2024年01月19日
独自のマーケティング手法を武器に、経営危機に瀕していたUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)をV字回復へと導いた戦略家・マーケターの森岡毅さん。数々の苦難を乗り越え、組織を再生させてきた森岡さんに、唯一無二のアイデアを生み出す秘訣を伺いました。
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変革を起こすには嫌われることも辞さない
──そもそもUSJに転職されたいきさつは何だったのですか。
〈森岡〉
私は新卒でP&Gに入社し、マーケティングの専門家として数々のヘアケア商品のブランドマネジャーを歴任してきました。
きっかけはUSJの代表取締役CEOであるグレン・ガンペルとの出逢いです。彼は自分の右腕となるマーケティングのプロを探していて、私の経歴や実績に関する資料を入手して面会を求めてきたんです。
彼と会った時に感じたのは自分が一番学ばなきゃいけないことを見せてくれる人だなと。
P&Gは約10万人の社員がいて、頭のいい人、リーダーシップを発揮できる人が本当にたくさんいるんですけど、たぶん何もない荒野で闘わせたらグレンに勝てる人、一人もいないと思ったんです。ならば、この会社に入ってグレンの長所を吸収しようと。
──トップに惚れ込んで、入社を決意された。
〈森岡〉
グレンは私のアイデアに対して非常に鋭く重要な質問をどんどん投げてくるんです。最初は考えが及ばなかったリスクにも気がついたり、そういう刺激ある毎日の中で、いままで彼と私が最初から合意したことなんてありません。すべての局面で彼は反対、私はやりたいと。
でも、私のアイデアを否定したことは一回もないんです。最後は必ずやらせてくれた。自分の中で計算できないこと、会社存続のリスクを背負ったことを部下にやらせるこの器の大きさって尋常じゃない。
私がこの会社に来て何とかいまのところ結果を出させていただいているのも、私の力というよりも、私を使ってくれた彼の力だと思っています。
それくらい当時の会社の状況はグレンだけがスーパースターで、幹部や社員の意識とはものすごい開きがありました。みんな真面目に一所懸命仕事するんですけど、自分が起点になって何かを変えるってことがない。みんな目をキラキラさせて私の指示を待っているんですよ。
──自ら主体性をもって考えるという社風がなかったのですね。
〈森岡〉
そこにいきなり『ドラえもん』に出てくるジャイアンみたいな人間が入ってきたので(笑)、みんな本当に困ったと思います。でも、調整とか議論とか言っている場合じゃないわけですよ。
全員を正しいところに引きずってでも連れていかなきゃいけない。みんなに合わせようと思うと変革なんか起こせない。だから嫌われてもいいと思ってとことんやりました。
アイデアの神様が降ってくる
〈森岡〉
新しい企画がこの日までに思いつかなかったら会社が倒れる。そういう状況にいつも追い込まれていましたから、私はいつの間にか寝ても覚めてもアイデアを考えるようになっていました。
目を瞑るギリギリまで考えて目を開けた瞬間から考えていると、しまいには目を瞑っている間も考えるようになるんです。夢の中でうなされたことは何度もあります。ある時は、夜中に息苦しくて目を覚ましたら、口の中から出血していた。寝ている時に自分の舌を思いっ切り噛んでいたんです。
――それだけ追い詰められていた。
〈森岡〉
本当に必死の毎日でしたね。
ただ、人間って不思議なもので、そうやって追い詰められて重圧がかかると、自分自身も意識していない遺伝子が目を覚まして、とんでもない能力が覚醒したり、アイデアの神様が降りてくることがあるんです。
――アイデアの神様が降りてくる。
〈森岡〉
2013年度を生き延びるアイデアを考えるため、来る日も来る日もパークをひたすら歩き回っていた時もそうでした。
ある夜、すごく鮮やかな夢を見たんです。それは昼間にパークで見た「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド」というジェットコースターが逆再生されている映像でした。その瞬間、私はバッと跳ね起きて「これだっ!」と心の中で叫びながら、すぐさま枕元にあるノートに書き留めました。
こうして誕生したのが後ろ向きに走るジェットコースター「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド~バックドロップ~」です。これならば大きな投資をせずに、既存のレールを使って開発ができ、なおかつ新たな話題を集めることができると。当初、社内の大反対はあったものの、技術陣の献身的な努力によって2013年春にオープンすることができました。
――結果はいかがでしたか。
〈森岡〉
連日長蛇の列をなし、3月21日には最大9時間40分待ちという日本におけるアトラクションの待ち時間記録を更新し、2013年度の来場者数1000万人の大きな牽引役となったのです。
ある問題について、地球上で最も必死に考えている人のところにアイデアの神様は降りてくる。これは私の実感ですね。
(本記事は月刊『致知』2014年6月号 特集「長の一念」より一部を抜粋・編集したものです)
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「長所を生かせる仕事は何か」「入社後いきなり挫折を味わう」「どん底の中で見出した勝ち筋」「一分一秒の集中力にこだわる」「チャレンジは20代の特権」等、森岡氏が駆け抜けた20代にスポットを当て、お話しいただきました。本記事には、失敗も挫折もすべての経験を糧として生きるためのヒントが詰まっている。詳細はこちら。
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◇森岡 毅(もりおか・つよし)
昭和47年兵庫県生まれ。平成8年神戸大学経営学部卒業後、P&G入社。日本ヴィダルサスーン、北米パンテーンのブランドマネージャー、ウエラジャパン副代表などを経て、22年(株)ユー・エス・ジェイ入社。24年より同社チーフ・マーケティング・オフィサー、執行役員、マーケティング本部長。29年に退社し、マーケティング精鋭集団「刀」を設立。著書に『苦しかったときの話をしようか』(ダイヤモンド社)など。
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