10 月号ピックアップ記事 /対談
負けない生き方 羽生善治(将棋三冠) 桜井章一(雀鬼会会長)
片や将棋界初の7大タイトル全制覇を成し遂げた最強棋士。片や麻雀代打ちで20年間無敗の伝説を持ち雀鬼と恐れられた男。2人はいかにして勝ち続けてきたのか。熾烈な勝負の世界を生き抜いてきた天才、奇才に、各々の掴んだ勝負哲学を語り合っていただいた。
一つのことに対して十年、二十年、三十年と同じ姿勢で、同じ情熱を傾け続けられるのが才能だと思う
羽生善治
将棋三冠
「私は桜井さんほどの修羅場を体験したことはありませんが、結果が出ないとか、負けが込んでいるとかで苦しむことはよくあります。そういう時は、もうその状況を受け入れるしかないっていうことは思いますね。時間が解決してくれるケースもあるので、その時が来るまで待つというところでしょうか。
その時の自分の状態が分かるリトマス試験紙というのを私は持っていましてね。よく人から『頑張ってください』って言われることがあるでしょう。その時に『ありがとうございます』って素直な気持ちで言える時って大体いい状態なんです。いや、そんなこと言ったってもう十分頑張ってるよって思う時はあまりよくないんです」
羽生さんは日常生活がちゃんとしている。将棋の時だけちゃんとしている人だったら、羽生さんは羽生さんになっていないはず
桜井章一
雀鬼会会長
「命懸けの勝負って、最高だよ。僕のやってきた代打ちって裏の世界も絡んでいて、負けたら何をされるか分からないような連中のところに連れて行かれて打っていたわけですからね。愛嬌でもあったんですかね、こいつ可愛いなっていうところが。そのおかげで結構助けてもらったところはありますよね。ただ、どんな修羅場に直面しても、気持ちをすっと立て直して勝負に臨んできました。
僕は何事も『準備、実行、後始末』が大事だっていつも言うんだけど、準備ってのはもう前もってあるものだと僕は思っている。そこで改めてするものじゃなくて、自分の心構えの中に既にあって、いつでも出せるものなんです」
プロフィール
羽生善治
はぶ・よしはる――昭和45年埼玉県生まれ。6歳で将棋を始める。小学6年生で二上達也九段に師事し、奨励会(プロ棋士養成機関)に入会。中学3年生で四段となり、史上3人目の中学生プロ棋士に。平成8年7大タイトルを独占し、史上初の7冠に。現在、7タイトル戦のうち6つで永世称号の資格を保持。通算タイトル獲得数単独1位。著書に『決断力』(角川書店)など多数。
桜井章一
さくらい・しょういち――昭和18年東京都生まれ。大学時代に麻雀を始め、裏プロとしてデビュー。以来、代打ちとして引退するまで20年間無敗、「雀鬼」の異名を取る。引退後は「雀鬼流麻雀道場 牌の音」を開き、麻雀をとおして人間力を鍛えることを目的とする「雀鬼会」を主宰。著書に『負けない技術』(講談社)など多数。最新刊に『桜井章一 勝運をつかむ100の金言』(致知出版社)。
編集後記
7つのタイトルを独占した将棋界の第一人者と、麻雀代打ちで20年間負けなしの伝説を持つ男。お互いを認め合う将棋三冠の羽生善治さんと雀鬼会会長の桜井章一さんの対談は、穏やかな中にも、勝負の世界を生きる男同士のぞくぞくするような緊張感が漂っていました。お二人が勝ち続ける秘訣を、本稿からぜひ掴み取ってください。
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