「人生方程式:結果=能力×熱意×考え方」の神髄 新井正明×稲盛和夫

1994年の対談当時、住友生命保険の社長や会長を歴任した関西財界の重鎮であった新井正明さん。京セラの経営に加え、第二電電の設立にも携わり、八面六臂の活躍を続けていた稲盛和夫さん。いま読んでもいささかも色褪せない貴重な名対談から、稲盛さんが考え出した「人生方程式」の神髄についてご紹介します。

人生・仕事を導く方程式

〈新井〉
稲盛さんが人生方程式というのを創られて、仕事、人生の結果は能力×熱意×考え方で決まると言われていますが、その通りだと思います。

〈稲盛〉
あの方程式は私自身が生きる術として考えたんです。というのは、私自身田舎の地方大学しか出ていませんし、そう優秀だったわけでもないものですから、能力、頭脳という点では劣るかもしれない。しかし、人生は能力だけで決まるのではなく、もっと他のファクターで決まるはずだ。

つまり、人生をいかに生きるかということについて、一所懸命に研究するというようなことは後天的に自分の意志で決められる。そう思いついた時に、子供の頃のことを思い出したんです。

というのは、我われが小さい頃、鹿児島の人たちが中央の政界や官界で出世し、帰省してくる。すると、近所のおじさんが「小学校の頃、俺は級長であいつは頭がよくなくて、俺によく泣かされたやつだ」とか言うんです。

〈新井〉
ええ(笑)。

〈稲盛〉
確かに、そのおじさんは弁も立つし、近所でも有名なんですが、どうもそのおじさんと、いま帰ってきておじさんがバカにする人とを比べてみると、雲泥の差で向こうが偉いと思うのに、おじさんに言わせれば、あいつは大したことなかった、と言う。

それで、おじさんは大変威張って、そういうことを吹聴しているけど、子供心に、どうも向こうのほうが偉い。いや、なぜそうなったんだろう。

おじさんは小学校の頃からいまも、能力があったのを鼻にひっかけて努力をしなかった。あの人はそれほどできがよくなかったから級長はできなかったかもしれないけれども、以後、一所懸命に努力をしたから、その差が何十年も経ち、人生の後半になった時に大変な差になった。

そのことに、ふっと気がついて、あぁ、あのおじさんは能力のあるのを鼻にひっかけて威張っておったんやな。だからあんなふうになったんだということに思い至りまして、それで考え方や哲学というのが大事だ、と。

〈新井〉
なるほど。

〈稲盛〉
それと、私は小学校の6年生の時に結核をやりまして、助からんと言われた。その時に、生長の家の谷口雅春さんの本を読んで救われたことがあったものですから、哲学とまではいきませんが、本当に人生は心の置きどころ、心の置き方一つによって、かくも変わるものかと、ああいう方程式を作ったわけです。

考え方にはプラス100点からマイナス100点までありますからね。つまり世を拗ね、世を恨み、まともな生き方を否定するような生き方をすればマイナスがかけられ、人生や仕事の結果は能力があればあっただけ、熱意が強ければ強いだけ、大きなマイナスになります。


(本記事は月刊『致知』2021年4月号 特集「稲盛和夫に学ぶ人間学」より一部抜粋・編集したものです)

【特集「追悼 稲盛和夫」を発刊しました】

去る8月24日、稲盛和夫・京セラ名誉会長が逝去されました。35年前、1987年の初登場以来、折に触れて様々な方との対談やインタビューにご登場いただくのみならず、たくさんの書籍の刊行、数々のご講演を賜るなど、ご恩は数知れません。
生前のご厚誼を深謝し、月刊『致知』12月号では「追悼 稲盛和夫」と題して特集を組みました。豪華ラインナップは以下特設ページよりご覧ください。
【著者紹介】
◇新井正明(あらい・まさあき)
大正元年群馬県生まれ。昭和12年東京大学法学部法律学科卒業。同年住友生命保険に入社。13年に応召、ノモンハン事件での戦傷により右脚を切断。15年復職。25年取締役。33年常務。38年専務。41年社長。54年会長。61年名誉会長に就任。長年、安岡正篤氏に師事し、関西師友協会会長も務めた。平成15年死去。著書に『古教、心を照らす』『心花、静裏に開く』『先哲の言葉』(いずれも致知出版社)。

◇稲盛和夫(いなもり・かずお)
昭和7年鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。34年京都セラミック(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、平成9年より名誉会長。昭和59年には第二電電(現・KDDI)を設立、会長に就任、平成13年より最高顧問。22年には日本航空会長に就任し、27年より名誉顧問。昭和59年に稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった方々を顕彰している。また、若手経営者のための経営塾「盛和塾」の塾長として、後進の育成に心血を注ぐ。著書は『人生と経営』『「成功」と「失敗」の法則』『成功の要諦』『致知新書 何のために生きるのか』(いずれも致知出版社)など多数。


◇追悼アーカイブ
稲盛和夫さんが月刊『致知』へ寄せてくださったメッセージ

「致知出版社の前途を祝して」
平成4年(1992)年

 昨今、日本企業の行動が世界に及ぼす影響というものが、従来とちがって格段に大きくなってきました。日本の経営者の責任が、今日では地球大に大きくなっているのです。

 このような環境のなかで正しい判断をしていくには、経営者自身の心を磨き、精神を高めるよう努力する以外に道はありません。人生の成功不成功のみならず、経営の成功不成功を決めるものも人の心です。

 私は、京セラ創業直後から人の心が経営を決めることに気づき、それ以来、心をベースとした経営を実行してきました。経営者の日々の判断が、企業の性格を決定していきますし、経営者の判断が社員の心の動きを方向づけ、社員の心の集合が会社の雰囲気、社風を決めていきます。

 このように過去の経営判断が積み重なって、現在の会社の状態ができあがっていくのです。そして、経営判断の最後のより所になるのは経営者自身の心であることは、経営者なら皆痛切に感じていることです。

 我が国に有力な経営誌は数々ありますが、その中でも、人の心に焦点をあてた編集方針を貫いておられる『致知』は際だっています。日本経済の発展、時代の変化と共に、『致知』の存在はますます重要になるでしょう。創刊満14年を迎えられる貴誌の新生スタートを祝し、今後ますます発展されますよう祈念申し上げます。

――稲盛和夫

〈全文〉稲盛和夫氏と『致知』——貴重なメッセージを振り返る

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