9 月号ピックアップ記事 /エッセイ
奇跡の人 ヘレン・ケラーの生涯が教えるもの 福島 智(東京大学特任教授)

突然の病によって生まれて間もなく光(視力)と音(聴力)を失うという過酷な状況にも決して屈することなく、すさまじい努力と挑戦心で自らの人生を切り拓き、多くの人に生きる希望と勇気を与え続けたヘレン・ケラー。同じ盲ろう者としてヘレン・ケラーを心の支えとしてきた福島智氏に、〝奇跡の人〟と呼ばれたヘレン・ケラーの生涯と挑戦の軌跡を、実体験を交えて紐解いていただいた。
【写真=少女時代のヘレン・ケラー(左)と寄り添うアン・サリバン/Helen Keller with Anne Sullivan in July 1888(New England Historic Genealogical Society)】

人生、挑戦とは一人だけで頑張って成果を得ることではなく、常に有形・無形の他者の手助けと共にあるものです
福島 智
東京大学特任教授
病気によって私が右目を失明したのは1966年、3歳の時のことです。ただ、左目は見えていたこと、幼かったこともあり、右目を失明した実感はあまりありませんでした。ところが、小学校に入学する頃、左目にも炎症が出て、学校を休みがちになりました。
それでも、もともと楽天的な性格の私は、視力を失ってもまだ音の世界があると考え、音楽や落語などに夢中になっていました。
しかし、小学校入学後、その聴力にも異常を感じるようになったのです。私がヘレン・ケラーの存在を知ったのは、まさにそのような時でした。近所の耳鼻科を受診した帰り道に、母が子供向けの伝記『少女ヘレン・ケラー』を買い与えてくれました。1970年の1月、小学1年生の3学期のことです。
私は視力の残る左目で、『少女ヘレン・ケラー』を夢中で読みました。目が見えない、耳も聞こえない全盲ろう者でありながら、自らの人生をこんなにも逞しく生き抜いた人がいたのかと、感動を覚えました。これがヘレン・ケラーとの最初の出逢いでした。
この読書の2年後、私は左目を失明して全盲となり、さらに14歳の時に右耳の聴力まで失ったのです。やがてヘレン・ケラーとの第二の出逢いが訪れました。
進学した筑波大学附属盲学校(現・筑波大学附属視覚特別支援学校)高等部の1年生の時、ある授業で、ビデオを流す場面があったのですが、先生が流す映像を間違えて、見知らぬ女性が日本語で挨拶する音声が流れました。「日本の皆さん、こん、にちは」。先生がすぐ止めてしまったため、10秒ほどの時間でしたが、それがヘレン・ケラーが来日した時の肉声だったのです。
本記事の内容 ~全5ページ~
◇光と音を失っていく中で―ヘレン・ケラーとの出逢い
◇生来の積極性が成長の原動力に
◇優れた教師であり、天性の通訳者
◇なぜヘレン・ケラーは「奇跡の人」となったのか
◇辛苦に耐えて人生の扉をひらく
◇挑戦とは他者と共に新たなものを生み出すこと
本記事では福島さんに、ヘレン・ケラーの挑戦の人生について実体験を込めて語っていただきました。ヘレン・ケラーの生き方に、生きる勇気と希望が湧いてきます。
プロフィール
福島 智
ふくしま・さとし――1962年兵庫県生まれ。3歳で右目を、9歳で左目を失明。18歳で失聴し、全盲ろうとなる。1983年東京都立大学に合格し、盲ろう者として初の大学進学。金沢大学助教授などを経て、2008年より東京大学教授。2023年4月より現職。盲ろう者として常勤の大学教員になったのは世界初とされる。社会福祉法人全国盲ろう者協会理事、世界盲ろう者連盟アジア地域代表などを務める。著書に『ぼくの命は言葉とともにある』(致知出版社)、電子書籍に『渡辺荘の宇宙人』(素朴社)などがある。2022年11月、その半生を描いた映画『桜色の風が咲く』が公開され大きな反響を呼んだ。
編集後記
目も見えない、耳も聞こえない、言葉も話せない。その三重苦に屈せず、自らの人生を切り拓いたヘレン・ケラー。同じ全盲ろう者として日本で初めて大学教授になった福島智さんが語るヘレン・ケラーの壮絶な生き方と珠玉の教えから、困難に負けず一歩を踏み出す勇気が湧いてきます。

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