2020年07月05日
京セラやKDDIを創業して世界的企業に育て上げ、さらには経営破綻したJALの会長に就任して復興を成し遂げた稲盛和夫氏。「新・経営の神様」とも称される氏の経営の根底には、「京セラフィロソフィ」とよばれる確固たる哲学がありました。
「両親の教え」に原点があるというフィロソフィは、京セラが世界的企業へと成長を遂げる中で、日本国外の子会社にも波及していくことになります。後編では、“国境を越えた経営哲学の共有”というテーマで、稲盛氏に過去のエピソードを振り返っていただきました。
【特集「追悼 稲盛和夫」を発刊しました】
2022年8月24日、稲盛和夫・京セラ名誉会長が逝去されました。35年前、1987年の初登場以来、折に触れて様々な方との対談やインタビューにご登場いただくのみならず、たくさんの書籍の刊行、数々のご講演を賜るなど、ご恩は数知れません。
生前のご厚誼を深謝し、月刊『致知』12月号では「追悼 稲盛和夫」と題して特集を組みました。豪華ラインナップは以下特設ページよりご覧ください。
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国境を超えて通じ合う、あるべき人間の姿
ディスカッションでは、「本の何ページの文章は受け入れられません。こういう考えを押しつけられるのだったら、我々は一緒に経営できません」というような反論が次々に出ました。200人くらいの幹部が集まっていましたが、私は1人で彼らの意見に答えていきました。
たとえば、先ほども言ったように、「人間はお金のために使われてはいけません」という項目がありました。それを彼らは「とんでもない」というわけです。そこで私は「皆さんもそうは思いませんか?」と問いかけました。
「確かにお金のために使われてはいけないといっていますが、日本と同じような状態で働いてくれ、とは一言もいっていません。アメリカの経済的慣習も勘案しています。この国で、お金がインセンティブになって経営者のモチベーションを高めていることもよく知っています。皆さんがアメリカで持っておられるビジネスの常識は、それはそれで実行しようと思っています」
と言いました。
実際に、そのAVXという会社の会長にも社長にも、私が日本でいただいている給料よりはるかに高い給料を払っているのです。
そして、私は彼らにこう尋ねました。
「しかし、資本主義社会の中にあっても、ある人が休日も教会の仕事をボランティアでやっているとしたら、『あの人は立派だ』と皆さんの社会では言いませんか? 言うでしょう。私はそのように、お金に釣られて仕事をやるよりは、お金を度外視して働くことが立派だと言っただけなのです。皆さんにはそれが納得できないのでしょうか?」
そう言うと、彼らは「それは納得できます。お金目当てではなく、一所懸命に奉仕活動をしている人は立派だと我々も思っています」と同意してくれました。
このように、彼らの質問1つ1つに丁寧に受け答えをして、私は彼らの反論を次々に論破していきました。そうしたところ、その会社の会長と社長が夜遅く私のところにやって来て、こう言いました。
「今日の話はよくわかりました。あなたの言うことは、我々が今まで少し忘れかけていたことかもしれません」。
経営者が持つべき哲学とは
買収したばかりのアメリカの保守的な企業の幹部経営者たちが私の思想に共鳴したのを見て、私とともに20年間アメリカで経営してきた京セラインターナショナルの幹部たちはびっくりしていました。「自分たちは稲盛和夫の思想がよくわかっていなかった」と反省をして、彼らまでもが変わりはじめたのです。
その結果、何が起こったかと言いますと、会社を買収して6年間で売り上げが3~4倍になり、利益は6倍になりました。そして再度、ニューヨーク証券取引所に上場したのです。
このように、会社の経営哲学の共有は、たとえ民族が違い、歴史が違い、言語が違う海外であっても可能なのです。それをお話するために、少し自慢話みたいなことを言わせていただきました。
繰り返しますが、経営者の条件として哲学が必要です。そして、その哲学とは「人間として何が正しいのか」ということが原点になります。「人間として何が正しいのか」という問いは、哲学問答であると同時に、経営者が持つべき哲学を確立することにもなると、私は考えています。
◇稲盛和夫(いなもり・かずお)
――昭和7年、鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。34年、京都セラミック株式会社(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、平成9年より名誉会長。昭和59年には第二電電(現・KDDI)を設立、会長に就任、平成13年より最高顧問。22年には日本航空会長に就任し、代表取締役会長を経て、25年より名誉会長。昭和59年に稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった方々を顕彰している。また、若手経営者のための経営塾「盛和塾」の塾長として、後進の育成に心血を注ぐ。主な著書に『「成功」と「失敗」の法則』『人生と経営』『何のために生きるのか』(共著/いずれも弊社刊)『生き方』(サンマーク出版)『従業員をやる気にさせる7つのカギ』(日本経済新聞出版社)『成功への情熱』(PHP研究所)『ど真剣に生きる』(NHK出版)『燃える闘魂』(毎日新聞社)などがある。