【編集長取材手記】松岡修造が人生の師から教わった「勝利の女神が微笑む秘訣」


〝日本一熱い男〟の師匠とは何者か

スポーツキャスターとして活躍する松岡修造さん。元プロテニスプレーヤーで、現役卒業後は「修造チャレンジ」を主宰し、錦織圭選手をはじめ世界の舞台で戦えるジュニア選手を数多く育ててきました。

また、「僕の生きがいは応援。灰になるまで応援し続けます」と語っているように、〝日本一熱い男〟の異名をとり、「松岡修造が海外に行くと日本は寒くなる」という噂がSNSで広がるほど、人々に活力を与えています。

そんな松岡さんが敬慕と憧憬を込めて「人生の師」「心の師」と呼んで憚らない人物がいます。その人物とは、日本BE研究所所長の行徳哲男さん、92歳。

米国の行動科学や感受性訓練と東洋の禅や哲学を融合させ、「感性=紛れもない私」を取り戻す4泊5日の山籠り修行(BE研修)を創始し、約30年にわたり計550回、政財界・スポーツ界・芸能界など各界のリーダー及びその子弟ら3万人以上の受講生を導いてきました。松岡さんもその1人。92歳になる現在もそのエッセンスを凝縮した研修を続け、50年以上にわたって人間開発の一道を切り拓いてきた、まさに〝感性の哲人〟です。

衝撃的な出逢いから約30年の時を経て、師と弟子が今回初めて本気で語り合う「日本人にいま伝えたい魂のメッセージ」とは何か。

人間学を学ぶ月刊誌『致知』最新号(2024年7月号特集「師資相承」)に行徳さんと松岡さんの対談記事が掲載されています。テーマは「紛れもない私を生き切れ」。

2時間半に及ぶ白熱の師弟対談

そもそもこの対談企画が生まれたのは、長年の『致知』愛読者でもある松岡さんに「どなたか対談したい方はいますか」と投げ掛けたところ、「いまこそ『致知』で行徳先生をインタビューしたい」とおっしゃったことが発端でした。

「僕はこれが行徳先生との最初で最後の本気のインタビューだと思っています。もちろん今後もお会いします。でもそれは真剣勝負じゃない。いまの日本人に何を一番伝えたいか、先生の心の声を聴いていきたいです」

松岡さんの並々ならぬ覚悟を感じつつ、こちらも全力で準備に当たり、4月上旬、致知出版社で対談取材は行われました。取材前の和気藹々とした雰囲気から一転、いざ始まると、周囲で物音一つ立てられないほどにピンと張り詰めた中で真剣勝負の問答が繰り広げられ、溢れ出るお互いの凄まじい氣魄がひしひしと伝わってきました。そして最後は再び満面の笑みで終了。2時間半に及ぶ白熱の師弟対談から新鮮な学びと感動を味わいました。

そこで語られた内容を凝縮して誌面10ページ、約14,000字の記事にまとめました。主な内容は下記の通りです。

◇行徳先生の心の声を聴いていきたい
◇最大の危機はアイデンティティクライシス
◇「いまどんな気持ちですか」その問いを発する意味
◇弱さを知ることが本当の強さ
◇両親の不仲が「憤の一字」となった
◇煩悩を捨てるのではなく煩悩を食べる
◇ウィンブルドンベスト8に導いた行徳先生の一喝
◇真剣と深刻は違う 徳とは無類の明るさ
◇時代を動かすのは若者たち
◇生の躍動と充実 その極致が死である
◇知識や理性に偏らず行動あるのみ
◇迷いだらけの身だと思うことが本当の悟り
◇二人がそれぞれ師匠に学んだ生きざま

松岡修造が『致知』に贈った本気のエール

対談取材が終わってからも、感動の場面がありました。名残惜しそうに帰られる際、階段を降りる行徳先生を支えながら、社員が仕事をするメインフロアにわざわざ顔を出して、

「致知出版社の社員さんってこんなにたくさんいらっしゃるんですね。『致知』を読んでいるというだけで、いろいろな方とご縁ができ、すぐに親交が深まる。皆さんのおかげです。ありがとうございます!」

と拍手を送りながら感謝の意をお伝えくださいました。その姿に社員一同、心を打たれずにはいられませんでした。

思えば、松岡さんはこれまで何度も『致知』にメッセージを寄せてくださっています。
最初は創刊30周年の時でした。

「僕と『致知』との出合いは1995年のウィンブルドンベスト8に入った半年前。『致知』は僕に世界で闘うために必要な〝精神〟を教えてくれた。世界を夢見て闘っているジュニア選手の指導をしているいま、〝人間力〟〝日本を知る〟〝工夫力〟〝決断力〟〝想像力〟――僕が子供たちの魂に訴えかけていることは、まさに『致知』から学んだもの。今後も『致知』のように、人々の人生に栄養素を与えられるように頑張って生きていきたいと思っています」

創刊40周年の節目には、

「『致知』は自分にとって、心を成長させてくれるなくてはならない存在。自分が自分らしくいる為の心を届けてくれている。それは、『致知』に登場する日本の先輩方からの人間学を感じることができるからだ。失敗や挫折からの体験、心の声から生まれた言葉。それこそが僕の心が感じ動かされる。そう、『致知』は、僕を本気で応援してくれている」

そして、昨年の創刊45周年の時には、

「これまで45年間、日本中に〝致知魂〟を注入していただきありがとうございます。そしておめでとうございます。僕にとっての『致知』は、気づきの時間、自分を見つめる時間、学び成長する時間。これからも人間学を浴びながら自分の生き様を全うしたい。だから僕は『致知』を愛読します」

という有り難い言葉を頂戴しました。松岡さんからいただいたエールをさらなる原動力に換え、仕事に邁進していく決意を新たにしました。

最大の敵は自分自身である

現役時代、松岡さんは20歳の時に、日本人選手には不可能と言われていた「世界ランキング100位以内」の壁を突破し、24歳で当時日本男子過去最高の46位まで上がります。しかしその後、怪我や病気に苦しみ、大変な絶不調に陥り、デビスカップでは世界ランキング700位台の選手に負ける屈辱を味わいます。

テニスを辞めようかと考えるまで追い詰められていたちょうどその時、お姉さんの勧めでBE研修に参加し、行徳先生と邂逅を果たしました。1995年、27歳のことです。

「(BE研修は)自分自身を省みることができ、自分の弱さというものに気づかせてもらえた時間だったと思っています」と松岡さんは述懐されています。

研修を終えた後、その年のウィンブルドン選手権では日本人男子として実に62年ぶりの快挙となるベスト8入りを果たし、続く準々決勝では世界ランキング2位のサンプラス選手をあと一歩のところまで追い詰めました。

その顛末について、2人はこう語り合っています。

〈行徳〉 
修造君に感心したことは幾つもあるけど、ほら、全米オープンで失格したじゃない。

〈松岡〉
ああ、1回戦で痙攣を起こして途中棄権した時ですね。

〈行徳〉 
私に電話をかけてきて「日本に帰ります」って言ったけど、ひと言も言い訳や不平不満を口にしなかった。だから私は成田空港まで迎えに行ったんだ。しかし、その後に便箋3枚の手紙が来た。そこに言い訳めいたことが書いてあったから、「修造の敵はアガシでもサンプラスでもない。修造自身だぞ。だから修造は修造を倒せ」とファクスを入れた。

〈松岡〉
あの時(ウィンブルドン選手権)は1回戦から相手がむちゃくちゃ強い選手で、いつもだったら完全に負けていたんですよ。それなのに、僕の写真とか映像を見たら、自分じゃない感じがしたんです。こんな殺気というか氣魄を出す人間だったのかなって。

アスリートもそうですけど、一番の敵は自分だって皆よく知っているんですよ。オリンピックには魔物がいる。魔物は自分っていうのも分かっています。でも、そこでどうしても向き合わない。プレッシャーのあまり緊張するのも、本当だったら力に変えられるんですけど逃げてしまう。

自分自身の弱さを知り、受け容れた上で、自分との闘いに打ち克つこと。それが一つの「勝利の女神が微笑む秘訣」だと教えてくれています。さらに対談はこう続きます。

〈行徳〉 
武士道の第一の要諦、それはやっぱり真剣さなんだ。ところが、現代人は真剣と深刻の混同がある。悲劇の主人公みたいに悲壮感が漂ってるのが真剣だと錯覚してるよ。違う。福井の永平寺に行ってごらん。真剣に命懸けで修行した僧の身のこなしの軽やかさ。だから、真剣にはある種の軽さがなきゃいけない。

軽さに「あ」をつけたら「明るさ」だよ。明るい人が一番真剣です。眉間に縦皺を寄せて悲壮感が漂って生きること自体が、一番真剣でない証拠。真剣でない人間ほど深刻そうな顔をしてるよ。

〈松岡〉 
先生がジャパンオープンの試合を見に来てくれた時がありましたね。ファミリーボックス席ですから、すぐ近くですよ。試合の流れがどんどん悪いほうにばかりいって、これはもうダメかなって負けそうになった時に、普通だったら厳しい顔をして活を入れると思うんですよ。ところが、先生はニコニコ笑っていたんで、えーっと思っちゃって(笑)。

でも、僕はそこから挽回して勝てたんですよね。だから、最初はすごく深刻にプレーをしていたと思うんです。先生がパッとあの笑顔を通して、真剣というものを教えてくれました。

真剣と深刻の違いについて、考えさせられるエピソードです。脳神経解剖学の世界的権威で京都大学元総長の平澤興先生は「人生は、にこにこ顔の命がけ」と語っておられますが、ここにも「勝利の女神が微笑む秘訣」が垣間見えます。

これ以外にも、師と弟子が今回初めて本気で語り合った人間学談義に興味は尽きません。どんなに時代や環境が変化しようとも振り回されることなく、「紛れもない私」を生き切るヒントが満載です。ぜひ本誌の対談記事をお読みください。


◇行徳哲男(ぎょうとく・てつお)
昭和8年福岡県生まれ。35年成蹊大学卒業後、大手財閥系企業に入社。労働運動の激しき時代に衝撃的な労使紛争を体験し、「人間とは何か」の求道に開眼。44年渡米、米国流の行動科学・感受性訓練と日本の禅や哲学を融合させ、「BE研修(Basic Encounter Training)」を開発。46年日本BE研究所を設立し、人間開発・感性のダイナミズムを取り戻す4泊5日の山中研修を完成。平成11年12月に終了するまで550回、政財界・スポーツ界・芸能界など各界のリーダー及びその子弟ら約3万名が参加。現在はそのエッセンスを凝縮した研修を続けている。著書に『感奮語録』(致知出版社)など。

松岡修造(まつおか・しゅうぞう)
昭和42年東京都生まれ。10歳から本格的にテニスを始め、慶應義塾高等学校2年生の時にテニスの名門校である福岡県の柳川高等学校に編入。その後、単身アメリカへ渡り、61年プロに転向。怪我に苦しみながらも、平成4年6月にはシングルス世界ランキング46位(自己最高)に。7年にはウィンブルドンで日本人男子として62年ぶりとなるベスト8に進出。10年現役を卒業。現在はジュニアの育成とテニス界の発展のために力を尽くす一方、スポーツキャスターなど、メディアでも幅広く活躍している。著書に、修造日めくりカレンダー『まいにち、修造!』(PHP研究所)など多数。

▼『致知』2024年7月号 特集「師資相承」
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