2021年04月10日
カトリックへの深い信仰、ダウン症をもって生まれた息子・周君への愛に満ちた眼差しから、人々の心に寄り添う珠玉の詩を綴り、いま写真詩集『天の指揮者』で話題を集める詩人・服部剛さん。本連載では、詩作や詩集の出版のみならず、朗読会や講演活動など多方面で活躍を続ける服部さんに、心にあたたかい灯をともす詩と共に、コロナ禍を生きる人々へのメッセージを寄稿していただきます。連載第3回では、詩『禅の教室』を通して、心を「空」にしていまを生き切るヒントを学びます。
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ゆだねる、という生き方
詩:『禅の教室』
夕暮れの無人の教室に入った私は
黒板に白いチョークで
自分のからだを描き
胸には 我 と一文字、書いてみる
( その顔は、何処か悩んでいるようで )
黒板消しでさっと 我 の文字を消し
代わりに ○ い入口を書いてみる
( そこに密かな風は吹き )
夕陽に染まり始めた教室で
椅子に座り、机の上に開いた古書は
惑う私に語りかけ
――心の窓を開いたら
吹いてくる
あの風に
あなたの生をまかせなさい
夕闇の誰もいない教室で
私は古書をぱたんと閉じて、目を瞑る
無心で命を輝かせる
〈服部〉
2度目の緊急事態宣言が解除された3月22日以降も、新型コロナウイルスの感染被害は収まらず、第4波が懸念されています。そのような状況下でも例年通りに桜は咲き、散り始め、時は流れています。
戦後の昭和~平成~令和という変遷において、総じて本来の宗教心が薄れていったように感じます。元来、日本人は自然が織り成す四季の風景に心を響かせる感性をもっていました。自然を愛(め)で、敬い、畏れ、両手を合わせて感謝を祈るのは、日本人らしい心です。山の頂で仰ぐ空はひとつであるように、神道も仏教もキリスト教も長い歴史があり、深い領域で響き合うものがあります。
今回、宗教についてふれる理由は、コロナ禍の時代を生きる私たちは人間古来の宗教心・自然心へと回帰してゆくかもしれない――と思うことにあります。家にいる時間が増え、外出する時はマスクを着け、手を消毒し…… コロナの感染拡大前とは変化せざるを得ない暮らしの中で、この出来事は沈黙の内に、私たちに何かを問いかけている気がします。
私が尊敬する作家の遠藤周作(1923~1996)には、井上洋治(1927~2014)というカトリック司祭の同志がいました。両者は西洋を経由して日本に入ってきたキリスト教を見直し、「日本人の心に響くキリスト教」について生涯をかけて探究しました。
私は在りし日の井上師の講話を聴き、今も心に残る一言があります。それは井上師が、良寛・松尾芭蕉・宮沢賢治と、イエス・キリストに通じる生き方として、聴衆に語った「風に己をまかせきって、生きる」という言葉です。草花も、小鳥も、空の雲さえも、目には見えない風にゆだねて、無心で命を輝かせているように。
私は心を空にして、祈ります。不安を数えればきりのない時代の中で、目の前に与えられ、生きている〝今〟を信じ、人々に小さな希望が見出されることを願って。
※連載第4回は5月中旬の配信を予定しています。
◇服部剛(はっとり・ごう)
昭和49年東京都生まれ、神奈川県育ち。平成10年より本格的に詩作・朗読活動を始める。日本ペンクラブ会員、日本文藝家協会会員、日本現代詩人会会員、四季派学会会員。詩集に『風の配達する手紙』(詩学社)『Familia』(詩遊会出版)『あたらしい太陽』(詩友舎)『我が家に天使がやってきた』(文治堂書店)、近刊に『天の指揮者』がある。ブログ「服部剛のポエトリーシアター」、フェイスブック、ツイッター、ユーチューブチャンネル「服部剛の朗読ライブ」などで詩や思いを綴る他、朗読や講演活動も行っている。
★服部剛さんが自ら人生を振り返りつつ、詩人としての原点、ダウン症の息子・周君への思いを語っていただいた『致知』の記事はこちら!
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