いま経営に求められるのはチャレンジスピリット【鈴木敏文×北尾吉孝】

左が北尾氏、右が鈴木氏

いまや私たちの生活に不可欠な社会インフラとなったコンビニエンスストア。周囲の反対をものともせず、この新しい小売り・流通システムを我が国で創り上げたのが鈴木敏文氏さんです。その鈴木さんと肝胆相照らす仲である北尾吉孝さんもまた、金融とインターネットの融合を通じて新しい市場を創造し、我が国有数の金融グループを創り上げてきました。2人はいかにして常識を覆す大事業を成し遂げたのでしょうか。そして次代を担う者たちに伝えておきたいこととは──。

人真似はするな、何事も挑戦

〈北尾〉 

若者に限らず、経営者も積極性に乏しくなっているように思われます。特に大企業の経営者は内部留保ばかり膨らませて、新しい分野に思い切って設備投資をして道を切り開こうという気概のある人が少なくなっています。これはデータを見ても明らかです。

〈鈴木〉 

平たく言えば、挑戦する人が少なくなっているんですよ。きっと社会が恵まれ過ぎているからでしょうが、かつてはとにかく挑戦しなければ生きていけませんでした。人真似はするな、何事も挑戦というのが僕のモットーだけれども、昔は誰もがそういう思いを抱いて懸命に前へ進んでいたと思います。

〈北尾〉 

戦争に負けて、瓦礫の中から立ち上がってきたわけですからね。先日アントニオ猪木さんがお亡くなりになりましたが、戦後間もない頃にテレビで放映されたプロレスでは、力道山が西洋の巨漢レスラーをなぎ倒す様子に喝采が湧き上がりました。この日本を何とかしなければという空気が、かつては国中に漲っていましたね。

その甲斐あって、日本のGDPは一時世界2位にまで上り詰めましたが、国が豊かになるにつれて日本人の間からかつてのようなチャレンジスピリットがあまり感じられなくなってしまったのは残念なことです。

〈鈴木〉 

どんなに時代が変わっても大事なのは、やっぱり挑戦ですよ。人真似じゃなくてね。こう言うと抵抗を感じる方が多いかもしれませんが、いまは人真似が多過ぎると思うんです。誰もやったことがないような、新しいことに果敢に挑戦していく人が少なく思われてなりません。

〈北尾〉 

インターネットの影響も大きいと思います。いまはインターネットから簡単に情報を引っ張ってこられますし、それをコピペ(複製して貼りつける)する技術ばかり上手になっているから、レポートを書かせたら似た文章がいくつも出てくる。自分の頭で考える力が損なわれてしまうのが、情報社会の一つの怖さですよ。

〈鈴木〉 

僕は大学を出て出版取次大手のトーハンに入り、最初に配属になったのが出版科学研究所でした。そこでは、まだ出版に関するデータが不十分な中で、どういう出版物がよく売れるのかを調査するために、いろんな情報を集めたり、消費者の方に集まっていただいてフリーディスカッションをしたりしながら、苦労してしっかりした統計データをまとめ上げていきました。そこで身についたデータの生かし方や心理学的な視点は、後にセブン‐イレブンを育てていく上で非常に役立ちました。

ところが、満ち足りたいまはなかなかそういう体験を積むことができません。参考書は揃っているし、インターネットで検索すれば何でも分かる。そうすると、それを見ればいいやということになって、北尾さんがおっしゃるように自分で考えることをしなくなってしまうんですね。そういう意味では、豊かないまの時代のほうが却って不幸かもしれません。

〈北尾〉 

そこを打開していくためには、何事も主体的に考える習慣を身につけることが大事だと思います。他人が言っていることを鵜呑みにするのではなく、自分ならどう考えるかと常に自問自答することですよ。

例えば、テレビで不祥事を起こして謝っている社長を見たら、自分があの立場だったら何と言おうかと考えてみる。平素からそういう訓練を自分に課すことを通じて「自我作古(じがさっこ)」(我より古を作なす)、前人未踏の新しい分野に挑戦し、たとえ困難や試練に遭遇しても、それを乗り越えて道を切り開こうという精神を養ってほしいですね。


(本記事は月刊『致知』2023年1月号「遂げずばやまじ」より一部抜粋・編集したものです)

◎『致知』2023年1月号「遂げずばやまじ」には、それぞれの道を切り開いてきた鈴木さんと北尾さんの対談を掲載。本対談には、

・「成功者の実体験に学ぶ」

・「コロナ禍で失われた3年をどう取り戻すか」

・「創り上げたのはアメリカと異なる店」

・「天意に導かれた創業」

・「孫正義氏との邂逅」

・「自分を信じ、執念を持って挑戦する」

など、いかに新しい事業を創造するか、困難・逆境をいかに突破し、人生・経営を発展させていくか。その要諦が余すところなく語られています。本記事の詳細・ご購読はこちら「致知電子版」でも全文をお読みいただけます】

◎鈴木敏文さん、北尾吉孝さんは共に弊誌『致知』をご愛読いただいています。創刊45周年を祝しお寄せいただいた推薦コメントはこちら↓↓◎

月刊『致知』創刊四十五周年、誠におめでとうございます。

気が付けば『致知』とは創刊当時からの長いお付き合いとなります。

何気ない言葉が珠玉の輝きとなり私の魂を揺さぶり、五臓六腑にしみわたる湧き水がごとく私の心を潤し、日常を満たし、そして人生を豊かにしてくれている『致知』に心より敬意を表し感謝申し上げます。

学びは、暗闇の中に一筋の光を見出すようなもの。『致知』は未来を担う次世代のリーダーの方々にも、人生に新たな光明をもたらしてくれるでしょう。

今後ますますのご発展を祈念致します。

『致知』は私の愛読雑誌となっている。この雑誌を読み始めて、ある種の安心感(ほっとしたような気持ち)を得た。何故そのような気持ちを得たかというと、世の中には「人生いかに生きるべきか?」という問いの答えを探し続け、自己の修養に努めている方々が多くおられる、ということを知ったからである。

また、そうした方々から本誌を通じて教えられたり、勇気づけられたりすることがよくある。こういう方々を「道友」と勝手に呼ばせて頂いている。中江藤樹先生が、「天下得がたきは同志なり」という言葉を残しているが、私は『致知』を通じて道を同じくする「道
友」にめぐり合うという幸運に恵まれた。
 我々は君子を目指し、一生修養し続けなければいけない。私利私欲で汚れてしまう明徳を明らかにしなければいけない。そして、その修養の一番の助けにるのが、私はこの『致知』であると思う。
 創刊四十五周年を心よりお祝い申し上げるとともに、一層の飛躍を期待したい。

◇鈴木敏文(すずき・としふみ)

昭和7年長野県生まれ。31年中央大学経済学部卒業後、東京出版販売(現・トーハン)に入社。38年ヨーカ堂(現・イトーヨーカ堂)に転職。48年セブンイレブン・ジャパンを設立し、コンビニエンスストアを全国に広め、日本一の流通グループとして今日まで流通業界を牽引する。平成285月より現職。著書に『わがセブン秘録』(プレジデント社)など多数。

◇北尾吉孝(きたお・よしたか)

昭和26年兵庫県生まれ。49年慶應義塾大学経済学部卒業。同年野村證券入社。53年英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。野村企業情報取締役、野村證券事業法人三部長など歴任。平成7年孫正義氏の招聘によりソフトバンク入社、常務取締役に就任。現在SBIホールディングス代表取締役会長兼社長。著書に『何のために働くのか』『修身のすすめ』(共に致知出版社)など多数。

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