「愛こそが生きる意味だよ」——〝日本看取り士会〟会長・柴田久美子の原点

人々の最期に寄り添う「看取り士」の有資格者は全国各地に2300名を超えます。昨今、全国的な広がりを見せる看取り士のパイオニアとして知られるのが、日本看取り士会会長・柴田久美子さんです。これまで250名を超える方々を看取ってきた柴田さんは、なぜ看取りの道に進まれたのでしょうか。幼い頃の父親との別れ、そして絶望から光を見出してきた歩みを語っていただきました。(撮影:清水和士)

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「愛こそが生きる意味だよ」

──なぜ看取りの道に進もうと思われたのですか。

〈柴田〉
初めて看取りの世界に触れたのは、小学6年生で経験した父の死なんです。私は神の国出雲で生まれ、父は常日頃から笑顔を絶やさないやさしい人でした。

そんな父が末期の胃がんになり、余命宣告から僅か3か月後、60歳で亡くなりました。臨終の際、父はお世話になった医師や看護師、母、姉、兄に感謝の言葉を伝えました。そして、最後に「ありがとう、くんちゃん」と言い残し、私の手をやさしく握ったまま、静かに眠りについたんです。

長時間父の手を握り締めていると、みるみる冷たく、硬くなっていく。ついには自分で手を離せなくなり、母が一本ずつゆっくり離してくれました。その後も父の布団の上で腹ばいになって泣き続けたことを鮮明に覚えています。

人間というのは、かくも潔く、そして安らかに次の世界にいけるのか。父は自分の時間を愛のために使い、美しく次の世界に旅立ちました。父との別れが、死は苦ではなくやさしさに包まれたものであること、人間らしい最期をどう迎えるかを教えてくれたんです。

──かけがえのない贈り物ですね。

〈柴田〉
ただ、私も最初から理解できていたわけではありません。看取りの世界に入る前は、日本マクドナルドで16年働きました。負けん気の強かった私は一所懸命働くことで社長秘書やオーナー店長を任され、確かなやりがいを実感していましたね。

けれど、スピードと効率ばかりが求められる仕事中心の生活は、私の心を着実に蝕んでいきました。当時は結婚、出産を経たものの、家庭を顧みる余裕はなく、家族との間には次第に溝が生まれ、強い孤独感に苛まれていったんです。

「ああ、もう楽になりたい」。身も心もボロボロになり、無意識のうちに死を望んでいたのでしょう。衝動的に大量の睡眠薬を飲み、意識を取り戻した時には病院のベッドに横たわっていました。追い打ちを駆けるように、待ち受けていたのは大切な家族との決別です。何もかも失い、絶望のどん底に深く沈む他、道はありませんでした。

──なにが窮状を脱するきっかけになったのですか。

〈柴田〉
不思議な体験ですが、ある夜のこと、ふとこんな言葉が聞こえてきたんですね。

「愛こそが生きる意味だよ」

思わずベッドから飛び起き、周囲を見回しましたが、誰もいません。私はその時、はっきりと悟りました。それは大宇宙のご意志とも言うべきもののお言葉だと。

そして、父の死で感じた清らかな空気感が脳裏に蘇ってきました。あの場を追体験したい、死に寄り添い、暮らしの中で看取るお手伝いがしたい。そう思い至り、介護師になる決意を固めました。1993年、41歳の時でした。


(本記事は月刊『致知』202312月号連載「第一線で活躍する女性」より一部抜粋・編集したものです)

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◇ 柴田久美子(しばた・くみこ)
昭和27年島根県生まれ。48年日本マクドナルド入社。平成5年より看取りの世界に入り、14年病院のない離島に「看取りの家」設立。抱きしめて看取る実践を重ねる。24年一般社団法人「日本看取り士会」設立。看取り士の養成・派遣に注力し、現在看取り士の有資格者は2,300名を超える。著書に『私は、看取り士。』(佼成出版社)『幸せになるヒント』(ミネルヴァ書房)など多数。

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