「苦しい時ほど笑え」——将棋棋士九段・先崎学氏が語る、米長邦雄永世棋聖の教え

〝羽生世代〟の一角として長く第一線で活躍されながら、アニメや映画になった人気将棋漫画『3月のライオン』の監修ほか、棋界への貢献活動にも取り組まれている先崎学九段。師・米長邦雄永世棋聖から学んだという人間として大切な教えを伺いました。
(本記事は『致知』2025年4月号 インタビュー「運は勉強する者に味方する」を一部抜粋・編集したものです)

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師・米長邦雄の風韻

──鮮烈な出逢いでしたね。

<先崎>
とはいえ子供の私は、趣味と仕事の差が分かっていませんでした。その晩はお宅に泊まり、朝食の時です。奥さんに「先崎君はそこ」と言われて、横になっていた先生の頭を跨またいで席についた。瞬間、「馬鹿もん!」と雷が落ちました(笑)。ああ、この人は僕の師匠なんだ、芸道の世界に入ったんだとすぐ分かりました。

それから、小学校も東京に変えて3年間、修業させてもらいました。

朝は7時頃に起きて、先に弟子になっていた後の女流トップ棋士・林葉直子さんと分担して階段や居間、応接間、玄関、庭など家を隅々まで掃除します。奥さんがつくる朝食をかき込んだら食器を洗い、学校に行く。帰ってきたら風呂掃除や犬の散歩もしました。

──将棋はどう勉強したのですか。

<先崎>
内弟子時代、細かく技術を習った覚えはありませんが、教わったことは山ほどあります。

例えば、米長先生は勝負において〝勢い〟をとても大事にされました。勢いのある将棋を指せ、元気がない将棋を指しちゃいけないと。駒が引くのが嫌いでしたね。

将棋において経験は確かに大事ですけど、案外役に立ちません。そこには運の要素も入ってきます。経験に運、それらすべてをひっくるめて実力です。

先生の勝負勘は独特で、〝気〟というか、見えないところを重視されていました。体が健康で締まっていて気合いが乗っていれば、勝負の神様が微笑んでくれると。将棋は1対1、生身の人間の勝負ですから、こちらに生気がなかったらひとたまりもないですよ。

──ああ、生気が勝負を分ける。

<先崎>
「苦しい時ほど笑え」とも言われましたね。

これは先生の人生観で、ユーモアを忘れちゃいかん。どんな時も、目の前の人間を喜ばすことが大事ですよと。

盤外ではこんなこともありました。先生のもとを巣立ってプロになってから、先生が懇意にされていた大企業の偉い方々との宴会があって、私が1時間遅刻してしまったんです。宴会中は先生もニコニコしていて、何も言わない。

よかったぁ、と思っていたら、翌朝に電話が鳴って「先崎おまえ、いまから先方の事務所に行って、トイレをピカピカにさせてくださいって頼んでこい!」と怒鳴られました。

「人間はしくじる。それはしょうがない。ただその後にきっちり頭を下げて謝ることが大事だ」と。将棋はもちろんですが、むしろ人間として大事な礼節、生き方を多く教わった気がします。


(本記事は『致知』2025年4月号インタビュー「運は勉強する者に味方する」より一部を抜粋・編集したものです)

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