に込める思いなど、約2時間にわたって語っていただきました。記事には入れられませんでしたが、90歳になるいまも庭になる柿の木で木登りをしているそうです。その元気の源は何か、戦争の貴重な証言も交えて語っていただいています。

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