【限定連載 第3回】 寝たきり社長の一日一生—— 「モチベーションを保ち続ける秘訣」仙拓社長・佐藤仙務

10万人に1人が発症する難病・脊髄性筋萎縮症(SMA)を持って生まれながらも、決して諦めることなく新たな挑戦を続け、自らの人生を力強く切り拓いてきた佐藤仙務さん。唯一動かせる一本の指を自在に駆使して、会社経営を始め、講演活動、大学講師、YouTubeチャンネル「ひさむちゃん寝る」の運営など、多方面で活躍されています。本連載では、そんな佐藤さんに毎月第一月曜日に、「逆境」「忍耐」「挑戦」「勇気」「希望」「出会い」などをテーマにいまをより生きるヒントを語っていただきます。第3回目となる今回は、誰もが頭を悩ませているモチベーションを高めるヒントを語っていただきました。

(連載第1回:「僕はこうして逆境と死に向き合ってきた」

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モチベーションの二つの根源

「もしよかったら、佐藤さんのモチベーションの根源を教えて下さい」

私は起業をしてからの約10年間で、多くの方々からこの手の質問を受けてきた。メディア関係者のインタビューをはじめ、取引先の会社や友人、講演会の質疑応答タイムなどでは、必ず受ける鉄板の質問とも言える。

続けて、「佐藤さんのような難病だったら、たとえ働かなくても社会は許してくれるよ」。そう言ってくれる知人もいた。確かにそうかもしれない。最低限生きていくだけなら、障がい者手当をもらって細々と暮らす…。なんてことも出来ないわけではない。

だが、私のような寝たきりの人間が働けることはとても恵まれていることだろう。ましてや社長業や執筆活動など、一般の人と比べても社会的責任や影響力のある仕事に携われ、私自身、言葉では表現できないほどのやりがいすら感じている。だからこそ、いまの状況が当たり前だと思ったことは一度もない。

では、そういった感謝の気持ちがあるから、私が常に高いモチベーションを保っていられるかと問われると、それは違うと思っている。実際、仕事には理屈では割り切れない大変さがあり、やる気が出ないときだって正直ある。繁忙期には出張続きによる過労で体を壊し、時には命を落としかけたこともある。幾度か、会社をたたむことさえ頭を過った。

そんな私が何故、これまでどんな逆境にも屈せずに高いモチベーションを維持できたのか。それは私が「臆病者」だということと、「世の中に貸したものを返してもらいたい」という二点に尽きる。

まず、この「臆病者」の意味だが、私は19歳で会社を立ち上げてからの10年という期間で、本当の意味で心を休めた瞬間は一秒足りともない。私は常に孤独や不安という恐怖心で気持ちが押しつぶされそうになりながら仕事をしている。中小零細企業の社長にとって、毎日の経営活動の全てが当たり前なことではない。

少数精鋭の経営環境、明日の売上がたたなかったらどうしよう。明日スタッフが辞めてしまったらどうしよう。そんな恐怖感の中で戦っている。

もちろん私も社長という立場である以上、それは覚悟の上だし、ビジネスの世界では健常者も障害者も関係がないとも考えている。だが私は自信を持って言えるのは、私には経営者としての才能はないことだ。私が出会ってきた成功している多くの起業家は、皆が謙遜こそはするものの、少なからず自信の目を持っていた。その自信はきっと、己の中に才能の片鱗が見えた故の瞳だった。一方で、私はどうだろうか。

「寝たきりでどこにも雇ってもらえなかったから、仕方なく自分で会社を立ち上げました」という訳あり人間だ。別に会社を立ち上げたかったわけでも、社長になりたかったわけでも、己の中にある才能の片鱗が見えたわけでもない。

だからこそ、私が日々の経営活動の中で感じる恐怖は大きいのだが、この恐怖を乗り越える方法を私は見つけた。それは、恐怖を全て受け入れることにある。前述したとおり、私は臆病者だ。己の弱さを誰よりも知っている。

でも、自分の弱さを真っ直ぐ見つめられるということは、その弱さをカバーする方法も知っていると言える。私は他の人より、才能も人脈も経済力も圧倒的に少ない社長だが、その弱さを凌駕するほどの行動力を発揮すれば良い。自分が臆病者だと知っているからこそ、私はその恐怖心が追いつけないほどの速度で走りつづけることができている。

障害者も「ありがとう」を返してもらえる社会に

そして2つ目の「世の中に貸したものを返してもらいたい」という意味だ。これは私の独自の解釈となってしまうかもしれないが、この世に重度障害者として生を受けた私は、本当に多くの方々のサポートや支えがあっての今と言える。今の私の命が在るのも、子供の頃に毎日学校に通えたのも、今現在、寝たきり社長として社長業をさせて頂けているのも、すべては私に関わってくださっている方々のおかげで、感謝の気持ちでいっぱいと言える。

一方で、納得がいかないのは、私生活においても、仕事においても、これまでの人生で何万回、何十万回と数え切れないほどの「ありがとう」の言葉を口に出してきたにもかかわらず、その数量に比例するだけの「ありがとう」を返してもらっていないことにある。

ビジネスの世界では、貸したものは利子を付けて返してもらうのが当たり前だが、それと同じように、私は人生で貸した「ありがとう」を、もっと大きな「ありがとう」で返してもらわなければならないと考えている。しかし、私の「ありがとう」に対して、「障害者だから」と真剣に「ありがとう」を返してくれない、向き合ってくれない場合が多いのだ。つまり、障害者だけが社会に助けられ、お礼を述べる社会を私は変えたいのである。


第4回「コロナ禍で生き残る企業の働き方」

◇佐藤仙務(さとう・ひさむ)
平成3年愛知県生まれ。4年SMA(脊髄性筋萎縮症)と診断される。22年愛知県立港特別支援学校商業科卒業。当時障碍者の就職が困難であるに挫折を感じ、ほぼ寝たきりでありなが23年ホームページや名刺の制作を請け負う合同会社「仙拓」を立ち上げ、社長に就任。著書に『寝たきりだけど社長やってます』(彩図社)『寝たきり社長 佐藤仙務の挑戦』(塩田芳享著、致知出版社)、共著に『2人の障がい者社長が語る絶望への処方箋』(左右社)などがある。公式YouTubeひさむちゃん寝るでも情報発信中。

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