仕事にも人生にも締め切りがある——日本料理の鉄人・道場六三郎氏が10代で決意したこと

その人だけが生まれながらに天から与えられた能力を仕事や人生にどう生かすか――。片や日本料理、片やテニス、それぞれの道で一流プロとして活躍されてきた道場六三郎氏と松岡修造氏に、ご自身のご体験を交えながら語り合っていただきました。伝説の料理番組「料理の鉄人」で初代の和の鉄人として見事な腕前でお茶の間を魅了した道場六三郎氏。そんな道場氏が若い頃から心掛け実践されてきた仕事の極意とは?

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仕事にも人生にも締め切りがある

〈松岡〉
せっかくの機会ですから、道場さんの原点についてお聞きしたいのですが、そもそも料理の世界に入られたのはどういうきっかけですか?

〈道場〉
僕は子供の時から料理人になりたかったわけではないんです。ただ、父親が非常に料理好きで、漆の仕事をする傍ら、味噌や鰯の糠漬けなんかを嬉々としてつくっていました。その影響も多少あるのかもしれません。

17歳の時、近所の魚屋の親父さんが病気に罹ってしまい、手伝ってくれないかと言われましてね。威勢のよさに憧れて働き始めたのが最初のきっかけです。そこで魚を捌いて刺身にしたり串焼きにしたりしていたんですが、ある時、得意先の旅館のチーフから忠告を受けました。手に職をつけたほうがいいよと。料理人になれば食べるのに困らないだろうということもあって、料理の道に進むことを決め、ある人の紹介で東京の日本料理店で働くことになったんです。

〈松岡〉
それは何歳の時ですか?

〈道場〉
19歳の春です。母親は僕が東京に出て苛められたり、相手にされなかったりすることが一番心配だったんでしょう。

「六ちゃん、人に可愛がってもらいや」って言うんですよ。だから、あの当時はお風呂で先輩の背中を流したり、誰よりも早く店に来て先輩の白衣と靴を用意したり、ボロボロになった高下駄を修理したり、煮こぼれて汚れたガス台を夜通しピカピカに綺麗にしたりと、先輩に喜んでもらえる仕事は何でもやりました。

〈松岡〉
お母様の教えを実践されたのですね。

〈道場〉
僕の両親は浄土真宗の信仰に篤く、常日頃、人としての生き方を説いてくれました。いまでもよく覚えているのは、

「親や先生のいる前では真面目にやって、見ていないと手を抜く人がいるけど、とにかく神仏は全部見てござる。陰日向があってはいけない。どんな時も一所懸命やらなきゃいけないよ」とか「たとえ逆境の中にいても喜びはある」。

こういう教えは僕の財産であり、若い頃から仕事のベースになっています。

〈松岡〉
他に心掛けていたことはありますか?

〈道場〉
東京の店に入って心に決めたことは、

「人の2倍働く、人が3年かかって覚える仕事を1年で身につける」ということです。

例えば、人がネギを3本置いて切っていたら、その上に1本重ねて4本、2本重ねて5本で切れるようにする。最初はなかなかうまくできませんが、脇の締め具合や手首のスナップなどを工夫して、試行錯誤の末に自分だけの得意技を編み出したんです。

冷蔵庫の使い方一つにしても、工夫次第で差が出ます。先輩から「ちょっと、あれ取って」と言われた時に、冷蔵庫をパッと開けて、サッと食材を取り出して渡せるか。これをできずに「えっと、どこだっけ」なんてグズグズしていると、「バカ野郎」となってしまう。

そこで、冷蔵庫の中を六つに仕切って整理整頓し、どこに何が入っているかメモを取り、扉に貼っておく。さらに、量が少なくなったら小さな容器に移し替え、いつも冷蔵庫を広く使えるようにしていました。

〈松岡〉
ご自身で気づいて創意工夫されたことが素晴らしいですよね。

〈道場〉
それから、先輩のやっている仕事を見て、レシピを全部ノートに書き写したり、出汁巻き玉子をどれだけ早く綺麗につくれるか追求しようと、夜中に同僚が寝ている横で、濡れたタオルをフライパンの上に載せてそれを返す練習をしたりね。

僕は「仕事にも人生にも締め切りがある」とよく言うんですけど、ダラダラと仕事をしても上達しません。とにかく僕は若い頃から、今年は絶対にこの仕事を覚えるという目標を立てて努力しました。


(本記事は『致知』2018年 7 月号より一部抜粋・編集したものです

◉『致知』2024年5月号「倦まず弛まず」には、道場六三郎さんに表紙を飾っていただきました。

90歳を超えてもなお現役で仕事に向き合い続ける道場さんに、その矍鑠たる秘訣、原点にある両親の教え、若い頃からの心懸けと創意工夫の実践、逆境の乗り越え方、後から来る者たちに伝えたいこと、老いて輝く人と老いて衰える人の差を交えつつ、「倦まず弛まず」の極意をお話しいただきました。詳細はこちら【致知電子版でも全文をお読みいただけます。詳細は下記記事バナーをクリック↓↓】

◎道場さんが『致知』に寄せてくだった推薦メッセージ◎

「父の想い出の中に、いつも枕元に修養書が有りました。今、私の枕元には『致知』が有ります。人は皆、支えによって救われます。私にとって『致知』は心の支え、人生まだ93年、幸せを生きる道途中です。『致知』は〝人生航路の羅針盤〟であり、そのおかげで安心して日送りが出来ます」

道場六三郎みちば・ろくさぶろう
昭和6年石川県生まれ。25年単身上京し、銀座の日本料理店「くろかべ」で料理人としての第一歩を踏み出す。その後、神戸「六甲花壇」、金沢「白雲楼」でそれぞれ修業を重ね、34年「赤坂常盤家」でチーフとなる。46年銀座「ろくさん亭」を開店。平成5年より放送を開始したフジテレビ「料理の鉄人」では、初代「和の鉄人」として27勝3敗1引き分けの輝かしい成績を収める。12年銀座に「懐食みちば」を開店。17年厚生労働省より卓越技能賞「現代の名工」受賞。19年旭日小綬章受章。著書に『「一本立ちできる男」はここが違う』(新講社)など多数。

 

 

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