健康長寿への挑戦 ~脳はいくつになっても成長できる~ 築山 節(北品川クリニック・予防医学センター所長) 西 剛志(脳科学者)

日本は世界有数の長寿国だが、平均寿命と元気に生活できる健康寿命との間にはまだ隔たりがある。高次脳機能外来で脳疾患の患者を数多く社会復帰へ導いてきた築山節氏(右)と、脳科学の知見に基づき人の才能を引き出す活動に取り組んでいる西剛志氏(左)に、いくつになっても脳を成長させ、真の健康長寿を実現する道について語り合っていただいた。

定年になって仕事を辞めると、健康状態も脳の活力もどんどん落ちていきます。

ですからなるべく仕事は辞めずに、ずっと現役を貫いたほうがいいと私は思います

築山 節
北品川クリニック・予防医学センター所長

〈西〉 
きょうはよろしくお願いします。私は20年近く前から、脳科学を活用して企業や個人のパフォーマンスをアップさせる活動を続けてきましたが、築山先生の脳に関するご著書はよく拝読してきました。お目にかかれてとても嬉しく思います。

〈築山〉
こちらこそ、よろしくお願いします。気がつけば、私ももう50年医者をやっていまして、75歳の後期高齢者になってしまいました(笑)。

いまは産業医として毎週月曜から土曜までいろんな会社を訪問して、働く方々の健康管理を支援していますが、本を書くようになったのは、東京の第三北品川病院で高次脳機能外来を立ち上げてからです。

(*編集部註:築山氏はその後北品川クリニックに移籍したため、現在新患は受け付けていません)

私はもともと大学病院で脳外科医として活動していたのですが、教授の指示で東京の第三北品川病院の脳外科部長を務めることになりましてね。大学病院の時は分業制で、手術をした後の患者さんは外来の先生が診ていたのですが、第三北品川病院では、手術後もずっと自分が患者さんを診ることになりました。

すると、手術がどんなに完璧でも、なぜかボケてしまう患者さんがいる。そこで、患者さんの脳を元の元気な状態に戻すための外来を立ち上げました。それが高次脳機能外来です。1992年、42歳の時でした。

〈西〉
事故や病気で損傷した脳の機能回復を目指されたわけですね。

〈築山〉
ええ。そして、そこで得た知見を本に書いたわけです。きょうは西先生のお話も伺いながらご紹介していきますが、基本的に脳というのは使わなければ衰えるということです。

スーパーエイジャーといって、年齢よりも20歳以上若い脳を持つ高齢者に共通するのが、いつまでも学び続けていることです。

生涯現役を貫くには、新しいものを受け入れるオープンな姿勢というのがとても重要だと思います

西 剛志
脳科学者

〈築山〉 
西先生は、どのような形で企業や個人の方々の支援をなさっているのですか。

〈西〉 
仕事や人生が上手くいく人の脳の仕組みを研究して、そこで得たノウハウを提供しています。これまで3万人以上の方々をサポートしてきました。

もともとは遺伝子を研究する科学者だったんですけど、30歳の時に突然難病を宣告されて、3年半くらい闘病生活を余儀なくされました。日本に1,100人しかいない自己免疫疾患で、原因も治療法も分からないんです。40℃を超える高熱や関節痛に悩まされて、免疫抑制剤で何とか症状を抑えながら生活を続けていました。

病気になったのは結婚3か月目で、私は妻に迷惑をかけたくないと思って離婚も真剣に考えました。ところが妻は、「きっと治るよ」と、そんな私の手を握りながら励まし続けてくれたんです。

当時身を置いていた研究の世界というのは、論文作成が一日でも遅れると他の人に実績を奪われてしまうような非常に厳しい競争社会で、私の心も随分荒んでいました。けれども、一所懸命に看病を続けてくれる妻のおかげで、人生で本当に大切なものは何かということに初めて気づかされたんです。

それまでの私は外側のものばかり追いかけていましたが、身近な人との心の触れ合いの尊さを実感しましてね。妻のためにも絶対に病気を治そうと決心して、自分の病気の研究を始めたんです。

〈築山〉 
それは素晴らしい。

〈西〉
そうして3年経った頃に出た論文で、免疫の病気は脳が関係していることを知りました。要は、……(続きは本誌にて)

本記事の内容 ~全9ページ~
◇脳は使わなければ衰える
◇難病を通じて気づいたこと
◇人の噂はするな自分が何をしたいかを考えろ
◇健康でなければ脳も十分働かない
◇AIでは賄えないもの
◇脳を活性化する運動と食事とは
◇いまを生きることの大切さ
◇年齢より20歳以上若い高齢者の共通点
◇できないことを嘆かずできる方法を考える
◇「面倒くさい」は禁句
◇生涯現役こそが健康長寿の極意

プロフィール

築山 節

つきやま・たかし――昭和25年愛知県生まれ。日本大学大学院医学研究科卒業。埼玉県立小児医療センター脳神経外科医長、公益財団法人河野臨牀医学研究所附属第三北品川病院長、同財団理事長を経て現職。医学博士。脳神経外科専門医として数多くの診断治療に携わり、平成4年脳疾患後の脳機能回復を図る高次脳機能外来を開設。著書に『脳が冴える15の習慣』『脳を守る、たった1つの習慣』(共にNHK出版)『一生脳が冴える歩き方』(宝島社)など。

西 剛志

にし・たけゆき――昭和50年宮崎県生まれ。東京工業大学大学院生命情報専攻卒業。博士号を取得後、特許庁を経て、平成20年うまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。企業や個人を対象に才能を引き出す方法を提供。著書に『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える「やりたいこと」の見つけ方』(PHP研究所)『脳科学的に正しい一流の子育てQ&A』(ダイヤモンド社)など。


編集後記

生きている限りはボケずに、元気に活動したいものです。そのためにはどうすればよいか。北品川クリニック・予防医学センター所長の築山節さんと、脳科学者の西剛志さんに専門的知見を交えてご提言いただきました。脳は使わなければ衰える。「面倒くさい」は禁句。いくつになっても脳を成長させ、健康長寿を実現するための処方箋は、まさに本号のテーマ「挑戦」に集約されると言えそうです。

バックナンバーについて

致知バックナンバー

バックナンバーは、定期購読をご契約の方のみ
1冊からお求めいただけます

過去の「致知」の記事をお求めの方は、定期購読のお申込みをお願いいたします。1年間の定期購読をお申込みの後、バックナンバーのお申込み方法をご案内させていただきます。なおバックナンバーは在庫分のみの販売となります。

定期購読のお申込み

『致知』は書店ではお求めになれません。

電話でのお申込み

03-3796-2111 (代表)

受付時間 : 9:00~17:30(平日)

お支払い方法 : 振込用紙・クレジットカード

FAXでのお申込み

03-3796-2108

お支払い方法 : 振込用紙払い

閉じる