〈西舘好子×古巣 馨〉人生の悲愁を越えて掴んだ「生きていく上で大切な3つのこと」

命の根源である子守唄の伝承を通して虐待防止やシングルマザー支援などの活動に取り組む日本子守唄協会理事長・西舘好子氏。思わぬ出逢いから聖職者としての道を歩むようになったカトリック神父で教誨師でもある古巣馨氏。お二人は長年、多くの人の悲しみや愁いに寄り添いながら、その未来を拓くために献身的な歩みを重ねてこられました。自身もまた様々な人生の悲愁を越えながら生きてきたお二人に、生きていく上で大切なことを教えていただきました。

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困難に屈しない要諦

〈西舘〉
私が心を病む多くの人たちに出会ってきて思うのは、人生って金科玉条のようにこうあらねばならぬというのではなく、それぞれの人生があっていいということです。

何の責任感もないまま「生きることは辛い」と訴えてくる子も確かにいますが、彼らは彼らなりに自分たちの好きなことを見つけて生きている、そういういきいきとした姿を見せてくれることに私はとても励まされているんです。また、そういう子供たちを育てた親に対して感動の気持ちを持つことも多いですね。

最近、私は韓国に行きました。すると若者がすごい勢いでタブレットを使いこなしているんです。では彼らが享楽的に生きているかというと、兵役義務をきちんとこなして規律を守ることを知っている。私の年齢からすると、人間が機械に使われるようになったらおしまいみたいな感覚になるんですけど、人間の進歩の中で、いつも優れた若者は出てくるはずです。

ただ、どのような環境であれ、そこで大切なのは置かれた状態から逃げないことだと思います。

〈古巣〉
大切なことですね。

〈西舘〉
最近、18歳の男女が親の留守中に関係を持つという出来事がありました。一方がそれを塾の先生に相談し、塾の先生は警察に相談したんです。警察は2人を呼んで事件性がないことを確認しました。

ところが、そこで留まらずにそのことが学校に伝わり、教育委員会は弁護士会に投げ、それがいま係争中になっている。

つまり、大人たちは誰も自分の責任を果たさずに、一番傷ついているのは子供たちなんですね。根本的なことを言えば、教育の原点は家庭であり個人なんです。

だけど、何か都合が悪いことがあると皆が逃げてしまう。この逃げないということがこれからの時代問われているのではないでしょうか。

〈古巣〉
その通りだと思います。

私の立場からお話しさせていただくと、生きていく上で大切なのは、一度切りの人生で誰かから受け取ったものを正しく伝えていくことだと思っています。私は多くの人を通して3つの大切なことを受け取りました。

1つ目は、「とにかく笑う」ということです。

上智大学で「死の準備教育」を創設したアルフォンス・デーケンという哲学者がユーモアについて「にもかかわらず、まだ笑う」という日本語を充てています。ユーモアは持って生まれた性格ではありません。人生で何度も何度も何とも知れないような不条理に出遭って、それでも潰されずに歩んでいくことです。

がん病棟で明日死ぬかという人のところに行く時、どう言葉をかけようかと悩みます。ところが、その患者さんが自分の失敗談や滑稽話をして逆に笑わせるんです。慰められ励まされたのは見舞いに行ったこちらのほうです。これが「にもかかわらず、まだ笑う」ということです。

2つ目は、「非常識」です。

葬儀の告別式で読まれる弔電はよく名の知れた人から順に読まれますよね。ところが、ある家族は誰からも知られない人の弔電をいの一番に読み上げました。その人は、亡くなった人の人生にとって掛け替えのない人なのです。偉い人を差し置いて市井の誰も知らない人を一番にする。これは世の中からしたら非常識だと囁かれます。

「世間から見たら非常識かもしれないが、私はそうするよう親から教わりました。私もそれが正しいと思うから、同じように生きています」。そういう自分の物差し、価値観を持って生きることはとても大切だと思います。

3つ目は「賜物になる」ことです。

ただでいただいた、なくてはならないお恵みを賜物といいます。私が神父になって初めて通夜の儀式を執り行った時、妻の枕元にちょこんと座り、会葬者に挨拶された夫の言葉をいまでもよく覚えています。

「私は原爆が落ちて1週間後に長崎に帰り、家族を探し回りました。こいつも同じように探して回っていたんです。私たちは原爆の荒れ野で会いました。でも、どちらも家族とは巡り合えず、何かの縁かもしれないと、崩れた教会の隅っこで結婚の祝福をしてもらいました。何にもない文字通り裸一貫のスタートでした」と。

そして、言葉を続けられたんです。

「皆さん、こいつは大したやつなんです。こいつは私のためにずっとただ働きし、踏み台になってくれたんです。もし何か私が他人様に褒められることがあれば、それは皆こいつがしてくれていたんです。こいつに出会って、私になったんです。

でも、何の報いも受けずに、こいつは今朝早く黙って去っていきました。だから皆さん、お願いです。よう頑張ったって、こいつのために拍手をしてやってくれませんか」

あの時、皆でずっと拍手していた時の光景を忘れたことはありません。

私を私にしてくれたのは、仕えて、仕えて賜物になってくれた人です。賜物に出会うと人生の意味が分かります。そして、自分も誰かのための賜物になろうとします。妻を「私の賜物」と言った夫は、ちょうど1年後、同じ病を得て妻のもとに旅立ちました。


(本記事は月刊『致知』2023年8月号特集「悲愁を越えて」より一部抜粋・編集したものです)

◉本記事では、「辛い体験は必ずよい方向に繋がる」「辛いけど幸せ」等、人生の悲愁を乗り越えてきたお二人に幸せの道標について語り合っていただきました。人間誰しも抱える悲しみに際し、どのように向き合い、悲しみを恵みに変えていくのか。お二人のお話にはそのヒントが詰まっています。本記事の【詳細・購読はこちら】

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◇西舘好子(にしだて・よしこ)
昭和15年東京生まれ。劇団の主宰や演劇のプロデュースで活躍し、平成12年NPO法人日本子守唄協会を設立。現在は理事長として、子供たちへの文化の継承に尽力。著書に『歌い継ごうよ、子守唄』(仏教企画)『こころに沁みる日本のうた』(浄土宗)など。

◇古巣 馨(ふるす・かおる)
昭和29年長崎県生まれ。56年初来日したヨハネ・パウロ二世教皇により司祭叙階。現在、長崎大司教区法務代理、長崎純心大学教授、福岡カトリック神学院講師、列聖列福特別委員会委員、長崎刑務所教誨師などを務める。信徒発見などキリシタン史をテーマとして活動を続ける劇団「さばと座」を主宰。著書に『ユスト高山右近』(ドン・ボスコ社)。

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