7つの金言で学ぶ 安岡正篤とドラッカー:二人に共通する「学びの姿勢」

膨大な著作や金言を通して、いまなお多くの人に影響を与え続ける思想家・安岡正篤師と経営学者・ドラッカー。両者に私淑し、自らの勉強会でその教えの普及に尽力するドラッカー学会理事の佐藤等さんは、この二人の「巨人」には、学んで生きる姿勢が共通していると指摘されます。

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活学=実践

〈佐藤〉
安岡先生とドラッカー教授の教えが驚くほど一致しているのを実感するようになったのは、『易経』(えききょう)研究の第一人者である竹村亞希子(たけむら・あきこ)先生に学んでからでした。 

竹村先生によれば、『易経』は時の変化の原理原則を説く書です。そしてドラッカー教授もその著書において時の変化、世界の変化を広く記されており、変化を見る目が人一倍優れていました。

つまり『易経』もドラッカー教授も、変化、特に兆しを知ることが重要であるという点で一致しています。 

『易経』は東洋思想の中核をなす古典であり、安岡先生の教えとも深く結びついています。そこに思い至り、私は安岡先生とドラッカー教授の教えの共通点について思索を深めてきたのです。 

ここで具体的に、安岡先生とドラッカー教授の言葉を通じて、両者の教えの共通点を見てゆきましょう。 

「人々は意識しないけれども、何か真剣で真実なるものを求めるようになる。これが良知というもので、人間である以上誰もが本具するところであります。
 致良知(ちりょうち)とは、その良知を発揮することであり、それを観念の遊戯ではなくて、実践するのが知行合一であります」(安岡正篤『人生と陽明学』)

 「自らを成果をあげる存在にできるのは、自らだけである。(中略)したがってまず果たすべき責任は、自らのために最高のものを引き出すことである。人は、自らがもつものでしか仕事はできない」(ドラッカー『非営利組織の経営』)

 「知識とは、それ自体が目的ではなく、行動するための道具である」(ドラッカー『既に起こった未来』)

 両者の著作は膨大ですが、その教えの根本は活学であり、実践である点で一致しています。さらに2つの教えは、学びの手法においても共通しています。

「一度古人に師友を求めるならば、それこそ真に蘇生の思いがするであろう」(安岡正篤『いかに生くべきか』)

 「理論化に入る前に、現実の企業の活動と行動を観察したい」(ドラッカー『現代の経営(上)』) 

ドラッカー教授の本には「IBM物語」「フォード物語」といった経済人や企業の逸話が随所に盛り込まれています。彼の著作には机上で生み出されたものは1つもなく、すべて自らの目で見たものに基づいて記されています。 

現実を観察し、1つの理想を提示し、実現を促しました。これは安岡先生がお示しになる造化の位(くらい)どり、つまり理想‐実現‐現実、天‐人‐地の教えに適っています。それは歴史や人物に学ぶことの大切を説き続けた安岡先生と共通するスタンスといえるでしょう。 

「自分を知り、自分をつくすことほど、むずかしいことはない。自分がどういう素質、能力を天賦されているか、それを称して『命』(めい)という。これを知るのを『知命』(ちめい)という。知ってこれを完全に発揮してゆくのを『立命』(りつめい)という」(『安岡正篤一日一言』) 

「自らの成長のために最も優先すべきは卓越性の追求である。そこから充実と自信が生まれる。能力は、仕事の質を変えるだけでなく人間そのものを変えるがゆえに重大な意味をもつ。能力なくしては、優れた仕事はありえず、自信もありえず、人としての成長もありえない」(ドラッカー『非営利組織の経営』)

 安岡先生の説く「知命」「立命」は、『大学』の「明徳を明らかにする」という言葉にも置き換えられ、それはドラッカー教授の「自分の持っているものを発現させる」「卓越性の追求によって社会の役に立つ」という言葉によって、より現代人にも分かりやすい教えに転換されています。


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(本記事は月刊『致知』2013年10月号 特集「一言よく人を生かす」から一部抜粋・編集したものです)

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◇佐藤等(さとう・ひとし)
昭和36年北海道生まれ。59年小樽商科大学商学部商業学科卒業。平成2年公認会計士試験合格。公認会計事務所開設。14年同大学大学院商学研究科修士課程修了。主宰するナレッジプラザの研究会として「読書会」を北海道と東京で開催中。佐藤等公認会計士事務所所長、ドラッカー学会理事。編著に『実践するドラッカー』シリーズ(ダイヤモンド社)がある。

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