【限定連載 第1回】 寝たきり社長の一日一生—— 「僕はこうして逆境と死に向き合ってきた」仙拓社長・佐藤仙務

10万人に1人が発症する難病・脊髄性筋萎縮症(SMA)を持って生まれながらも、決して諦めることなく新たな挑戦を続け、自らの人生を力強く切り拓いてきた佐藤仙務さん。唯一動かせる一本の指を自在に駆使して、会社経営を始め、講演活動、大学講師、YouTubeチャンネル「ひさむちゃん寝る」の運営など、多方面で活躍されています。本連載では、そんな佐藤さんに毎月第一月曜日に、「逆境」「忍耐」「挑戦」「勇気」「希望」などをテーマにいまをよりよく生きるヒントを語っていただきます。記念すべき第1回は、逆境や誰しも避けられない死との向き合い方についてお話しいただきました。

★『寝たきり社長 佐藤仙務の挑戦』(致知出版社刊)はこちら

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多くの人に前を向く力を届けたい

皆さま、こんにちは。株式会社仙拓の代表を務める佐藤仙務と申します。

『致知』で初めて取材していただいたのは、いまから3年前、2017年1月号でした。その翌年の2018年3月号では、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と闘うまんまる笑店社長の恩田聖敬さんと対談、2019年5月には『寝たきり社長 佐藤仙務の挑戦』(塩田芳享著、致知出版社刊)を出版させていただきました。

そして今回、ご縁の深い致知出版社さんの「人間力・仕事力を高めるWEBchichi」で連載をさせていただけることになり、本当に嬉しく思っています。

私は1991年、10万人に1人が発症する脊髄性筋萎縮症(SMA)を持って生まれました。SMAは緩やかに筋肉が衰えていく難病です。SMAの病状が進行するスピードは人それぞれですが、私はほぼベッドに寝たきりで、自分で唯一自由にできることといえば、会話と左手の親指を「1センチ」動かすことだけです。それでも、特別支援学校を卒業した後の2011年、多くの方のご協力を得て、ホームページや名刺の制作、ウェブコンテンツやウェブアプリケーションの企画などを請け負う「仙拓」(愛知県東海市)を立ち上げました。19歳の時のことです。起業から今年で9年が経ちますが、いま仙拓では重度障害者や女性のスタッフ8名が自分の特技を生かして生き生き働いてくれています。

しかし、振り返ってみると、SMAという難病を抱えながら歩んできたこれまでの道のりには、楽しかったこと、辛かったこと、苦しかったこと、本当にいろいろなことがありました。このWEB連載では、その歩みの中で、私がどう逆境や困難と向き合い、決して諦めることなく前に進んできたかをお伝えしたいと思っています。

特にいまは新型コロナウイルスの影響により、多くの方が不安を感じながら生活されています。私もこのコロナ禍において、改めて自分がいま生きていることは奇跡であること、当たり前ではないのだということを教えられました。このWEB連載が、皆様にとっての生きる力、少しでも前を向く力になってもらえたらいいなと願っています。

逆境は人生が前に進む時に訪れる

私はこれまで本当にたくさんの逆境・困難に直面してきました。ただ、逆境・困難というのは、人生が前に進む時、あるいは新しいステージに進む時に必然的に訪れてくるものではないかと私は思うのです。

例えば、特別支援学校を卒業する頃、重度障碍者の私には健常者のように働ける場所はありませんでした。これは本当に大きな逆境でした。しかし、その逆境の中で「じゃあ、どうすれば働くことができるのだろう」と考え、行動したことによって、様々な方の協力を得ることができ、起業という新たな道が拓けていったのです。

起業後も、自由に動かせる一本の指でマウスを操作し仕事に取り組んでいましたが、次第にできないことが増え、厳しい壁に直面しました。それでも諦めずに「じゃあ、それをどう解決しようか」と試行錯誤していく中で、パソコンを目の動きで操作する新しい技術と出会い、以前よりも迅速かつスムーズに仕事ができるようになり、事業の可能性が大きく広がっていきました。

また、2016年には体調を崩して肺炎になり、危うく死にかけました。医師からは「回復しても声を出すのは難しくなるでしょう」と告げられ、私は絶望のどん底に突き落とされました。声が出せなくなるかもしれないという絶望の中で、人生で初めて「死にたい」という感情が芽生えました。母も医師の宣告を受けて頭の中が真っ白になったそうです。幸いにも、手術が成功し声を失うことなく現在に至っていますが、もしかしたらこの時が私の人生の最大の逆境だったのかもしれません。

しかし、不思議なことに、「死にたい」「死ぬかもしれない」というギリギリの状況で、私は自分の中の人生観、価値観が大きく変わっていく体験をしました。誰もが生きる上で何が一番大切か、優先順位を決めているかと思います。それは家庭であったり、趣味であったり、仕事であったりいろいろでしょう。体調を崩すまでの私の人生の優先順位は、間違いなく「仕事」が一番でした。とにかく仕事で結果を出したい、皆に自分のこと、会社のことを知ってもらいたい、認めてもらいたいという思いで走って走って走り続けていました。

でも、いざ死に直面した時に込み上げてきたのは、仕事で結果を出したいということよりも、「もっといろいろなことをやっておけばよかったな」「家族や友人、大事な人ともっと話をして伝えたいことがあったな」という思いだったのです。「もう一度仕事で結果を出すために病気から回復しよう」という心境には全くならなかった。やはり、生まれ育った家庭や本当に心許せる友人関係といった「自分の本来の居場所」「自分が戻るべき場所」こそが人間にとって一番大事なものなのです。その「自分の本来の居場所」がベースにあって初めて充実した仕事なり、社会関係なりがあることに気づけたことは、働き方や生き方、人間関係のあり方を見直す大きな転機となりました。

そのように、逆境・困難は渦中にある時には苦しいことばかりに思えますが、それにぐっと耐え、逃げず、諦めずに乗り越えてみると、自分を成長させてくれる、人生をよい方向に進ませてくれる糧であったことが分かります。ですから、私は逆境・困難がやってきた時には、「ああ、これは良い方向に進むために必然的にやってきたことなんだ」と受け止めるようにしています。

やはり、何事にも風向きがあります。追い風の時もあるし、向かい風の時もあります。大事なのは、向かい風の時に完全に座り込んでしまわないことだと思うのです。お尻さえついていなければ、また追い風が来た時にいつでも立ち上がれます。向かい風の逆境でも、追い風のタイミングが来たらしゃがんでいた分まで前に進もう。そういう思いで逆境と向き合ってきました。

東京での障害者イベントに登壇している筆者

人生に終わりがあるから頑張れる

そしてもう一つ、絶望と死の恐怖の中で、気づいたことがあります。それは死という終わりがあるからこそ、人間は人生に真剣、一所懸命になれるということです。

そもそも私の傍には常に「死」があったといえます。私が生まれ、まもなくして難病が分かった時、医師が両親に告げた余命は5歳から10歳でした。いま私が生きているのは、一つには医療技術が進歩したことが大きいのです。

実際、私が通った特別支援学校では、一年間のうちに何度も黙祷の時間がありました。つまり、病気が進行したりして亡くなる子が多かったのです。ある日、黙祷の時間に私の隣にいた車椅子の子が「今度は自分が死んじゃったらどうしよう」といいます。私は「そんなことないよ」と答えたのですが、数か月後に本当にその子の黙祷の時間がやってきたのです。これは本当に恐ろしいことでした。

その頃から「死ぬってどういうことだろう」「いま生きていることに感謝して頑張らないと、若くして亡くなった同級生にすごく失礼だ」と漠然と考えるようになりました。その漠然とした考えが明確になったのが、先にも述べた2016年の肺炎でした。死と直接向き合う体験を経たことによって、人生には終わりがあるということをきちんと認識した時に、人間は初めて本当に大事なものに気づき頑張れる、本当に充実した人生を生きられるんだと分かったのです。

昨年も同級生が一人亡くなりました。私にもいつ同じ運命が待ち受けているか分かりません。特にいまのコロナ禍ではなおさらです。だからこれからも、いま生きているこの一瞬一瞬が奇跡であり、ものすごく幸せなことなんだと認識して、常に目標を持っていまこの時を一所懸命に歩み続けていきたいと思うのです。


第2回「よきご縁・人脈の築き方」

◇佐藤仙務(さとう・ひさむ)
平成3年愛知県生まれ。4年SMA(脊髄性筋萎縮症)と診断される。22年愛知県立港特別支援学校商業科卒業。当時障碍者の就職が困難であるに挫折を感じ、ほぼ寝たきりでありなが23年ホームページや名刺の制作を請け負う合同会社「仙拓」を立ち上げ、社長に就任。著書に『寝たきりだけど社長やってます』(彩図社)『寝たきり社長 佐藤仙務の挑戦』(塩田芳享著、致知出版社)、共著に『2人の障がい者社長が語る絶望への処方箋』(左右社)などがある。公式YouTube「ひさむちゃん寝る」でも情報発信中。

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