【限定連載 第4回】松下幸之助に学ぶ中博の経営問答 ——「危機を突破する〝融通無碍〟の精神」

松下電器産業(現・パナソニック)で経営の神様・松下幸之助の薫陶を受け、その教えの神髄を多くの人々に伝導している一般社団法人「和の圀研究機構」代表の中博氏。中氏はコロナ禍に直面するいまだからこそ、松下幸之助の教え、経営哲学はより一層の輝きと真理をもって私たちに迫ってくるといいます。連載第4回は、現実の変化に臨機応変に対応し、危機を突破していく松下幸之助の「融通無碍(ゆうづうむげ)」の精神について語っていただきます。連載 第1回⇒「真剣さから新たな知恵が生まれる」

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昨日の我に飽くべし

連載第3回では、世の中に流布する情報に右往左往するのではなく、自ら「歩く、見る、聞く」を実践し、物事、経営の本質を直感的に掴む大切さをお伝えしました。いわば現代人は、テレビや新聞、インターネット、SNS等々……情報過多に陥っている、〝知識の便秘〟に陥って身動きができなくなっているともいえるでしょう。

そして過去の知識に囚われていては、その環境に応じた適切な対応ができなくなってしまいます。いまの政府や行政、あるいは企業を見ていても、景気問題にせよ、新型コロナウイルス問題にせよ、過去の方法、古いロジックで問題を解こうとするからうまくいかないのです。むしろ、柔軟なリモートワークや院内感染を出さない工夫など、日々厳しい現実と直面し、「歩く、見る、聞く」を実践している現場の最前線から様々なアイデアが出てきています。

江戸時代の俳人・松尾芭蕉に「昨日の我に飽くべし」という言葉があります。「昨日の我」、要するに、何歳になっても常にこれまでの自分を全部捨てて、リフレッシュして、謙虚な姿勢で俳句にぶつかっていこうというのです。だからこそ、芭蕉は様々な表現の革新を実現し、他の追従を許さない境地へと至ることができたのだと思います。

ですから、特にこの変化の激しい時代においては、なおさら「昨日の我にしがみついて」いてはなりません。「昨日の我に飽くべし」の精神で、積極果敢に現実に対応していくことが求められるのです。

松下幸之助の融通無碍の精神

過去の知識に囚われず、現実に応じて柔軟に変化対応していく。それをまさに実践していたのが松下幸之助でした。例えば、1964年、松下電器の販売部門が不振に苦しみ、代理店の多くが立ち行かなくなるという危機の最中に行われた「熱海会談」。松下幸之助は、三日三晩、代理店、販売会社のトップと夜を徹して話し合うのですが、そのうちの2日間は「あんたらの商売が悪い!」と、相手側を責め続けます。それに対して代理店・販売会社も激しく反発する。

ところが3日目のことでした。代理店・販売会社の意見を聞いていた松下幸之助はほろほろと涙を流し、「皆さんの言い分はよく分かった。松下が悪かった」と深々と頭を下げたのです。そして自らの財産を投じ、過去のやり方、成功をすべて捨て、「一地域一販社制」「事業部、販社間の直取引」「新月販制度」などの改革を行い、業績を見事に再生させていくのです。

もし松下幸之助が過去の成功、自分のやり方に固執していれば、松下電器のその後の再生と発展もなかったことでしょう。松下幸之助は、この現実に対する柔軟な姿勢を「融通無碍」、また、「素直な心」とも表現しています。

自分を捨てて、あらゆるものを素直に受け入れていく。そうすれば、人の意見、相手の知恵も自分のものになり、現実を突破する新しい道も見てくるのです。実際、周囲から自社製品について「マネ(真似)シタ電器」と揶揄されても、松下幸之助は「それで結構や」と言っていました。

「融通無碍」「素直」の精神こそ、人生・仕事を発展させていく神髄であり、あらゆる危機を突破していく魔法の言葉だと私は思います。

危機を乗り切る「3つのF」

私は松下幸之助の「融通無碍」「素直」をいまの人にも伝わりやすいように「3つのF」と言っています。即ち、「Free(自由)・Flat(ありのまま)・Fresh(日に日に新しく)」の3つです。これにもう一つ「Flexible(柔軟性)」を加えてもよいかもしれません。いまの日本の政治、日本企業に欠けているのはまさにこの「3つのF」です。

しかし、日本人は古来、この融通無碍をごく当たり前のように実践してきた民族なのです。詳細は次の連載第5回に譲りますが、移り変わる四季や様々な自然災害の中で生きてきた日本人には、環境の変化に柔軟に対処していく精神性が備わっています。公害が社会問題になった時にも、日本は世界に先駆けて世界一の省エネ技術を生み出しました。そのような融通無碍の精神性や大和心を、日本人がいま一度取り戻し、先端技術に挑戦していけば、アメリカや中国とは違った、世界に冠たる経営、製品を必ず実現できるはずです。

日本人が本来もっている精神、「融通無碍」の精神をリーダーたちが取り戻していけるかどうか――。そこに日本がこれからコロナ禍を克服し、さらなる発展を実現できるかどうかが懸かっているように思うのです。

 ※次回の配信は2021年5月中旬を予定しています。


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◇中 博(なか・ひろし)
昭和20年大阪府生まれ。44年京都大学経済学部卒業後、松下電器産業入社。本社企画室、関西経済連合会へ主任研究員として出向。その後、ビジネス情報誌「THE 21」創刊編集長を経て独立。廣済堂出版代表取締役などを歴任。その間、経営者塾「中塾」設立。令和2年には一般社団法人和の圀研究機構を立ち上げ代表を務める。著書に『雨が降れば傘をさす』(アチーブメント出版)がある。

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