「ユー、根性あるよ」初めてのステージで失敗した関ジャニ∞村上信五さんが〝恩人〟に褒められた理由

2004年に関ジャニ∞としてCDデビューし、現在ではグループでの音楽活動のみならずバラエティーやドラマへの出演、司会業をも幅広く務め上げる村上信五さん。5月に放映された『関ジャニ∞クロニクルF』でのあるひと言をきっかけに実現した今回の鼎談(ていだん)は大きな反響を呼びました。メンバーのみならずファンの間でも読書家、努力家として知られる村上さんの人生の原点、忘れ得ぬ〝恩人〟ジャニ―喜多川さんとのエピソードが語られた記事の一部をここにご紹介します。共に語り合うのは日本BE研究所所長の行徳哲男さん、思風庵哲学研究所所長の芳村思風さんです。

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感性に長けた人 ジャニー喜多川との思い出

〈村上〉
原点みたいなことで言うと、人としての礼儀の部分はやっぱり両親の影響ですけれども、僕がいままで出逢った中で一番感性に長けていた人ってジャニーさんだと思います。

〈行徳〉
ジャニーさんからはどんなことを学ばれましたか?

〈村上〉
実は僕、その最初のコンサートで失敗したんですよ。

僕の役割は、エンディングでKinKi Kidsのお二人が持っている旗を受け取ったら、360度のステージを1周回って、ステージの後ろに引っ込むというものでした。リハーサルの時はうまくできたものの、いざ本番になると、大阪城ホールに約二万人のお客様がいるわけですよね。見たことのない別世界、ワァーという大歓声で、もう飛んじゃったんですよ。

〈芳村〉
頭の中が真っ白になってしまった。

〈村上〉
はい。で、ものすごいスピードで1周回ったら、まだKinKi Kidsのお二人が歌っていらっしゃるんです。僕は音楽が終わったら戻る、まだ音楽が鳴っているから戻っちゃいけないと思って2周目を切りました。

そうしたら途端に音楽が終わって他のジュニア(デビュー候補生)はワァーッといなくなったんです。ステージに残っているのはKinKi Kidsのお二人と僕だけ(笑)。

このコンサートの最後はKinKi Kidsのお二人がガラスケースに入ったら、そのガラスケースがパリンと割れてコンサートが終了するという演出でした。それがまかり間違ってKinKi Kidsのお二人がパリンって消えた後、僕が旗を持ってシューンと真ん中を滑ってステージから消えた(笑)。

振付の先生からは「おまえ何やってるんだ。リハーサル通りやれって言っただろう」と怒鳴られ、これはジャニーさんにも絶対怒られると思っていたら、なぜかあの人だけが

「ユー、根性あるよ」

と褒めてくださったんです。

〈芳村〉
想像すると、それも一つの演出として様になっていたのかもしれませんね。

〈行徳〉
村上さんの感性が奇跡を呼んだんですよ。

〈芳村〉
よく「Don’t think.Feel」、「考えるな、感じろ」って言いますよね。

まさにその感性のままにやったことが当たったのでしょう。

〈村上〉
ジャニーさんから褒められたのは2度だけで、もう1回は初めてのテレビ収録の時、右も左も分からなかったんですけど、

「ユー、素直でいいよ」

って。あとはずっと怒られていました。

振り返ると、やっぱりチャレンジした時は怒られなくて、チャレンジしなかった時に怒られましたね。

〈行徳〉
ああ、挑戦したかどうか。

〈村上〉
それといま思い出したのは、コンサートの時に各ジュニアにお小遣いを渡して「これでユーたちの好きな物を買ってきちゃいなよ。レシート絶対忘れちゃダメだよ」って言うんです。

それで買ってきてレシートを渡すじゃないですか。すると、ジャニーさんはそのレシートを一枚ずつじっくり見るんですよ。それで「ユー、センスあるよ」「ユー、センスないよ」って。

当時は「何を見てんねやろ」と思っていたんですけど、たぶん品物のチョイスなんですかね。理屈は分かりませんが、独特の感性を持っていた方だと思います。

本音と実感を鍛え「紛れもない私」を生きる

〈行徳〉
私は感性とはひと言で言ったら何ですかと聞かれたら、ためらいなく答えるのは

「紛れもない私」

です、と。感性が摩滅するというのは、自分が不確かになっていくということです。

だから、ずっとお話を聞いていましたら、やっぱり村上さん自身が鮮烈ですよ。感性の人間です。自分を鮮やかに生きていない人間が人を鮮やかには絶対しません。

現代人の多くは「紛れもない私」を生きていない。人に見せる自分ですよ。

〈村上〉
わぁ、これホンマいろんな人に聞かせたいですねぇ。

確かにいまはSNSの発達にもよって、すぐに結果を求めたり、周りからの評価や共感を欲しがるような印象があります。そういうことばかりしていると、自分の本当の思いとか悩みとかを明確に感じ取る心、感性が養われないのではないかと思います。

〈行徳〉
孟子の教えの中に「君子、自反す(くんし、じはんす)」とあります。自反というのは、自分が本当の自分に反る。矢印を相手に向けるのではなく、自分と向き合う人こそが立派な人物だと。

〈村上〉
『いまこそ、感性は力』の中で「わがまま」の話も書かれていたじゃないですか。これもすごく感銘を受けました。

〈行徳〉
人は「わがまま」を通過しない限り、「われがまま」にはなれません。

「わがまま」を押し通そうとすると、いろんなことにぶつかります。それを繰り返す中で、「われがまま」「紛れもない私」に気づくことができるんですね。そうすれば自分のことも他人のことも尊重することができ、身勝手な犯罪や悲劇は起こらなくなるんです。

〈芳村〉
悲しいことにいま世の中には隠蔽や改竄が蔓延り、嘘ばかりの世界になっています。そういう時代の中で信じられるのは、自分の本音と実感しかないんですね。これを信じて、これに懸けていくしかない時代になってきたなと。

ただ、気ままわがままな本音と実感だけで生きていてはいけませんので、本音と実感を鍛え、成長させることが大切です。

〈村上〉
本音と実感を鍛える。

〈芳村〉
そのためにはやっぱり村上さんのようにいろんな本を読み、自分と違う考え方に触れ、「あっそうか」と気づくこと。人生は何に気づくかがものすごく大事ですよ。学ぶことよりも、自分が何に気づくか。

その上で、気づきに基づいて実践すること。この気づきと実践の積み重ねによって本音と実感が鍛えられ、よりよい人生を築くことができるのだと思います。


日本BE研究所所長の行徳哲男さん、思風庵哲学研究所所長の芳村思風さん、関ジャニ∞の村上信五さんによる鼎談。80代、70代の先達と30代の人気アイドルとの忘年の交わりは、一冊の本が結んだ縁でした。念願の初対面を果たした3人の語り合いは、終始感動の連続で興味は尽きません。今回の鼎談では、下記の内容が掲載されています。
*         *            *           
「一冊の本が結んだ奇妙な縁」
「本を閉じ、目を閉じ、天を仰いだ箇所」
「こうしてジャニーズ人生がスタートした」
「感性に長けた人ジャニー喜多川との思い出」
「不遇のアイドル時代を支えたもの」
「44年前の12月4日すべてはそこから始まった」
「感性論哲学が生まれた驚きの背景」
「本音と実感を鍛え『紛れもない私』を生きる」
「世界的プロゴルファー青木功が掴んだ『前後際断』」
「コロナ禍の時代をどう生きるか」
「『もしも塾』の公演を萩で行った理由」
「人間の命が最も輝く瞬間とは」
「徹底的な『集中』そして『狂』であれ」
*         *            *           
(本記事は『致知』2020年9月号 特集「人間を磨く」より一部を抜粋・再編集したものです)

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◇村上信五(むらかみ・しんご)
昭和57年大阪府生まれ。中学3年生の時にジャニーズ事務所入所。平成14年関ジャニ∞を結成し、16年CDデビュー。歌手やバラエティータレント、俳優、司会者など多方面で活躍。フジテレビ系列での東京五輪メインキャスターに就任。

◇行徳哲男(ぎょうとく・てつお)
昭和8年福岡県生まれ。35年成蹊大学卒業。46年日本BE研究所設立。行動科学と禅を融合した感性を取り戻す研修を行う。著書に『感奮語録』(致知出版社)など。

◇芳村思風(よしむら・しふう)
昭和17年奈良県生まれ。学習院大学大学院哲学博士課程中退。45年思風庵哲学研究所設立。感性論哲学の創始者。名城大学元講師。著書に『人間の格』(致知出版社)など。

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