松下幸之助に学んだ「運と徳」の高め方 田口佳史×西田文郎

東洋思想に基づくリーダーシップ論の第一人者として知られる田口佳史さんと、イメージトレーニング研究・指導のパイオニアである西田文郎さん。それぞれの道を究めてきたお二人が語り合う、松下幸之助に学んだ「運と徳」を高めるヒントーー。

 

リーダーに求められる思想力

(西田) 

田口先生のこれまでのお話を伺っていると、リーダーは思想力が大事だと改めて感じますね。

(田口) 

いまアメリカの一流ビジネススクールで起こっている問題も、まさにそこなんです。

従来はケーススタディ式に過去の成功事例を学んできたわけですけど、いまのような変化の激しい大転換期には、過去の成功事例は全く通用しない。MBAを取得した卒業生をぜひうちに回してくれって企業が言ってこなくなった。 

要するに、これまでは不易流行の流行に当たる技術的なものしか教えてこなかった。しかし、技術には限界がある。やっぱり不易の部分が重要で、思想哲学も教えなきゃいけないと。 

ところが、それを教えるノウハウがないものですから、いま私のところに一流のビジネススクールのトップが訪ねてきますよ。どうやって教えたらいいのかって。 

(西田) 

スティーブ・ジョブズも日本の素晴らしさに憧れて、日本に来ていたわけですからね。

(田口) 

実はジョブズとは親交がありましてね。彼は禅の大家ですよ。私が最初にサンフランシスコの禅センターに行った頃は、50名くらいしかいなかったんですけど、いまでは300名のベンチャー経営者が禅を実践しています。 

(西田) 

脳のことをやっていますと、前提条件を変えると答えが変わるってことがあるんです。で、宗教の前提条件を変えようという勉強会をやったことがありましてね。日本の神道は八百万の神ですけど、世界中の宗教のほとんどが一神教じゃないですか。 

ところが、約17万年前に生きていた旧人類のネアンデルタール人がつくったとされるストーンサークルが数年前に発掘されました。これは何を意味するかと言うと、人は宗教がない時から拝んでいたということなんですよ。そのように前提条件を変えると、人類はもともと八百万の神を拝んでいて、そこからユダヤ教やキリスト教、イスラム教といった一神教ができていったと。 

つまり、脳は拝むことを必要としているのであって、これから人工知能の時代になればなるほど、何を拝むかが非常に大切になると思うんですね。 

(田口) 

いまのお話は『易経』の偉大さを語っていただいているようなものですよ。『易経』が説いているのは、宇宙の根源を敬う心が人間の心だと。ですから、どういう民族であろうと、天を敬う心は本来共通で、そういう最高位の概念を持てば、その下にある宗教とか民族の違いで争うことはない。 

(西田) 

2020年に東京オリンピック・パラリンピックがあるじゃないですか。世界中の方が日本に来るわけですから、私はそういう日本の素晴らしさを伝える大チャンスだと思うんです。

例えば、戦時中に軍人たちは靖國で逢おうと言って死んでいきました。これは何かと言うと、命が尽きると体や心は消えてしまうけれども、魂はなくならないという教えが東洋的にあるわけですよね。だから、靖國で逢おうと言ったのは、死んでも魂が残っているから、魂となって逢おうと。 

こういうことを若い人たちに教えてあげなきゃいけないと思うんですけど、教えられないバカな大人たちばっかりになってしまっているんです。

松下幸之助に学んだ運と徳の法則

(田口)

今回の運と徳というテーマに関して、私に教えを授けてくれたのが松下幸之助なんです。

ある時、PHP研究所の岩井虔さんから、「商道コースという研修の講師になりませんか」と言っていただいたんですね。ちょうど仕事があまり来ない苦難の最中だったので、すぐに飛びついた。

それで打ち合わせの時に、「ところで、前の講師はどなたですか」と聞いたら、「松下幸之助です」と。それは荷が重いなと思って一瞬怯んだんですけど、「次は20代か30代の若い人に」という松下幸之助の強い意向があったらしいんです。

そういうご縁があって、35歳で初めて経営の神様にお目にかかった時に、「経営者の条件とは何ですか」って聞いたら、真っ先に「運が強いことや」と。矢継ぎ早に、「運を強くするにはどうしたらいいですか」と聞いたわけです。そうしたら、「徳を積むことしかない」と。これが運と徳の関係に触れた最初でした。

(西田) 

松下幸之助の薫陶を受けられたこと自体が、田口先生の運の強さの表れですよ。

(田口) 

また、徳についてはこうもおっしゃっていましたね。「徳というのはAさんに掛けて、Aさんから返ってきたことは一回もない。だからと言って、Aさんに徳を掛けなくていいかというとそうではない。どこから返ってくるか分からないから、会う人それぞれに徳を掛けなきゃいけない」。

じゃあ徳って何かということですが、私なりに東洋思想を学んで規定したのは、自己の最善を他者に尽くし切ることです。先ほど述べた道元のように、丁寧に心を込めて一人ひとりに接していけば、ありがとうと感謝され、自分が病に臥せたり仕事がうまくいかずに腐っていたりする時に、見返りなく手を差し伸べてくれる。そういう感謝の人間関係で結ばれた人が周囲に何人いますかと。

『論語』に「徳は孤ならず、必ず隣有り」とありますけど、やっぱり人間は一人では生きていけない。他者の応援が必要です。それには徳を掛けることが不可欠なんです。

(西田) 

徳を積んでいると、自ずと幸運も舞い込んできますからね。

(本記事は月刊誌『致知』2019年4月号「運と徳」から一部抜粋・編集したものです。『致知』にはあなたの人間力・仕事力を高める記事が満載です! 『致知』の詳細・ご購読はこちら

◇田口佳史(たぐち・よしふみ)

昭和17年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、日本映画新社入社。47年イメージプランを創業。東洋倫理学、東洋リーダーシップ論の第一人者として知られる。著書に『人生に迷ったら「老子」』『横井小楠の人と思想』(ともに致知出版社)など多数。

◇西田文郎(にしだ・ふみお)

昭和24年東京都生まれ。40年代から科学的なメンタルトレーニングの研究を始め、「スーパーブレイントレーニング」を構築。55年サンリ創業。経営者やビジネスマン、トップアスリートの能力開発指導に携わる。著書に『№1理論』『天運の法則』(ともに現代書林)など多数。

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