猛反発するアメリカ子会社との闘い——稲盛和夫“京セラフィロソフィ”樹立の原点《中編》

京セラやKDDIを創業して世界的企業に育て上げ、さらには経営破綻したJALの会長に就任して復興を成し遂げた稲盛和夫氏。「新・経営の神様」とも称される氏の経営の根底には、「京セラフィロソフィ」とよばれる確固たる哲学がありました。
「両親の教え」に原点があるというフィロソフィは、京セラが世界的企業へと成長を遂げる中で、日本国外の子会社にも波及していくことになります。中編では、“国境を越えた経営哲学の共有“というテーマで、稲盛氏に過去のエピソードを振り返っていただきました。

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人間としての正しい道を貫く

ただ、社員に対しては、「自分は子供の時分に両親に叱られたことを基準にして判断している」と言ったのでは、あまりにも権威がなさ過ぎると考えて、「原理原則で判断をします」という言い方をしました。

「原理原則」というのは、わかったような、わからないような言葉です。社員からも「原理原則ってなんですか?」とよく聞かれました。そこで私は、「原理原則というのは、人間として何が正しいかということです。私は、全ての判断をそれに準拠して行います」と宣言しました。

企業が儲かるか儲からないかではなく、ましてや自分が損か得かということでもなく、人間として何が正しいのかを基準にして判断をしていく、またどんな障害があろうと、その正しいことを貫いていこうと思うと宣言したのです。

このように私は、大変プリミティブな、ある意味、大変幼稚な考え方を判断基準にしたわけですけれど、その原始的な倫理観に裏打ちをされた判断基準が正しかったからこそ、今日まで京セラは発展したのだと思っています。

もう1回繰り返しておきますと、経営者の条件として、まず哲学が必要です。ただし哲学といっても難しいことを言っているわけではありません。人間として正しいことを基準にして物事の判断をすべきであるということです。それは損得勘定でもなければ、戦略戦術論でもありません。それは人間として正しい道を歩くということです。それが必要なのです。

では、その人間として正しい道というものがどこにあるのかというと、その原点は子供のころ、両親から「これはやっていい」と教えられ、「これはやってはいけない」と叱られたことです。それが判断基準になるのです。

いや、自分はもっと高度なものを求めたいと思われる方は、宗教が説く厳しい倫理観を基準にされるのもいいでしょうし、哲学者が説く哲学的な基準を参考にされるのもいいでしょう。できれば、なるべくレベルの高いものを基準にされることを私もお勧めしますが、原点は両親の教えにあるということです。

この「人間として正しいことを貫く」ということが、まずは経営者の条件の1つとなるのです。

アメリカ子会社に求めた哲学の共有

1990(平成2)年、アメリカ東海岸のサウスカロライナにあるAVXというニューヨーク証券取引所に上場していた会社を買収して、京セラの子会社にしました。数千人の従業員がいる大きな会社です。

アメリカにある会社ですが、京セラの100%子会社になったときから、哲学を共有しなければならないと私は考えました。

日本の京セラが持っている哲学と、資本主義のメッカであるアメリカ企業の会長や社長が持っている哲学が共通であるはずはありません。それでも、彼らと哲学を共有しようと、私は考えました。

私の「人間として何が正しいのか」という判断基準の原点は、両親の教えにあると言いましたが、長ずるに及んで私は、仏教をはじめとする宗教や中国古典などに触れるようになり、「人間として正しいこと」はより明快なものとなってきました。

私はそのような自分の考えを、『心を高める、経営を伸ばす』(PHP研究所刊)という本にまとめたのですが、その本を英訳しまして、買収した会社の会長・社長、幹部社員に読んでもらうことにしました。そして、それをもとに一度京セラの経営哲学を共有するためにディスカッションをしようということになり、アメリカに乗り込んでいきました。

英訳をしてくれたのは、現地にある京セラインターナショナル(KII)という子会社の副社長をしてくれていた人です。彼はオレゴン州立大学の経営学の教授をした経験があり、京セラのアメリカ法人の教育担当でもありました。その副社長がディスカッションの前日、私に「大変です」というのです。英訳した本を1週間前に渡して読んでもらい、感想を提出してほしいと言ったところ、皆、感想文を寄こしてきたというのです。ところが、その内容が大変だというのです。

要するに、「こんなとんでもない思想を押しつけられたのではたまらない。我々は資本主義社会で鎬(しのぎ)を削っているのに、こんなおかしな東洋哲学を持ってこられてはたまったものではない。我々はお金のために働いているのに、この本には『お金のために働いてはいけません』と書いてある。こんなばかげた話はない」というわけです。

その副社長は、ディスカッションを1日半くらいの予定で行おうと計画していたらしいのですが、このままでは収拾がつきそうにないというので、半分くらいの時間に縮めたいと申し出てきました。私は「もとのままでいい」と言って、ディスカッションに入ったのです。

《次回に続く》

前編はこちら

(本記事は『成功の要諦』(稲盛和夫・著)の一部を抜粋・編集したものです。)

◇稲盛和夫(いなもり・かずお)
――昭和7年、鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。34年、京都セラミック株式会社(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、平成9年より名誉会長。昭和59年には第二電電(現・KDDI)を設立、会長に就任、平成13年より最高顧問。22年には日本航空会長に就任し、代表取締役会長を経て、25年より名誉会長。昭和59年に稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった方々を顕彰している。また、若手経営者のための経営塾「盛和塾」の塾長として、後進の育成に心血を注ぐ。主な著書に『「成功」と「失敗」の法則』『人生と経営』『何のために生きるのか』(共著/いずれも弊社刊)『生き方』(サンマーク出版)『従業員をやる気にさせる7つのカギ』(日本経済新聞出版社)『成功への情熱』(PHP研究所)『ど真剣に生きる』(NHK出版)『燃える闘魂』(毎日新聞社)などがある。

『成功の要諦』(稲盛和夫・著)

定価=本体1,650円(税込)

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