仕事とは尊い遊び 安野光雅(画家) 桑村 綾(和久傳女将)

画家の安野光雅氏は、応召の一時期を除いて幼少期からこれまで絵を描かなかった日は1日もないという。常にアイデアを巡らせ、新しい作品に取り組もうという芸術家魂は91歳のいまも健在である。今年6月、京丹後に「森の中の家 安野光雅館」をオープンさせた桑村 綾さんも、老舗の和久傳を再建し、おもてなしの道を一途に追求してきた名女将として知られる。仕事は遊びに通じると語るお二人に、これまでの歩みを振り返りながら、現在の心境を語り合っていただいた。

よく学び、よく遊べ

安野光雅
画家

「私にとっては仕事が遊びなのかもしれませんね。子供の頃は、古い言葉だけど『よく学び、よく遊べ』という言葉を、まるで自分で考えたかのようなつもりで勉強部屋に張っていましたよ。
 私の勉強法というのは、何本もこよりを捻ってね。それを引くと『地理』だとか『歴史』だとか書いてある。じゃあきょうは地理の勉強をしよう、歴史の勉強をしようと決めたものです。時には好きな学科が出るまでこよりを引き続ける。だから、考えてみたら、この時の感覚のまま私は大きくなったのかもしれない(笑)」

世の中には守るべきことと、変えていくべきものがあって、うまくそのバランスをとっていくことが、物事が発展する一つの大切な要素

桑村 綾
和久傳女将

「昨日も東京から美術館に来られたご夫婦がいました。朝6時の新幹線に乗って、京都で在来線に乗り換えて福知山で降りてバスに乗って来てくださったんです。このご夫婦をどのようにしておもてなししようかと思った時、昔からの性分が出てくるわけなんです。美術館や森、工房、レストランを一つひとつ真心を込めてご案内して、最後には手を振ってバスをお見送りしました。
 この時、私は東京から7時間をかけてお客様が来てくださっていた昔のことを思い出しておりましてね。よくこんなところにまで足を運んでくださったと思うと胸がいっぱいになって、思わず後ろ姿に手を合わせたくなりました。何とも言えない喜び、満足感に包まれまして、商売冥利とはまさしくこのことでしょうね。それはもうお金には換えられないもので、先生が無心に絵に打ち込まれるのと同じように病みつきになるんです(笑)」

プロフィール

安野光雅

あんの・みつまさ――大正15年島根県生まれ。昭和23年代用教員として山口県周南市の小学校に勤める。25年美術教師として上京、玉川学園や三鷹市、武蔵野市の高校で美術教師を勤め、36年画家として独立。文章がない絵本『ふしぎなえ』で絵本界にデビュー。『さかさま』『ABCの本』『旅の絵本』(いずれも福音館書店)などは海外でも評価が高い。ブルックリン美術館賞、ケイト・グリナウェイ賞特別賞、BIBゴールデンアップル賞、国際アンデルセン賞画家賞、紫綬褒章など受賞歴多数。

桑村 綾

くわむら・あや――昭和15年京都府生まれ。証券会社勤務を経て、39年に和久傳に嫁ぐ。丹後・峰山の衰退した和久傳を立て直し、62年には京都・高台寺に店を構える。現在は料亭業態の他、茶菓席やむしやしないの店舗を展開しており、百貨店でもおもたせとして弁当や和菓子・食品を販売している。京丹後の地域活性事業として「和久傳の森」づくり、物販商品の工房開設などを行っている。今年6月には「森の中の家 安野光雅館」をオープン。


編集後記

91歳にして第一線で活躍を続ける画家の安野光雅さんと、和久傳女将の桑村綾さんには、一道に生きることの醍醐味を語り合っていただきました。画業、旅館・料亭経営と歩まれた道は異なるものの、ともに「仕事は尊い遊び」という境地に至られた二人のお話は、人生を意義あるものにするためのヒントに満ちています。

2017年11月1日 発行/ 12 月号

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