6 月号ピックアップ記事 /対談
夢を持って不動心で生ききる
――私が歩んできた道
大村 智(北里大学特別栄誉教授)
寧静致遠──。遙か遠くにある目的地も、誠実で地道な努力の積み重ねにより到達できるという先人の教えである。 夜間教師から研究者に転身、一躍ノーベル賞学者となった大村智氏は、まさしくこの言葉の神髄を体現する人生を歩んできたと言えよう。本年1月、弊社主催の「新春特別講演会」にてお話しいただいたその一途一心の足跡を、ここにご紹介する。
私はこれからの人生で、これまで支えていただいた方々に、社会に、些かなりとも貢献してまいりたいと考えています
大村 智
北里大学特別栄誉教授
「周囲からは『おまえの経歴で研究者になってもあまり将来性がない』と反対されましたが、運よく山梨大学の丸田先生から声が掛かり、2年間ブドウ酒やブランデーの研究をしました。そのうち、自分が学んできた化学と微生物学の両方が生かせる研究をしてみたいと考えるようになりました。そんな折に東京理科大学で助教授の採用があると聞き、山梨大学に辞表を出して転籍の準備を進めていたところ、状況が変わり理科大のポジションが空かなくなってしまったのです。困っているところへ、友人の佐藤公隆君から北里研究所が学卒を1人募集しているから受けたらどうかと勧められました。
大学を出てもう7年も経っており、学卒と競って受かる自信はありませんでしたが、幸い2人採用してくれ、どうにか北里研究所に転がり込むことができました。しかし、これまでのギャップを埋めるのは並大抵のことではないと自覚していた私は、毎朝誰よりも早く研究所へ行き、他の方が出てくるまでに文献を読んだり、一通り実験の準備を終えているようにしました。するとあっと言う間に認められるようになり、研究も順調に運ぶことができたのです」
プロフィール
大村 智
おおむら・さとし――昭和10年山梨県生まれ。33年山梨大学学芸学部卒業。38年東京理科大学大学院理学研究科修士課程修了。40年北里研究所入所。米国ウエスレーヤン大学客員教授を経て、50年北里大学薬学部教授。(社)北里研究所監事、同副所長等を経て、平成2年北里研究所理事・所長。19年北里大学名誉教授。20年(社)北里研究所と(社)北里学園との統合により(社)北里研究所名誉理事長(現在は特別栄誉教授)。27年ノーベル生理学・医学賞受賞。著書に『人をつくる言葉』『人間の旬』(ともに毎日新聞出版)『自然が答えを持っている』(潮出版社)など。
編集後記
特集のトップには、ノーベル生理学・医学賞に輝いた北里大学特別栄誉教授・大村智さんにご登場いただきました。将来は家業の農家を継ごうと考えていた大村少年が、いかにしてノーベル賞学者になり得たのか。その足跡は、私たちに様々な教訓とともに、今号のテーマである「寧静致遠」という言葉の神髄を示唆してくれます。
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