【限定連載 最終回】 寝たきり社長の一日一生—— 「未来をひらくために大事なこと」仙拓社長・佐藤仙務

10万人に1人が発症する難病・脊髄性筋萎縮症(SMA)を持って生まれながらも、決して諦めることなく新たな挑戦を続け、自らの人生を力強く切り拓いてきた佐藤仙務さん。唯一動かせる一本の指を自在に駆使して、会社経営を始め、講演活動、大学講師、YouTubeチャンネル「ひさむちゃん寝る」の運営など、多方面で活躍されています。本連載では、そんな佐藤さんに毎月第一月曜日に、「逆境」「忍耐」「挑戦」「勇気」「希望」「出会い」などをテーマにいまをより生きるヒントを語っていただきます。最終回となる今回は、自らの人生、未来をひらいていく心の持ち方、そしてこれからやってくる新しい社会をどう生きるかを語っていただきます。※取材・編集・致知編集部

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大事なのは前に進もうとする心の姿勢

これまで続けてきたWEBchichi限定連載「寝たきり社長の一日一生」も、今回でいよいよ最終回(第5回)を迎えた。限定連載を通じて、『致知』や「人間学」に興味・関心を持たれている方々、また、紙媒体をあまり読まない若い世代の方々にも自分の考え方や思いを広くお届けできたことは本当に嬉しい限りだ。

さて、最終回に選んだテーマは「未来をひらく」。皆さんが自分自身の可能性を信じて、未来に希望をもって新年を迎えられるような体験談、メッセージをお伝えできればと思う。

とにかくいまは時代がものすごいスピードで変化している。私が生まれてからまだ30年ほどしか経っていないが、自分が子供の頃といまを比べてもその変化には驚くべきものがある。

特に強く実感しているのは、私が生まれた30年前はいまと違って障碍者が表に出たり、社会で働いたりする時代ではなかったということだ。健常者として生まれた兄弟と同じように、私も普通の学校に通いたい、会社で働きたいと思っていたが、30年、20年前はそういうわけにもいかなかった。障碍者は養護学校に通うしか道はなかったし、養護学校を卒業しても働く場所すらなかったのだ(いまでもそのような現実に直面している方もいらっしゃるかもしれない)。

ただ、私はそこで決して絶望だけはしなかった。人生を諦めることだけはしなかった。確かに養護学校にしか通えないかもしれないが、「ではその与えられた条件の中で自分になにができるのか」「ではどうしたら目の前の壁を突破できるか」と常に考え、行動に移してきた。その結果、もちろん周囲の温かい支えやテクノロジー・医療の進歩があってのことだが、いまこうして私は社長として仙拓という会社を経営することができ、連載の執筆や講演活動にも取り組むことができている。

だから、自らの人生、未来をひらくために何より大事なのは、いかなる壁に直面しても決して絶望せず、前を向いて進もうとする〝心の姿勢〟と〝行動力〟なのだと実感している。

私のそのような心の姿勢、行動力はどこで養われたのかといえば、一つには幼い頃から「小さな成功体験」を積み重ねてきたことが大きかったと思う。

例えば、子供の頃、兄弟がコンピューターゲームで楽しそうに遊んでいても、私は障碍のため手足が自由にならず一緒にプレーすることができなかった。しかし、父親がゲーム機をちょっと改造してくれたことで私も遊べるようになったのだ。また、中学生の頃には、電動車椅子を操作して「電動車椅子サッカー」を楽しんでいたのだが、病気が進行して次第に手が動かなくなり、電動車椅子に乗れなくなってしまった。しかし、手が無理ならと発想を転換し、口で電動車椅子を操作する技術を活用することで再びプレーできるようになったのだ。

壁や困難があっても、心の持ち方や行動を変えることで突破することができる――こうした経験、小さな成功体験の積み重ねが「やればできる」「行動すれば現実は変えられる」という私の心の姿勢を養ってくれたのである。

人と比べず自分を好きになる

そして、もう一つ自分の人生、未来をひらくために私が大事にしてきたのが「人と自分を比べない」ことだ。

確かに自分の目標を達成する、仕事で結果を出すためには、絶えず人と比べて競争する、努力することは大切だ。しかし、人と比べることは、自分を追い詰めることにもなるし、何よりも往々にして他人を羨むこと、〝嫉妬〟へと繋がってしまう。

私は自分よりも遥かに素晴らしい才能を持っている人が嫉妬することで人間関係、人生をだめにしてしまった、未来を閉ざしてしまったという事例をこれまでにたくさん見てきた。だから、難病よりも障碍よりも、何より人生において嫉妬ほど恐ろしいものはないと私は思ってきた。せっかく自分の夢や目標を実現していくのなら、なるべく人と比べない、嫉妬しない方法がいいことは間違いない。

では、どうしたら人と比べること、人生をダメにする嫉妬から逃れることができるのか。それは「自分を好きになること」だと思う。「あの人はいいな」「あの人のようになりたいな」ではなく、「あの人もいいけど、自分のことも好きだからもっと努力しよう」と思えるようになれば、嫉妬の感情は自然となくなっていく。だから、私は常に「自分のことが好きだ」という感情をモチベーションにして人生にも仕事にも向き合い、道をひらいてきた。

とはいえ、「佐藤さんは障碍をもって生まれてきて、健常者と比べてできないことがたくさんあるのに、どうやって自分を好きになれたのですか?」と率直な質問をしてくる方もいる。もちろん、私も障碍のある自分のことが好きになれない時期もあったし、健常者と自分を比較しようと思えばいくらでもできた。しかし、だからこそ自分を好きになる努力を人一倍続けてきたのだ。

例えば、「自分との約束を守る」というのもその方法の一つ。仕事などでお客様との約束を守るのは当たり前だと多くの人が思っているが、意外と自分が自分とした約束を守ろうとする人は少ない。午前中に「よし、きょうこれを絶対にやろう」と決めていても、「やっぱり疲れたからいいや」と、何だかんだ理由をつけて後回しにしてしまう、ということはよくあるはずだ。

しかし、そうした小さな自分との約束をきっちり守っていくことが、自分への小さな自信=信頼感へと繋がり、最終的には「自分もやればできるじゃないか」「自分は自分のことが誇らしい、好きだ」という感情に繋がっていく。

皆さんも誰かと比べるのではなく、誰かを嫉妬するのではなく、自分を好きになる努力を積み重ねて、自分の中にモチベーションをもって明るい人生、未来を切りひらいていただきたいと思う。

 

一人ひとりに必ず役割がある

今年はコロナ禍によって働き方や日常生活が大きく変わった一年だった。特にIT、インターネットの重要性はますます高まり、健常者、障碍者問わず多くの人がネットでの買い物やリモートワークなどを体験し、「こんな生活、働き方ができるんだ」ということに驚き、気づいた一年だったと思う。

特に働き方において、毎日満員電車に揺られて通勤し、月曜日から金曜日まで会社にいなければ仕事ができないという常識は覆されつつある。コロナ禍では、むしろ従来からITツールを駆使して在宅で働いていた障碍者が、健常者よりも自由に仕事ができるという事態が生じた。つまりコロナ禍では、健常者が思うように働けない障碍者のような状況になったわけだ。

そして、人と人とが直接接触しづらい、直接サービスを受けづらい時代になったことで、これからの事業、サービスはただ単に「もの」を売るのではなく、それに関する「物語」「ストーリー」を一緒に売り、人々に独自のメッセージと共感を与えていくことがより重要になってくるのではないかと感じている。

実際、私がいま社長を務めている仙拓も、ただ単に名刺制作やホームページ制作を請け負うだけの会社だったら、ここまで続いてこなかったはずだ。「自分は障碍者だけれども、健常者と同じように働いて自立したいとの思いで会社をつくった」「事業を通じて健常者も障碍者も共にいきいきと働ける社会を実現したい」。そのようなメッセージ、ストーリーを一緒に発信してきたからこそ、数多ある同業者の中から当社のサービスを選んでいただいてきたのだと思う。

健常者も障碍者も、人間はそれぞれが必ず何らかの役割、物語を携えてこの世に生まれてくる。その役割、物語をジグソーパズルのように組み合わせることで、一つの社会という素晴らしい絵が完成する。本来、皆が同じ価値観のもとに生き、同じ働き方をする必要は全くないのだ。

テクノロジーの進歩、コロナ禍による価値観・働き方の変化は、誰もが与えられた役割、物語を全うできる社会を実現する大きな可能性を持っている。私もまた自らの人生、事業を通じて、障碍者でも自律して働いていけることをもっと広く発信し、誰もが幸せに働き、生きていける平和な社会を実現していくべく、これからも力を尽くしていきたい。

それが私の使命であり、この世に生まれた役割なのだと思っている。


◇佐藤仙務(さとう・ひさむ)
平成3年愛知県生まれ。4年SMA(脊髄性筋萎縮症)と診断される。22年愛知県立港特別支援学校商業科卒業。当時障碍者の就職が困難であるに挫折を感じ、ほぼ寝たきりでありなが23年ホームページや名刺の制作を請け負う合同会社「仙拓」を立ち上げ、社長に就任。著書に『寝たきりだけど社長やってます』(彩図社)『寝たきり社長 佐藤仙務の挑戦』(塩田芳享著、致知出版社)、共著に『2人の障がい者社長が語る絶望への処方箋』(左右社)などがある。公式YouTubeひさむちゃん寝るでも情報発信中。


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