夢は思い続ければ必ず実現する。演出家・宮本亞門の20代

世界を舞台に活躍し続ける演出家の宮本亞門さん。10代の頃に抱いた「演出家になる」という夢を決して諦めることなく、歩みと挑戦を続け、実現させてきました。宮本さんが語る悩みの連続だったという20代、そして若者への熱いメッセージ。

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絶対に夢を捨てない

〈宮本〉
前略) ロンドンでダンスレッスンを受け、演劇を勉強してはいるものの、ただの観光客と同じで、まだ何も成していないではないか──。まずは自分で作品をつくらなければ駄目だ。そう考えてすぐに帰国し、企画書を持って営業に回りました。

ところがほとんど門前払い、企画が日の目を見ることはありませんでした。舞台に出演したり、振り付けの仕事をして何とか生計を立て、気がつけば28歳の後半に突入していました。

「僕にはやっぱり無理なんだ。大体、日本人は永遠に劇団四季と宝塚が一番好きなんだ。僕の出る場なんかないんだよ!」

そう仲のよかった女性に電話で愚痴をこぼした時のこと。彼女は語気を強めて言うのです。

「あなたはなんて生意気になったの。何も世に出していないのだから分からないじゃない。何かを見せないで、誰があなたを評価するの?」。

売り言葉に買い言葉で、「分かったよ! 何かつくればいいんだろ、つくれば!」、そう声を荒げて電話を切ったのを覚えています。

この悔しさをバネに自分でゼロから行動しようと発心し、悩む間もないほど無心で台本をつくり上げました。誰かを頼りにするのではなく自らキャスティングや構成を手掛け、一つの作品を完成させたのです。

それが僕の演出家としてのデビュー作『アイ・ガット・マーマン』です。1987年4月、29歳の時でした。

『アイ・ガット・マーマン』はブロードウェイの女王、エセル・マーマン(1908~1984年)の激動の人生を描いたミュージカルです。彼女はナイトクラブの一出演者から大スターに昇り詰めましたが、私生活では子供の死や離婚、誹謗中傷など様々な苦難が押し寄せます。

ミュージカルの舞台ではその人のすべてが演技に表れるため、生半可な覚悟で人を感動させることはできません。そんな世界で己の身を削りながらすべてを曝け出し、人を楽しませることに人生を懸けたマーマン。その生涯を通じて、「何があっても、もうひと踏ん張りする」という気概や「生きる素晴らしさ」を伝えたい。その願いを込めてつくり上げました。

主人公に重ねた母の生き方

〈宮本〉
実は、マーマンの姿には亡き母の生き方を重ねています。

母は何度も死の宣告を受けながらも、体調が回復する度に経営していた喫茶店で最後まで笑顔で働き、人生を全うしました。母に限らず、皆それぞれ人知れず辛い過去や痛みを持っているものです。それに屈せず、逆境を糧として生きる大切さを届けようと苦心しました。

製作にあたっては、稽古場の代わりに安価な区民センターの一室を借りていたため、毎日集合時間前に行って、部屋にある机や椅子を片づけ皆を迎えるところからのスタート。資金繰りからチラシ配りまで、僕がすべてを担いました。

そうして迎えた初演は築地にある150名規模の小さな劇場でした。3日間の日程で、初日は半分ほどしか席が埋まらなかったものの、噂が噂を呼んで2日目は満席、そして3日目には何と立ち見客が出たではありませんか。閉幕後はあっという間に再演が決まり、翌年には文化庁芸術祭賞を受賞。一躍、注目の的となったのです。

僕は演出家として有名になりたかったわけではありません。人間不信になった過去を持ちながらも、いまこうして生きている奇跡、人生の素晴らしさを一人でも多くの人に届けたい。その一心で無我夢中に走り続けてきました。

29歳でようやく夢を叶えることができましたが、途中弱気にもなりましたし、ぶれそうになったこともありました。

しかし、絶対に夢を捨てなかった。僕が唯一したことはそれだけです。夢は自分の思い描いたタイミングでは来ないかもしれません。それでも、思い続ければ必ず実現する、そう身を以て学びました。


(本記事は月刊『致知』2021年6月号 連載「二十代をどう生きるか」より一部抜粋・編集したものです)

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◇宮本亞門(みやもと・あもん)
昭和33年東京都生まれ。6229歳の時に『アイ・ガット・マーマン』で演出家デビューを果たし、現在はミュージカル、ストレートプレイ、オペラ、歌舞伎など、ジャンルを越える演出家として国内外で幅広い作品を手掛ける。平成16年には演出家として東洋人初のニューヨークのオン・ブロードウェイにて『太平洋序曲』を上演、同作はトニー賞4部門でノミネート。令和2年、コロナ禍で立ち上げた「上を向いてプロジェクト」が注目を集める他、同年10月には演出を手掛けたミュージカル『生きる』を再演。著書に『上を向いて生きる』(幻冬舎)など多数。

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