メモリーズ社長・横尾将臣氏が遺品整理の「+α」を噛み締めた「鯉のぼり」の感動物語

 

遺品整理の第一人者として全国の現場を飛び回るメモリーズ社長の横尾将臣さん。その人々の心に徹底して寄り添う仕事の姿勢は、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で取り上げられるなど、大きな反響を呼んできました。「遺品整理は心の整理」と説く横尾さんの歩みと実践から見えてくる、人生の出会いと別れ、悲愁を越えてよりよく生きる要諦、これから日本が取り戻すべき社会のあり方とは――。

鯉のぼりは、きょうだいの絆の証

〈横尾〉

この業界に入った時から、遺品整理の仕事は単にものを片づけるだけではない、人の悲しみに寄り添い癒す仕事なんだという信念がありました。実際大変な現場の作業を終えると、涙を流して喜んでくださる遺族の方もおり、その「ありがとう」が私の大きなモチベーションでした。

ですから、独立するに当たり、「遺品整理+α」として何ができるかを考え、次の三つの柱・志を掲げたのです。

①リユース=物を捨てずに生かす

②モラルの遵守=貴重品の管理・トラブル対応をきちんと示す

③お客様に喜んでもらえる「ありがとう」を追求する

ただ、独立してから2か月ほど経った頃に、そんな自分の志を試される、頭をがつんと打たれるようなご依頼がありました。遺品整理の仕事は親を亡くしたお子さんからのご依頼が一般的です。しかし、その時のご依頼主は、一人暮らしのマンションで首を吊って自死した大学生のご両親でした。

我が子が亡くなった部屋で見積もりをしている間、ご両親は泣き続けていました。私は言葉を掛けようとするのですが、何一つ言葉が出てきません。それなら値段を安くしようと考え、いつもより安い見積もりを出し、逃げるように部屋を後にしました。結局ご両親から連絡はありませんでした。

自分の仕事だけでなく、「あなたに我が子の遺品整理は任せられない」と、人間そのものをすべて否定されたような気持ちになりました。この出来事をきっかけに、思い描く理想の遺品整理を実現するにはどうすればよいのか、より一層真剣に考えるようになり、グリーフケアの公開講座に通うなど、遺族の悲しみに寄り添う勉強を一からやり直していったのです。

また、受付から見積もり、契約書類、現場の作業、最後の供養に至るプロセスを見直し、お客様の心に寄り添った仕事を社員全員で徹底していきました。

そうした中で、私は次第に「遺品整理は心の整理」「葬儀は肉体的な別れ、遺品整理は精神的な別れ」だと考えるようになりました。遺品整理の仕事における本当の「+α」が何かを見出したのです。

例えば、先祖代々守ってきた家や家財道具を自分の代で処分することになったお客様は、大変な覚悟と不安な気持ちで遺品整理を行う日を迎えられます。その覚悟に見合った遺品整理ができた時、お客様も気持ちの整理がついて「明日からまた頑張っていこう」とすっきりした顔で、感謝の言葉を私たちに伝えてくださるのです。

また、昔の家族写真、父親とキャッチボールしたグローブ、きょうだいで楽しく遊んだ玩具……思い出がたくさん詰まった遺品を整理していくことで、「ああ、あの時はこうだったな」と、遺族は一つひとつ心の整理を重ね、悲愁を乗り越え、故人との精神的な別れを果たしていかれます。

そして次は自分の遺品整理を息子なり娘なりがやってくれるんだと、命の繋がりを実感していく。こうした精神的な別れ、命の繋がりを実感できるのが遺品整理の場なのです。

そのことを深く実感した現場があります。ある日、「両親が亡くなり空き家になった実家から鯉のぼりを探してほしい」とのご依頼がありました。ご依頼主は三人兄妹でしたが、理由は深く詮索せずとりあえず現場に向かいました。

広い立派な家でなかなか見つからなかったのですが、最後に倉庫から「四旒(りゅう)の鯉」がついた鯉のぼりが出てきました。すると、兄妹三人は涙を流して大喜びです。というのは、幼い頃にきょうだいが一人病気で亡くなり、この四旒の鯉のぼりが四人兄妹の絆の証だったと言うのです。私自身もそのような感動の場面に立ち会うことができ、この仕事をやっていてよかったなと、改めて誇りとやりがいをしみじみと噛かみ締めました。


(本記事は月刊『致知』2023年8月号「悲愁を越えて」から一部抜粋・編集したものです)

◎横尾将臣さんの記事には、

・理想と現実の差に悩み、独立を決意

・葬儀は肉体的な別れ、遺品整理は精神的な別れ

・現場から見えてくる日本社会の現実

・人と人との繋がり、感謝に溢れた社会を

など、遺品整理の一道を歩み中で見えて来た人間としての本当の幸せ、よりよい社会のあり方を紐解いていただきます。詳細はこちら致知電子版でも全文がお読みいただけます】

 

◇横尾将臣(よこお・まさとみ)  

昭和44年香川県生まれ。高校から始めたラグビーで大阪選抜に選ばれたことで、社会人ラグビーの強豪・本田技研工業に入社。怪我などにより退社した後はミュージシャンとして活動し、いくつかの職を経て、平成18年遺品整理会社に入社。20年独立してメモリーズを設立。以後、これまでに5000件を超える遺品整理に携わり、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に取り上げられるなど、日本における遺品整理の第一人者として活躍を続ける。

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