【限定連載 第1回】心に灯をともす 服部剛の「詩の贈り物」 ~『私が生まれる前に』~

カトリックへの深い信仰、ダウン症をもって生まれた息子・周君への愛に満ちた眼差しから、人々の心に寄り添う珠玉の詩を綴ってきた詩人の服部剛さん。本連載では、詩作や詩集の出版のみならず、朗読会や講演活動など多方面で活躍を続ける服部さんに、心に灯をともす詩と共に、コロナ禍をよりよく生きるためのメッセージを寄稿していただきます。第一回は、詩『私が生まれる前に』を紐解きながら、改めて生きること、命の尊さについて考えます。

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今、いのちの尊さを想う

詩『私が生まれる前に』

私が生まれるより前に

戦地に赴き病んで帰って間もなく

若い妻と二人の子供を残して世を去った

祖父の無念の想いがあった

 

私が生まれるより前に

借家の外に浮かぶ月を見上げ

寝息を立てる子供達を女手一つで育てた

若き日の祖母の切なる祈りの夜があった 

 

私が小学生の頃

嫁・姑の確執で家を出そうな夜も

二人の子供の寝顔を見ては

じっと耐える母の姿があった

 

私が中学生の頃

会社が倒産し、この世の荒波に呑まれても

妻と二人の子供を守るために

泳ぎ続けた父の姿があった

 

私がこの世に生まれた日

窓から朝日の射す病室で

ベッドで横たわる母に抱かれた私の傍らで覗き込む 

幼い姉の歓びに躍るまなざしがあった 

 

私がこの世に生まれた日     

視界では見渡せない青空から

両手に溢れるほどそそがれていた

目には見えない光

 

私が生まれるより前に

無数の人生の物語があり

どれほどの幸福と悲劇があったのか

 

私はこの道を歩む

「大いなる過去」から

吹いてくる風に、背中を押されながら

 

空から舞い降りてきた一通の手紙を懐(ふところ)に入れて

旅の途上で出逢う「もう一人の私」を

夢の旅路に探して

※詩集『Familia』(誌遊会出版)より

私が詩を書き始めた十代の頃、八木重吉の詩集を開くと、読者を友として語りかける序文がありました。私も同じように、かけがえのない友に手紙を綴る気持ちで、この連載を始めます。

今回の詩『私が生まれる前に』を書いた私自身にも、両親・祖父母・曾祖父母……と、数えきれない祖先の歴史があります。〝今・ここ〟に私のいのちが在ることを想うと、<この人生を大切に――>という、不思議な祈りが胸の奥から湧いてきます。

私の祖父は、戦後に心身を病み、妻と子供たちを遺して世を去りました。それから幾十年の間、私たち家族は「ここぞ」という時に救われるたび、黄泉の国にいる祖父の存在を感じずにはいられませんでした。<若くして世を去った祖父の分も、生きよう> そう思えるのです。

人にはそれぞれ、日々をそっと見守る「かけがえのない死者」がいるのかもしれません。

昨年より新型コロナウイルスの感染拡大が続き、希望の糸口が見出せない現在です。すぐに解決することが難しい局面にありますが、あえて私は今回の詩の中にある「物語」という言葉に心を向けてみたいと思います。

時に、私たちの人生を俯瞰(ふかん)した位置から眺めることが大切かもしれません。過去には戦争や災害があり、今、コロナ禍による試練があります。もし、この出来事が物語の過程(プロセス)であるならば……この日々により良い物語の続きがあることを心から願い、最初の手紙とさせていただきます。

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※連載第2回は3月中旬の配信を予定しています。


◇服部剛(はっとり・ごう)
昭和49年東京都生まれ、神奈川県育ち。平成10年より本格的に詩作・朗読活動を始める。日本ペンクラブ会員、日本文藝家協会会員、日本現代詩人会会員、四季派学会会員。詩集に『風の配達する手紙』(詩学社)『Familia』(詩遊会出版)『あたらしい太陽』(詩友舎)『我が家に天使がやってきた』(文治堂書店)、近刊に『天の指揮者』がある。ブログ「服部剛のポエトリーシアター」、フェイスブック、ツイッター、ユーチューブチャンネル「服部剛の朗読ライブ」などで詩や思いを綴る他、朗読や講演活動も行っている。

★服部剛さんが自ら人生を振り返りつつ、詩人としての原点、ダウン症の息子・周君への思いを語っていただいた『致知』の記事はこちら


 

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