余命10年の我が子を救うために──17万人の命を救った医療器具開発〈映画『ディア・ファミリー』モデル〉

娘は生まれつき心臓に難病を抱えていた──いまの医学では治療不可能と宣告された筒井宣政氏は、まったく畑違いの人工心臓開発を開始。娘を救いたいという切なる思いは、やがて数々の優れた医療機具となって花開きました。そんな筒井氏の不屈の歩みは、2024年6月14日に映画『ディア・ファミリー』として公開され、週末観客動員ランキングで初登場1位に輝くなど早くも多くの感動を呼んでいます。本記事では、弊誌2008年7月号ご登場時に語っていただいた、ものづくりの根底にある信念についてご紹介します。

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開発の基準は我が愛娘

──難病のお嬢様を救うために、異業種から医療器具の開発に挑戦してこられたそうですね。

<筒井>
私はもともと父親の後を継いで樹脂製品の製造業を営んでいました。

しかし、心臓に難病を抱えた二女の佳美を助けたい一心で、まったく畑違いの人工心臓の研究を始めましてね。そこで培った技術をもとに、様々な医療器具を開発してきました。

平成元年に国産化に初めて成功したIABPバルーンカテーテルが医療器具メーカーとしての当社の礎となりました。

──IABPバルーンカテーテルとは。

<筒井>
心筋梗塞などの応急処置や治療に使う医療器具です。

カテーテルは医療用チューブで、血管内に通して手術や病気治療に使用するものですが、このIABPバルーンカテーテルは、先の部分を風船のように膨らませたり縮めたりできましてね。心臓付近の大動脈の中でそれを動かして心臓のポンプ機能を一時的に補助するのです。

心筋梗塞で動かなくなった心臓は、6時間以上放置すると壊死して治療不可能になりますから、患者さんが手術を受けるまでの応急処置に使うのです。このカテーテルによって、これまでに5万人以上(掲載当時)の命を救うことができました。

──5万人以上もの命を。

<筒井>
他にも、心臓を治療するためのPTCAバルーンカテーテル、詰まった血管を開通させるPTAバルーンカテーテル、脳腫瘍や肝臓がんの患部に薬を送るマイクロカテーテルなど、様々な医療機具を開発してきました。

こうした医療機具を開発する際、常に念頭に置いてきたことは、娘に使っても本当に大丈夫か、ということでした。

──おのずと取り組みも真剣になってきますね。

<筒井>
親としては、娘に使ってもし痛かったり、事故を起こすようなことがあっては困りますからね。ですから開発中に不都合な点が判明すれば、その原因を徹底的に解明して、とにかく完璧なものをずっと求めてきたのです。

その姿勢を貫いてきていまつくづく実感しているのは、金儲けではなく、いいものをつくることを大前提としてやり通せば、お客様は必ずついてきてくださるし、ちゃんとリターンもついてくるということです。

特に私どもが携わるのは医療器具ですから、安全や機能をとことん重視していいものをつくることが何より大事です。ですから会社ではいつも「品質第一、利益第二」、「安全第一、効率第二」と言い続けてきました。

最初は自分の娘のために始めたことですが、その思いは次第に他の患者さんのため、そして「一人でも多くの生命を守りたい」という理念へと発展してきました。


 

◇筒井宣政(つつい・のぶまさ)
昭和16年愛知県名古屋市生まれ。39年関西学院大学経済学部卒業。東海高分子化学入社。57年同社社長。56年東海メディカルプロダクツ設立、社長就任。平成3年ヴァーユ設立、社長就任。8年世界バイオマテリアル学会学会賞受賞。12年科学技術庁長官賞受賞。14年黄綬褒章受章。

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