「ハガキを書いたら、手に入らんものはないくらいです」 坂田道信さんの世界

ハガキを書く――この、日常の言わば何でもないようなことを継続・実践し、「ハガキ道」という道にまで高めた坂田道信さん。学問はない、裕福でもない、逆境の連続だった人生を、ハガキ一つで開いてこられました。そんな坂田さんが月刊『致知』読者限定の講演会で語った内容は、「人生のコツ」とも言うべき教えで溢れています。

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弱くても生きられる文化

〈坂田〉
その人の実力は友達の数である――。頭、悪くてもいいんです。頭のいい人を友達にすればいい。お金、なくてもいいんです。お金持ちを友達にすればいい。国語ができない人は、国語ができる人を友達にすればいい。友達をつくる技術が生きる技術です。

私たちの先祖は友達づくりの技術を、躾(しつけ)という形で伝えたんです。挨拶一つできない人に、友達はできません。返事一つできない人に、友達はできません。履物を揃(そろ)える、立つ時机に椅子を入れる。これは約束を守るということに通じます。この躾の三原則を教えたら、親としての義務は9割以上果たせるんです。

テストの成績が悪いとかそんなことは、走りっこが一番か四番かという程度の問題です。走りっこが一番でも四番でも、人生には関係ないだろう? ところがいつからか私たちは、テストでいい成績を取れる人が幸せになれるという錯覚を起こしたんだよな。

私の若い頃、結婚は90%以上が見合いでした。年寄りは、結婚する女は器量よしがいいだの、頭がいいだのとは言わなかった。見合いの相手が履物を揃えとったらパス。これは凄いよね。

私はこれまで生きてきましてね。世間の人が持っとるものさしとは、違うものさしで生きたほうが幸せになれることが分かったんです。

それは森信三(もり・しんぞう)先生の言われる「全一学(ぜんいつがく)」というものさしです。分かりやすく言ったら「易(えき)」です。科学のものさしでなしに、易。科学のものさしは得てして西洋からきたものですから。

人と競争しないのが利口なあり方です。競争したら絶対に弱い者が負ける。勝った人でも、その上にもっと強い人が現れていつか負ける時がくる。

人間の感情の中で、悔しい思いが一番危険なんです。恨みを買わない生き方が一番の基本です。

西洋のものさしの価値観では、相手より強くならないと生きられないんです。資本が大きい、従業員が多い、誰それはこんないい家に住んでいる……、どれも相手より強く、大きくなるところに価値を置いています。

ところが世界の中で、日本だけが弱くても生きられる文化をつくり上げたんです。技――。西洋には技という概念がありません。自分が相手より強くならないと生きられんのですから。でもこの技があれば、相手が強ければ強いほどいいんです。その分、相手の力を利用して生きられるんです。

ハガキ道というのは、技の文化です。頭のいい人は絶対に複写ハガキを書きません。一対一だから手間がかかる。お金がかかる。だから頭のいい人は、効率や能率を考え、一対千といった接し方をするんです。

すべてのものに拝まれている

いま、私はマイクに助けられとる。椅子に助けられとる。服に助けられとる。眼鏡に助けられとる。女房に助けられとる。子どもに助けられとる。近所の人に助けられとる。私が有名になったのはね、皆さん方が一枚一枚、毎日せっせと手紙を書いてくださったからなんです。

そうやって、すべてのものに拝まれとるなぁ、と気がついたんです。でも私は拝み返したことがなかったんだよな。俺はハガキを書くんだよ。日本一だよ。100万円以上使うよー言うて、恥ずかしいぐらい、自慢する言葉を口にしてきたんです。

ところが60歳を過ぎてだんだん体力が衰えてくるだろう。あ、拝み返すことが必要だなぁ、と坐禅断食をしながら気がついたんです。拝み返すことができるようになって一人前です。限りなく拝まれとる世界に対してね。

私たちは拝まれとる存在。拝み返すというのは、「感謝」をすることでもいいんです。ハガキ道というのは、拝み返す世界です。ハガキを書いたら売り上げが上がるとか、いいことがいっぱいある、手に入らんものはないくらいです。でもそれは表面的なことです。

裏には、命を与えてくださった人に対して限りない感謝の心が溢れている。24時間拝み返す世界へ入った時に、びっくりするくらいにそのことを感じました。

よく私たちはツイとる、ツイとると言うでしょ。年に数回はツイとることが起こるでしょ。自分の実力以上のことが起こるでしょ。でも私は感謝することを知ったおかげで、毎日がツイとる人生を歩かせてもらえるようになりました。


(本記事は月刊『致知』2008年7月号 特集「不撓不屈(ふとうふくつ)」より一部を抜粋・編集したものです)

◉『致知』2023年6月号 特集「わが人生の詩」に坂田さんの講話録が掲載◉

去る3月14日、ハガキ道伝道者・坂田道信さんがお亡くなりになりました。ハガキを書くという日常のありふれた営みを、道にまで高めた坂田さん。弊社開催の講演会にて、独特の名調子に乗せ披露された唯一無二のお話は、そのまま坂田さんの〝わが人生の詩〟であるように思えます。その声に、改めて心耳を澄ませたいものです。

〝1枚のハガキが相手のところに届くことによって、新しい運命が開けてくる。そこが大事なところなんだよなぁ〟坂田道信(ハガキ道伝道者)

≪致知電子版≫でも全文お読みいただけます

◇坂田道信(さかた・みちのぶ)
昭和15年広島県生まれ。県立向原高校を卒業し、農業の傍ら大工見習いとなる。46年森信三先生と出会い複写ハガキを始める。ハガキによるネットワークを確立し、講演などで全国を飛び回る一方、食への関心を深め、自宅を開放した半断食、坐禅断食の会や料理教室を開催。著書にハガキ道に生きる』『この道を行く(共に致知出版社)などがある。

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