3 月号ピックアップ記事 /対談
この一道に生きる 越智直正(タビオ会長) 鳥羽博道(ドトールコーヒー名誉会長)
ともに20代の若さで徒手空拳から会社を創業し、一代で日本を代表する企業へと育て上げてきた二人の経営者がいる。鳥羽博道氏、80歳。越智直正氏、78歳。30年もの長きにわたって互いに切磋琢磨し、情熱と使命感を武器にあらゆる試練を越えてきた盟友同士が初めて語り合う「我が人生と経営」――。
一所懸命っていうのは人を動かすキーワード。無我夢中ほど強いものはない
越智直正
タビオ会長
「『孫子』の中に“将とは、智信仁厳勇なり”って書いてますねん。仕事に対する智謀を持っとるかどうか。嘘をつかない、約束を守れるかどうか。思いやりの心に溢れてるかどうか。厳しさがあるかどうか。勇気があるかどうか。これがリーダーの五徳やと。
もう一つ心掛けてたのは、これも『孫子』の一節で、“卒未だ親附せざるに而もこれを罰すれば、則ち服せず。服せざれば則ち用い難きなり。卒已に親附せるに而も罰行なわれざれば、則ち用うべからざるなり”。要するに、部下が自分に心服した時には思いっきり叱れ。しかし、部下が心服してないのに叱ったら離れていく」
好きな道を見つけて、全情熱と全精力を傾けていく。その姿勢は人に教わるべきものではなく、自分で感じ取らなきゃどうにもなりません。自得するしかない
鳥羽博道
ドトールコーヒー名誉会長
「フランチャイズの経営者たちが『努力してるのに商売がうまくいかない』って言うんですけど、その時に僕は『努力にも段位がある』という話をするんです。『あなたはいま自分の精いっぱいの努力をしてると思うかもしれないけど、僕から見たらまだ五段だ。少なくとも八段まで行かないと名人とは言わないように、八段の努力をしないと商売はうまくいきませんよ』って。
ただ、八段の努力をしてるだけではダメで、人間性が大事なんでしょうね。一所懸命やればこうなるっていう期待や打算があってはいけない。無心でなきゃいけない。それが人生を展開していく大きな鍵になるんだと思います」
プロフィール
越智直正
おち・なおまさ――昭和14年愛媛県生まれ。中学卒業と同時に大阪の靴下問屋に丁稚奉公。43年独立、靴下卸売会社ダン(現・タビオ)を創業。丁稚時代から読み始めた中国古典の教えをもとに、モラルある商売の道を追求。靴下業界屈指の企業を築く。平成20年より現職。著書に『男児志を立つ』『仕事に生かす「孫子」』(ともに致知出版社)など。
鳥羽博道
とりば・ひろみち――昭和12年埼玉県生まれ。29年深谷商業高等学校中退。東京の飲食店勤務、喫茶店店長を経験し、33年ブラジルへ単身渡航。コーヒー農園で3年間働いた後、帰国。37年ドトールコーヒー設立。平成17年会長に就任。18年より現職。著書に『ドトールコーヒー「勝つか死ぬか」の創業記』(日経ビジネス人文庫)など。
編集後記
本号の表紙並びにトップ対談を飾るのは、ドトールコーヒー名誉会長・鳥羽博道さんとタビオ会長・越智直正さん。30年来の盟友が今回初めて人生論、経営論を語り合いましたが、その内容はまさに笑いあり、涙あり、学びあり。お二人の対談を通じて、成功する人の条件、使命を全うする要諦が浮かび上がってきます。
特集
月刊誌『致知』のバックナンバー