【人間力営業の時代|第2回】常に先約を優先する判断と勇気——永業塾主宰・中村信仁

日本ブリタニカに高卒で入社し、初年度から世界トップテンの営業実績を挙げた中村信仁さん。現在はそうした営業経験をもとに、業種・業界を問わずあらゆるジャンルの営業人たちに向けた「永業塾」を全国8か所で主宰し、これまで延べ18,000人と面談し、導いてきました。

本連載「人間力営業の時代」では、営業の道を30年以上歩んできた中村さんに、体験を通して掴んだ「営業の大原則」、営業ならぬ「永業」の神髄を伝授いただきます。第2回では、先約を優先する大切さをお話しいただきました。

※人間力営業とは
「心が技術を越えない限り技術は生かされない」
箸の上げ下げ、挨拶の仕方、話し方、など暮らしの中には様々なやり方があります。営業の世界にもやり方があります。しかし在り方を理解せずやり方に走ると、営業パーソンは顧客に嫌われます。営業の世界においてやり方をマスターするのはマナーですが、そこに心が伴わなければ顧客はファンになってくれません。人間力営業とは、技術を身につけた営業パーソンがひとつ上を歩くための心構えを説くものです。

【第1回】心が技術を越えない限り、技術は生かされない

自分都合で見込み客をランク付けていないか

わたしたちは無意識に顧客をランク付けしています。

その例をあげると、「いい顧客」と「悪い顧客」、「都合のいい顧客」、「優しい顧客」、「足が遠のく顧客」、「簡単な顧客」、「難しい顧客」などというように、自分基準、または自分目線、自分都合で顧客をランク付けしています。

見込み客に対しても同じことをしています。

そうするよう指導するマネジャーがいるのも事実です。

契約金額が大きいAランク、中程度のBランク、いつでもいいCランク、という具合に見込み客を選別しています。

先日、大手生保会社に勤めるAさんは長年追い続けていたC社長から電話をもらいました。事業承継の案件で、それが決まればかなり大口の契約になることは必至です。

「来週の木曜日、午後2時だったら時間をつくれますがAさんの予定はいかがですか」

というC社長の申し出に、Aさんは飛びつきました。

手帳を確認すると既に別件が入っていましたが……その見込み客はCランクと位置付けていて、決まったとしても少額の契約でしかない……、いつでもいい契約という程度……。

Aさんは受話器に向かって叫んでいました。

「大丈夫です。その日のその時間に、必ずお伺いいたします」
「あっそう、じゃあ、よろしく」

アポイントが固まりAさんは来週への期待で胸が高鳴りました。

早速、元々予定の入っていたCランクの見込み客へ予定変更の連絡を入れます。

「あっ、○○さんですか? 実は来週の木曜日のお約束なんですが、どうしても外せない打合せが入ってしまいまして、別日程に変更をお願いしたくお電話しました……」

先方はAさんからの変更依頼を了承してくれました。

すべての段取りは完了です。あとはC社長との商談をまとめるだけ……。

まるで運に味方され、突然人生が順風満帆に進み出したようです。

相手にしたことはそのまま我が身に返ってくる

週が変わり、いよいよ大切な木曜日を迎えたAさん。

午前中は余念なく準備の確認をして過ごし、そろそろ現地へ向かおうかとしたとき、会う予定のC社長から電話が入りました。

「もしもしAさん? ごめんごめん、実はどうしても外せない打合せが入ってしまって……別日程に変更してもいいかな? また改めて連絡するから」

そういって電話は切れてしまいました。

Aさんは愕然とすると同時に、少しの怒りを感じました。どれほど準備していたことか、この日のために、どれだけ予定を調整したことか……。

それでも気を取り直したAさんは、元々約束していた見込み客へ電話しました。

「今日会う約束を変更していただき、先週はありがとうございました。実は思ったほど時間がかからず、予定通りお会いできそうなのですが……」

「あっ、Aさんごめんなさい、実はさっき別の会社と契約を済ませてしまいました」

Aさんは、なんて勝手なことをみんなするんだ! と憤慨しながらも、必死に冷静を装って静かに電話を終えました。

でも一番身勝手だったのは、もうお分かりのようにAさんです。

AさんはCランクの見込み客を無下にあしらった様に、C社長から同じことをされました。

実は「人は暇な人を嫌う」ものなのです。

C社長から連絡が入ったとき、別アポがあった時点で、他の日時への変更を依頼すべきでした。C社長は「Aさんは忙しくて、デキる営業パーソンなんだ」と認識を改め、大切に接すしてくれたはずです。しかし、こちらの都合に調子よく合わせてくれる程度の営業パーソンなので、大して大切に扱ってはくれませんでした。

また、「したことはされる」という摂理から、Aさんはこのようになっても仕方ないというしかありません。人を粗末に扱う営業パーソンは、確実に人から粗末に扱われるものです。 

そしてすべて自分都合で我がままに振舞ったからバチが当たったのでしょう?

さて、このように、無意識に心の中で顧客または見込み客をランク付けしていませんか。それはそのままわたしたちへのランク付けでもあります。顧客はわたしたちをCランクの営業パーソンとランク付けしているかもしれません。

わたしたちが顧客からの信頼を得る方法はひとつです。

それは常に先約を優先する判断と勇気ある行動のみです。

冠婚葬祭と親の死に目以外は、絶対先約を優先してください。

一度約束したことを反故にしない生き方を徹底してください。

【第3回】「当たり前」の範囲を広げる


◇中村信仁(なかむら・しんじ)
昭和41年北海道生まれ。59年高校卒業後、日本ブリタニカに入社し初年度から営業成績世界トップテンに名を連ねる。63年に独立。現在は企業の新卒採用や営業の支援事業の傍ら、「永業塾」を主宰し、後進の育成に携わる。年間50回の営業セミナーと年間30本の講演、毎週のオンラインセミナーを精力的にこなし、営業に関する執筆を続ける。また、地元北海道でラジオ番組のレギュラーを持ち、毎週木曜日午後6時から「中村信仁でナイト」3時間生放送中。中村信仁オフィシャルサイト   や中村信仁無料メールマガジン   などでも積極的に情報発信を行っている。著書に『営業の魔法』(BC)『営業の意味』『営業の神様』(ともにエイチエス)など多数。

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