【限定連載 第2回】 寝たきり社長の一日一生——「よきご縁・人脈の築き方」仙拓社長・佐藤仙務

10万人に1人が発症する難病・脊髄性筋萎縮症(SMA)を持って生まれながらも、決して諦めることなく新たな挑戦を続け、自らの人生を力強く切り拓いてきた佐藤仙務さん。唯一動かせる一本の指を自在に駆使して、会社経営を始め、講演活動、大学講師、YouTubeチャンネル「ひさむちゃん寝る」の運営など、多方面で活躍されています。本連載では、そんな佐藤さんに毎月第一月曜日に、「逆境」「忍耐」「挑戦」「勇気」「希望」「出会い」などをテーマにいまをより生きるヒントを語っていただきます。連載第2回のテーマは「よきご縁・人脈の築き方」です。佐藤社長はいかによきご縁を築き、人生・仕事をひらいてきたのでしょうか。
(連載第1回:「僕はこうして逆境と死に向き合ってきた」

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第一歩は願うこと

人は、一生の内で出会うべき人とは必ず出会う。私が子どもの頃、大人たちからそんな言葉を度々聞かされた。正直、初めてこの言葉を聞いたときは疑心暗鬼だった。理由は一つ。私は大人になるまで出会いというのは「環境」で決まるものだと考えていたからだ。

環境というのは厳密に言うと、「生まれ持った環境」のことだ。お金持ちの家庭で生まれた人は同じようなお金持ちの人と多く出会い、権力や地位のある家庭の人も同じように権力や地位のある人と多く出会う。そうして私のように、生まれつきの重度障害を抱えた人間は、やはり同じように障害を抱えた人たちと多く出会う。この考え方を周りに話すと、実際多くの人は私の意見に同調さえしてくれた。

そんな私は大人になり、「働く場所がないなら自分たちで作ろう」と思って、2011年に「仙拓」という会社を立ち上げた。起業して間もなくは、前述したように出会いというのは「生まれ持った環境」で決まると信じていた。だからこそ私は自分と同じような障害を抱える方で、働く場所がなく困っている方々に対し、仕事を提供できるような会社にしたいとも考えていた。

だが、起業してから数年が経った時、私は大きな悩みを抱えていた。それはいざ起業はしたものの、仕事がなかなか思い通りに受注できないことだ。私が仙拓を立ち上げたのは当時19歳。12年間通った特別支援学校を卒業してから約1年後に起業したので、当たり前だが、金銭力もなければ人脈なんて皆無に等しかった。繰り返しになるが、働く場所がなく起業したわけだから、アルバイト経験のような社会経験すらなかった。

最初は身内や親戚に頼って仕事を請負っていたが、それにも限界が来た。そんな時だった。私は、この仙拓という会社をより良く成長させていくために人脈を広げたいと考えた。だが、私は寝たきりの生活を送っている。子どもの頃から、両親は特別支援学校以外に積極的に外に連れ出そうとするタイプではなかったし、家の近所の人でさえ、私のことを本当の意味で知っている人はいなかった。中には人見知りかつ寝たきりの私をみて、意思疎通が取れない人間だと思っている人もいたぐらいだ。だから、そんな私が出会いを増やしたいとか、人脈を拡大したいなんて思うのは、ペンギンが空を飛びたいと願うことのように無謀に思えた。

しかし、願うことは物事の第一歩である。それからというもの、私は人生で初めて、どうすれば人脈が広がるかを考えてみた。そこでまず、自分の周りで人脈のある人を注意深く観察することにした。すると、人脈がある人全員に言える絶対的な共通項があった。それはたとえ、どれだけ自分が上手くいかない時でも「環境や他人のせいにしない」 ということだ。分かりやすく言えば、ネガティブな思いや言葉を表に出さないということである。そして、人脈がある人は日々の仕事や生活の中で自分自身が出会いたい人を具体的にイメージしているようにも思えた。

SBIホールディングス社長・北尾吉孝さんとSBI大学院大学の修了式にて

「出会いたいと願った人」とは必ず出会う

そうと分かった私は、すぐに考え方と行動を変えてみることにした。まずは、会社の売上があまり立たないということを障害のせいでもなければ、外に出ることができない環境のせいでもないという事実を自分に突きつけた。併せて、「できない」という思考を「できない。じゃあ、どうする?」という次に繋がる考え方にシフトチェンジしていった。

そうすることで、次第に「じゃあ、どうする?それでも駄目なら次はどうする?」という思考の癖付が行われていく。例えば、売上が立たないという問題でいえば、「売上を増やしたい。じゃあ、どうする?」→「会社や商品の宣伝をしよう」→「宣伝に使う広告費がない」→「じゃあ、どうする?」→「SNSで発信をしよう」→「寝たきりの障害者が社長で怪しまれる」→「じゃあ、どうする?」→「テレビや新聞に出よう」→「どこにも相手にしてもらえない」→「じゃあ、どうする?」→「本を執筆して注目してもらおう」というように、次々と現れる目の前の壁を諦めずに突破していくのである。そして私は、会社が少しずつ軌道に乗り始めた頃には、そのポジティブな癖付が自分の中で昇華できつつあった。それは仕事だけではなく、出会いでも同じことが言えた。

例えば私が、「大企業の経営者との繋がりが持ちたい」と考えた場合、「自分のような身分の者が相手にしてもらえるはずがない」と諦めてしまうのは簡単だ。だが、それでは何も始まらないので、やはり自分の中で「じゃあ、どうする?」と問てみる。まずは接点と思い、繋がってみたい憧れの経営者をSNSで検索してみた。そして、駄目元でメッセージを送ってみることにしたが案の定、殆どの経営者からスルーされた。しかし、ここでも考えた。「じゃあ、どうする?」と。

私はまず、どうすれば返事をもらえるのか。自分だったらどんなメッセージだったら返事を返すか考えてみることにした。つまり、「相手の身になってみる」ということだ。

いくつか閃いた。まず相手は忙しい立場の方が多いので、読むことや返信に負担をかけさせてはいけない。失礼のないようにはしつつ、送る文章はできる限り短文へと変えた。そしてもう一つ、送るメッセージからオープンクエスチョンを消した。 オープンクエスチョンとは、二者択一で解答できない質問だ。例えば、「あなたの経営者としてのビジョンを教えてください」のように、イエス・ノーでは答えられないもの。自由度は高い会話ができる一方で、返信が手間にある。

反対に、AB のどちらかを選択させるような回答範囲を限定する聞き方は、クローズドクエスチョンと呼ぶ。ここでも例を挙げると、「御社は障害者雇用に興味はありますでしょうか」というものだ。直感的にイエス・ノーで答えられるので返信の負担が減る。

そして私は、それらを応用した上でこういったメッセージを送った。「私は生まれつきの重度障害で寝たきりです。ただ、19歳で会社を起業しました。起業の経緯をまとめた本を出版しておりますので、是非ご覧いただきたいのですが、拙著をお送りさせていただいてもよろしいでしょうか?」

これだけなら「まぁ、受け取るだけなら別にいいかな」と思い、「はい、わかりました」という返事をもらえることも格段に増えた。そして、実際に本が届くと、稀に全て読んでくださる方もいて、そういった方とは本格的な交流が始まる。そうやって私は、自分の出会いたい人を強くイメージし、相手の身になって行動していくことで、起業してから数年で5,000人以上の人脈が増えた。その人脈の中には、内閣総理大臣ご夫妻や子どもの頃からファンだったミュージシャンのコブクロ、大企業の経営者や様々な芸能人の方々もいるが、もし私が「人脈というは生まれ持った環境で決まる」という考えのままマインドチェンジを行っていなければ、彼らと出会うことはあり得なかった。

だから私は、こう思う。冒頭で述べた「人は、一生の内で”出会うべき人”とは必ず出会う」ではなく、「人は、一生の内で”出会いたいと願った人”とは必ず出会う」が正しいのかもしれない、と。

対孤独用分身コミュニケーションロボット「OriHime」の開発者・吉藤健太朗さんと

※次回配信は10月1日(木)を予定しています。

◇佐藤仙務(さとう・ひさむ)
平成3年愛知県生まれ。4年SMA(脊髄性筋萎縮症)と診断される。22年愛知県立港特別支援学校商業科卒業。当時障碍者の就職が困難であるに挫折を感じ、ほぼ寝たきりでありなが23年ホームページや名刺の制作を請け負う合同会社「仙拓」を立ち上げ、社長に就任。著書に『寝たきりだけど社長やってます』(彩図社)『寝たきり社長 佐藤仙務の挑戦』(塩田芳享著、致知出版社)、共著に『2人の障がい者社長が語る絶望への処方箋』(左右社)などがある。公式YouTubeひさむちゃん寝るでも情報発信中。

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