生と死を統合する、幸福な生き方と死に方とは——帯津良一×小澤竹俊

写真手前が帯津氏、奥が小澤氏

日本におけるホリスティック医学の第一人者であり、87歳の現在(2023年取材時)も医療現場に立ち続ける帯津三敬病院名誉院長・帯津良一さん。ホスピス医としてこれまで約4000名の患者を看取る一方、病に拘らず支援を必要とする人々の担い手の育成に尽力するめぐみ在宅クリニック院長・小澤竹俊さん。長年、人間の生と死を見つめ続けてきた医師お二人は人生の幸福についてどのように考えているのでしょうか。

死生観をいかに伝えるか

〈小澤〉
大ホリスティック医学を取り入れたことで、患者さんの生き方は変わりましたか。

〈帯津〉
はい。私はよく「生と死を統合する」という言葉を使いますが、生と死を統合し、幸福にあの世に進まれた患者さんを何人も見てきました。

これは私の幼馴染の話ですが、中学を出てほとんど会っていなかったのが75歳の時に、うちの病院に入院してきました。既に肺がんの末期で「緩和ケアに行けと言われたので、あんたを思い出して来た」と言うんです。

2週間に一度来院し、漢方薬やサプリを処方していたんですが、ある時、「良ちゃん、こうやって診療してもらっていても面白くないから、月に一遍くらい飲もうよ」、そう言われて月に一度、川越市内の割烹料理店で飲むようになりました。

最後は酸素ボンベを抱えながら飲んでいましたけど、実に嬉しそうでしたね。

ところが、一年くらいして「苦しくてどうにもならない。入院させてほしい」と救急車で突然運ばれてきました。少し落ち着いた時、「どうだ」と声を掛けると心からの笑顔で「良ちゃん、先に行くぜ。向こうでまた会おう」と言って、数日後に亡くなったんです。いろいろなケースに立ち会いましたが、彼のように生と死の統合を果たしてニッコリ笑って死んでいく人が増えてきたことは確かですね。

〈小澤〉
先生がいまおっしゃったことはとても大切で、終末期の患者さんに安らかな死を迎えてほしいというのは私たちの共通の願いです。私のケースで申し上げますと、自宅にお伺いして先に亡くなった方の写真が掲げられていた時、患者さんに「どなたですか」とお聞きすることがあります。

「あれは亡くなったお祖母ちゃんです」「どんなお祖母ちゃんでしたか」「両親はいつも共働きでしたが、帰ってきたらいつも待ってくれていて、温かいおやつを準備してくれていました」。

そんなやりとりをした上で「お祖母ちゃん、いまどこにいらっしゃるのでしょうか」と尋ねると、多くの場合、「いつも近くにいて私を見守ってくれている気がします」という答えが返ってきます。「冷たいお墓の中にいます」と言う人はまずいません。そういう自然な形で死生観を伝え、患者さんの終末をサポートしています。

一方で、死生観はすごくデリケートなテーマというのも、現場で緩和ケアに携わる私の実感でもあるんです。緩和ケアを嫌い、最後まで闘い抜きたいという考え方の人も当然ながら多くいらっしゃるわけで、そういう方に死生観を押しつけることはできません。大切なのは、患者さんお一人おひとりが大切にしているものは何かを感じて、医療者としてそれを精いっぱい応援することだと思うんです。

〈帯津〉
寄り添い合ってこそ見えてくる世界ですね。

〈小澤〉
私はありのままの患者さんを大事にしたいと思っています。病と闘って心が穏やかになるとしたら病と闘うことを勧めますし、病と闘わないほうが穏やかになる人であれば闘わない道を選びます。

要は医師の固定観念を取り払い、どれだけ困難であったとしても、どうしたら目の前の人が笑顔で穏やかになるかという問いを持つことが大切だと考えています。

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・支えを必要とする人をサポートする人材を育成
・西洋医学の限界とホリスティック医学
・自分がいることで誰かが喜んでくれる
・信じた道を歩き続ければ道は開ける
・アンチエイジングとナイスエイジング
・苦しみの中でしか気づけない幸せ

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◇帯津良一(おびつ・りょういち)
昭和11年埼玉県生まれ。東京大学医学部卒業後、同医学部第三外科、都立駒込病院勤務を経て57年埼玉県川越市に帯津三敬病院を設立(平成13年より現職)。日本ホリスティック医学協会名誉会長、日本ホメオパシー医学会理事長。『帯津三敬病院「がん治療」最前線』(佼成出版社)『不良養生訓』『八十歳からの最高に幸せな生き方』(共に青萠堂)など著書多数。

◇小澤竹俊(おざわ・たけとし)
昭和38年東京都生まれ。62年東京慈恵会医科大学医学部卒業。平成3年山形大学大学院医学研究科医学専攻博士課程修了。救命救急センター、農村医療に従事した後、6年より横浜甦生病院内科・ホスピス勤務。ホスピス病棟長を経て18年めぐみ在宅クリニックを開院。27年有志と共にエンドオブライフ・ケア協会設立。著書に『あなたの強さは、あなたの弱さから生まれる』『もしあと一年で人生が終わるとしたら?』(共にアスコム)など多数。

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