7 月号ピックアップ記事 /生命科学研究者からのメッセージ
サムシング・グレートに教えられたこと 村上和雄(筑波大学名誉教授)
2018年で研究人生満60年を迎えた、筑波大学名誉教授の村上和雄氏。その研究一筋の歩みは、サムシング・グレートの呼称にも表れているように、生命の神秘さと真摯に向き合った半生でもあった。新連載では、60年にわたる科学者人生を振り返っていただくとともに、他の追随を許さないユニークな研究結果から見えてきた世界を紐解いていただく。
懸命な努力、自分や仲間を信じる心、そして絶対にやり遂げるという強い志という三つがあれば、必ず天や運は見方をしてくれる
村上和雄
筑波大学名誉教授
サムシング・グレートがどんな存在なのか、具体的なことは私にも分かりません。しかしそういった存在や働きを想定しなければ、小さな細胞の中に膨大な生命の設計図を持ち、これだけ精妙な働きをする生命の世界を当然のこととして受け入れることは、私には到底できないことでした。
それだけに、私は生命科学の現場で研究を続ければ続けるほど、生命の本質は人間の理性や知性だけでは説明できるものではないと感じるようになりました。
進化生物学者の木村資生氏によれば、この宇宙に1個の生命細胞が生まれる確率は、1億円の宝くじが100万回連続で当たるくらいの、とんでもなく希少な確率だそうです。となれば、私たちの存在はとんでもなく「有り難い」ものだと言うことができるでしょう。
さらに言えば、世界の富をすべて集めても、ノーベル賞学者が束になってかかっても、ごく単純な大腸菌1つ元から創れないのが現実なのです。にもかかわらず、私たちの身体には、約37兆個の細胞(最近の研究で明らかになった数字)が存在し、お互いに助け合いながら、喧嘩することなく調和を保って生きている。これは本当に不思議なことです。
それだけに、我われは大自然の不思議な力で生かされているという側面を決して忘れてはならないと思うのです。
プロフィール
村上和雄
むらかみ・かずお——昭和11年奈良県生まれ。38年京都大学大学院博士課程修了。53年筑波大学教授。平成8年日本学士院賞受賞。11年より現職。23年瑞宝中綬章受章。著書に『スイッチ・オンの生き方』『人を幸せにする魂と遺伝子の法則』『君のやる気スイッチをONにする遺伝子の話』(いずれも致知出版社)など多数。
編集後記
村上和雄さんの新連載がスタートしました。昨年までは各界をリードする方々との対談のホスト役を務めていただきましたが、新しい連載では、60年に及ぶ生命科学研究者としての歩みを振り返っていただきます。現場での研究活動はもちろん、影響を受けた人物の話など、これまで学びえてこられたエッセンスを集大成として語っていただきます。
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