かくして我が郷土を輝かせてきた【ここにしかない宝を磨き抜く】 畦地履正(四万十ドラマ会長) 森本健次(南山城社長)

高知県四万十町と京都府南山城村。一見集客に不利な奥地にありながら、平日も賑わい、全国にファンを持つ「道の駅」がある。その躍進の源にあるのは、地元に深く根ざし、その魅力を内外に発信する〝地域商社〟の挑戦と努力だ。それぞれの地域を牽引してきた四万十ドラマの畦地履正会長(右)と南山城の森本健次社長(左)、師弟関係で結ばれたお二人に地域を光り輝かせる道とは何たるかを披瀝いただく。

この時代、都市から離れていても勝負はできます。

ただし、腹を括って『ここ』に徹する地域の人がいなければ地域が輝くことはない。

地域づくりの原型は人づくりです

畦地履正
四万十ドラマ会長

〈森本〉
ああ畦地(あぜち)さん、きょうはよろしくお願いします。

〈畦地〉
1、2か月ぶりですかね。ちょくちょく会っているから曖昧で。最初に会ったのは確か……。

〈森本〉
13年前、2012年の2月です。僕はまだ地元の南山城村(みなみやましろむら)役場の職員で、いまは社長として運営している「道の駅お茶の京都みなみやましろ村」の基本計画を立てているところでした。

初めに紹介しますと、南山城村は京都の南にある府内唯一の村です。実は、全国的に有名な宇治茶を支える京都産のお茶の3割を生産している茶どころなんですが、当時はほぼ知名度がなくて。そこへ道の駅の開業を発表したら否定的な意見が多く、「魅力あるむらづくり推進室」の責任者として悩んでいたんです。

それで基本計画策定を受注したコンサルタントに相談したら、交通量が一日1,000台しかない高知県の山奥、旧十和村(とおわそん)で「道の駅四万十(しまんと)とおわ」を運営し、すごい実績を上げている〝地域商社〟があると。それが畦地さん率いる「四万十ドラマ」でした。

予算も少ないので、職員4人で1台の車に乗って、7時間かけて四万十まで視察に行きました。

〈畦地〉
来られた日に一席設けたんでしたね。未だに笑い種(ぐさ)ですけど、僕は一番年配に見える人が責任者だと思って、その人に向けて喋っとった。実の責任者は隣にいた森本さん。当時40そこそこ、茶髪に長髪で、役場にもこんなやつがいるのかと思ったね。

人を動かすには小さな成功事例を積み重ねるしかない。

こちらが相手の気持ちを乗せる努力をしないと、物事は前に進まないことを学びました

森本健次
南山城社長

〈森本〉
地元では〝デキる公務員〟だったんですよ(笑)。

〈畦地〉
高知は飲む文化ですから、「よう来たね」と酒を注ぎつつ、腹を割らせようと考えていました。

というのも、あの頃の道の駅は大抵、自治体が出資する第三セクターが運営していて、赤字の補填は自治体頼りでした。一方僕らは、民間から指定管理業者(自治体の委託により公の施設の運営、管理を担う)となり、行政の援助に頼らず経営していました。果たして、南山城村が目指しているのはどっちかなと。

それがいくら話を聞いても判然としないので、プッツンきてね。酔った勢いで「誰がやるんじゃ!」と言ってしまった。

〈森本〉
いま思うと、まさに本質を衝いた一喝でした。それまで自分が腹を括るべきだと薄々思いつつ、役場や議会のルールがあって踏み切れなかった。そんな僕の背中を強く、のけ反るくらい押してくださったのが畦地さんでした。
 ・
 ・
 ・
本記事の内容 ~全9ページ~
◇「誰がやるんじゃ!」 飲みの席での一喝
◇〝田舎だから何もない〟は本当か?
◇沈下橋を渡って開けた世界
◇小さな成功の蓄積が人を動かす
◇何よりもまず考え方を固める
◇「しまんと地栗」で伝えるもの
◇紛糾した南山城村の道の駅説明会
◇お茶をつくってきた暮らしを守るために
◇「お茶は売れない」を引っくり返す
◇地域商社の使命 挑戦すべき未来

プロフィール

畦地履正

あぜち・りしょう――昭和39年高知県生まれ。58年高知県立高知東高等学校卒業後、62年十川農協に就職。平成6年四万十川中流域三町村(大正町・十和村・西土佐村)の第三セクター・四万十ドラマに移る。17年四万十ドラマ株式会社(完全民営)化。19年社長に就任、「道の駅 四万十とおわ」開業。30年まで指定管理業者を務める。令和6年会長。

森本健次

もりもと・けんじ――昭和42年京都府生まれ。60年京都府立木津高等学校卒業後、南山城村役場入職。平成22年「魅力あるむらづくり推進室」担当。茶農家と共に南山城紅茶プロジェクトを立ち上げる。27年南山城村出資の株式会社南山城社長に就任。28年南山城村役場を退職。29年「道の駅 お茶の京都 みなみやましろ村」開業。


編集後記

地方の活力喪失が叫ばれて久しい中、民間の〝地域商社〟として故郷に光を当て、成果を上げてきた四万十ドラマ会長の畦地履正さんと南山城社長の森本健次さん。「どうせ失敗する」「税金を無駄遣いするな」と心ない批判を浴びながらの挑戦の軌跡に胸を打たれます。迂遠なようでも、皆が誇れる強み、足元にある魅力を浮き彫りにする。それが重たい現実を動かす原動力になると学びました。

バックナンバーについて

致知バックナンバー

バックナンバーは、定期購読をご契約の方のみ
1冊からお求めいただけます

過去の「致知」の記事をお求めの方は、定期購読のお申込みをお願いいたします。1年間の定期購読をお申込みの後、バックナンバーのお申込み方法をご案内させていただきます。なおバックナンバーは在庫分のみの販売となります。

定期購読のお申込み

『致知』は書店ではお求めになれません。

電話でのお申込み

03-3796-2111 (代表)

受付時間 : 9:00~17:30(平日)

お支払い方法 : 振込用紙・クレジットカード

FAXでのお申込み

03-3796-2108

お支払い方法 : 振込用紙払い

閉じる