「謙虚であれ」——WBA世界ミドル級スーパー王者・村田諒太選手が心に刻むスピリット

ロンドン五輪ボクシング・ミドル級スーパー王者に君臨する村田諒太選手。並々ならぬ努力と独自の人生哲学で世界王者の栄冠を掴んだ村田選手ですが、その原点には高校のボクシング部で薫陶を受けた武元前川先生の教えがあったといいます。
『致知』2021年11月号掲載の村田選手の対談からその感動エピソードをご紹介します。対談のお相手はプルデンシャル生命保険で前人未到の業績を上げ、現在はアスリート支援の会社を経営する金沢景敏さんです。
[撮影=菅野勝男]

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人生の核をつくった恩師の教え

〈金沢〉
先ほど人生の節目でよき師との出逢いに恵まれたとおっしゃっていましたが、特に薫陶を受けた方はどなたですか?

〈村田〉
高校時代の監督である武元前川先生ですね。

中学3年の夏休みに、通っていたジムで僕を指導してくれていた元日本チャンピオンの桑田弘さんから、「高校でボクシングやる気があるんだったら、南京都に行け」と言われ、桑田さんに連れられて強豪の南京都高校(現・京都廣学館高校)ボクシング部の練習に参加しました。

その時初めて武元先生にお会いしたんですけど、「試験で零点取らなかったら入れてあげるよ」と言ってくれたんです。

授業にはほとんど出ていなかったので不安はありましたが(笑)、その武元先生の顔を見て、子供ながらに、「あっ、この人だ」「ここに行きたい」と。もう直感です。

〈金沢〉
初対面でビビッと感じるものがあった。武元先生からどんなことを学ばれましたか?

〈村田〉
たくさんあるんですけど、選手の持っている可能性を否定しなかったですね。

新入生向けの部活紹介で、僕らボクシング部は希望者を舞台に上がらせて即興で対決させる余興を恒例にしていました。高校3年の時、僕が一発殴っただけで相手を病院送りにさせてしまったことがあるんです。

その時、普通だと「何やってんだ、この野郎」って鉄拳制裁が飛んでくるでしょう。僕も殴られるなと思っていたら、武元先生は「おまえの拳は人と違う。腰も回るし、体重も乗る。そんなことに使うんじゃない」と窘めてくれました。おまえの拳には可能性があるんだから、上を目指すために使えという意味だったと受け止めています。

それから、「謙虚であれ」というのが武元先生の一貫した教えだったと思いますね。

例えば、試合前の計量の時に生意気なやつがいるんですよ(笑)。そういうやつを試合でノックアウトして「ほれ見たことか」と思ってガッツポーズした瞬間に、僕らは「やばい、やってしまった」と。ガッツポーズは絶対に許してくれなかったです。負けた選手に対して失礼だと。

〈金沢〉
負けた相手に敬意を払う。

〈村田〉
汗水垂らして同じように練習しても、全国大会に出場できる人とできない人がいるわけじゃないですか。悔しい思いをしている選手たちの上に立っていることを忘れるな、人の痛みを知る人間になれとよく言っていました。

だから、適当な試合も許されませんでした。たとえ負けても前に出て戦う姿勢を失っていなければ励ましてくれましたし、反対に、勝っても気持ちが乗っていなくて消極的な時には、容赦なく叱られました。苦しい時こそ前に出るんだと。勝ち負けよりも、逃げるという気持ちの弱さが見えるボクシングが大嫌いでしたね。

〈金沢〉
(京都大学アメリカンフットボール部の)水野監督も、手を抜いているとか僕らの弱さを絶対に見逃さない方でした。「死ぬほどしんどい思いをしろ。もがき苦しみながら目の前のことを一所懸命やることが、おまえの器をつくることになるんだ」と。当時は嫌で仕方なかったんですけど(笑)、そういう人に触れたことが人生の財産になっていると思います。

〈村田〉
学校は人間教育の場であるし、ただ強くなればいいっていうものじゃない。それが武元先生のスピリットでした。


(本記事は月刊『致知』2021年11月号 特集「努力にまさる天才なし」より一部を抜粋・編集したものです)

◉『致知』2021年11月号には、WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太選手、プルデンシャル生命保険で前人未到の成績を上げ、世界の生保営業パーソンの上位0.01%に到達した金沢景敏さんの対談を掲載。それぞれの挫折体験を乗り越え、いかに世界の頂点に立ったのか。仕事と人生のヒントが満載の対談です。ぜひご覧ください!「致知電子版」でも全文をお読みいただけます)】

◇金沢景敏(かなざわ・あきとし)
1979
年大阪府生まれ。2005年京都大学工学部卒業後、TBS入社。2012年プルデンシャル生命保険に転職。1年目にして同社の国内営業社員約3200人中1位(個人保険部門)に輝く。3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織として知られるMDRT(Million Dollar Round Table)6倍の基準であるTOTTop of the Table)に到達。最終的にはTOT基準の4倍の成績を上げ、個人の営業マンとして伝説的な数字をつくった。202010月同社を退職すると、人生トータルでアスリートの生涯価値を最大化し、新たな価値と収益を創出するAthReeboを起業、代表取締役に就任。著書に『超★営業思考』(ダイヤモンド社)。

◇村田諒太(むらた・りょうた)
1986年奈良県生まれ。中学1年でボクシングを始め、南京都高校(現・京都廣学館高校)時代に高校5冠を達成。2004年東洋大学に進学し、1年次に全日本選手権優勝。しかし北京五輪出場を逃し、現役引退。2008年より5年間、東洋大学の職員兼ボクシング部コーチとして勤務。2009年現役復帰し、全日本選手権3連覇を果たす。2012年ロンドン五輪ボクシング・ミドル級で日本人初の金メダルを獲得。同年、紫綬褒章受章。2013年プロに転向。2017WBA世界ミドル級タイトルマッチに勝利し、世界王者に。翌年1度防衛した後、王座陥落するも、2019年王座奪還。プロ戦績は162敗。著書に『101%のプライド』(幻冬舎)。

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