「ありがとう」が家族を救う。36万回の感謝を口にした村上貴仁さんの実話

緑豊かな淡路島で、ユニークな農法を営む「豊穣ランド」。農薬や肥料を使わない理想の農業を追求し、人々の笑顔が絶えない農園をつくり上げてきた運営者の村上貴仁さんですが、かつては自分の進むべき道に悩み、また、最愛の4歳の息子を幼児性突然死で亡くされるなど、逆境の連続でした。その困難の中で支えになった小林正観の教え、掴んだ開運の法則を語っていただきました。

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「ありがとう」が起こした奇跡

(村上)
支えになったのが、知人から送っていただいた心学研究家の小林正観さんの本でした。

 (――どんなことが書かれていたのですか。)

(村上)
その本は、「ありがとう」という言葉の持つ不思議な力について書かれていました。「ありがとう」を2万5000回言うと願いが叶う。5万回で奇跡が起こる。そして年齢の1万倍の回数を繰り返すと家族を救えるというのです。

びっくりしましてね。そんなことで家族を幸せにできるならすぐやろうと思ったんです。当時の私は36歳でしたから、36万回を目標にカウンターで数えながら夢中で言い続けました。そうしたらいろんな変化が起き始めたんですよ。

 (――例えば、どんなことが起きたのですか。)

 (村上)
ある時ハッと気づいたのは、農作業に使うトラクターにトラブルがなくなったんです。自分の体も元気になってきて、家族皆が風邪を引いているのに、自分だけ引いていないこともありました。だんだん身の回りのあらゆるものに対して感謝の気持ちが湧き上がってきたんです。

そうしてひたすら「ありがとう」を繰り返して、とうとう36万回に達しましてね。これで家族を救えたと思って、大喜びで家に帰ったんですよ。

 (――奇跡は起きたのですか。)

 (村上)
それが、待っていたのは何も変わらない日常だったんです。家族は皆いつも通りで。あれ? って思っていたら、不意に後ろから息子の声が聞こえてきたような気がしたんです。

 「お父ちゃんは、奇跡を起こしたんだよ」

って。そのひと言で気づいたんです。朝「お早う」って起きて、ご飯を食べて、「行って来ます」って出掛けて、「ただいま」って帰ってくる。こうして毎日普通に生きていられることは決して当たり前じゃない。奇跡なんだということを、私は息子に教えられたんです。

 (――何事もない普通の日常こそが奇跡なんだと。)

 (村上)
同時にもう一つの奇跡が私の中で起きました。

あまりにもたくさん「ありがとう」を繰り返すうちに、何に対して「ありがとう」を言っているのか分からなくなって、足元の1本1本の草、目の前を飛んでいる虫、目に見えない微生物、自分の身の回りのすべての命に「ありがとう」を言わずにはいられなくなってきたんです。あれから14年経ちますけど、いまだにその気持ちは変わりませんね。

 (――まさに「ありがとう」が生んだ奇跡ですね。)

 (村上)
鬱病で過ごした5年間はどん底だと思っていましたけど、息子を亡くした時に、どん底にはさらに底があることが分かりました。甘かったな、もっと深い底ってあるんだなって。

でも、私以上に辛かったのは妻だったと思います。鬱の私のケア、私と彼女の両親との仲介、農場の経営不振、息子の死。精神的な苦痛が大き過ぎて、一時は病に伏せっていたこともありました。

ある時2人で話したんです。こんな自分たちを亡くなった大地が見て喜ぶだろうかって。この先初めて出会う方に、「あなたたちはいつも楽しそうで、何も悩みがなさそうだね」って言われるようになったら俺たちは本物だ。そう言われるまで、そういうふうに装ってみようって。

 (――お2人で悩みがないかのように振る舞おうと。)

 (村上)
おかげさまでいまでは2人とも、見違えるほど元気で明るくなりました。 

それまでずっと“農”のことを考え続けていましたけど、「ありがとう」を言い続けて教えてもらったことは、すべて“脳”のことでした。つまり、自分が幸せと認識したらそれは幸せだし、不幸と認識したら不幸。すべてを決めているのは自分の脳だったんですね。

(本記事は月刊『致知』2019年4月号 特集「運と徳」から一部抜粋・編集したものです)

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◇村上貴仁(むらかみ・たかひと)
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昭和45年北海道生まれ。スポーツクラブ勤務を経て、洞爺で農業を始める。近代農業の大量生産、大量消費に疑問を抱いていた折、息子を突然亡くす体験をきっかけに、命について真剣に考え始める。一般社団法人「大地が教えてくれたこと」を設立。循環型農業「ありがとう農法」の教授や講演活動を始める。30年には淡路島で会員制農業コミュニティ「豊穣ランド」を立ち上げる。著書に『大地がよろこぶ「ありがとう」の奇跡』(サンマーク出版)がある。

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