2022年10月31日
稲盛さんの偉大な功績
稲盛和夫さんがご逝去されました。令和4年8月24日午前8時25分、享年90でした。
日本を代表する経営者として、その名を知らない人はいないでしょう。27歳で京都セラミック(現・京セラ)を、52歳で第二電電(現・KDDI)を創業し、それぞれ1代で1.8兆円、5.4兆円を超す世界的企業に育て上げました。
78歳の時には、事業会社として戦後最大の2.3兆円の負債を抱えて倒産した日本航空の再建を託され、会長に就任。1年目に1,800億円、その翌年には2,000億円の利益を計上し、僅か2年8か月で再上場へと導きました。
フィロソフィ(経営哲学)とアメーバ経営(小集団独立採算制度)に基づく独自の経営手法により、業種の異なる3社をいずれも大きく飛躍、発展させてきたのです。
稲盛さんの功績はそれだけに留まりません。中小企業経営者の勉強会「盛和塾」の塾長を無報酬で務め、数多くの経営者の教育に心血を注いできました。発足から解散までの36年間で、国内56塾、海外48塾、塾生数は約1万5,000名に及びました。
京セラ創業25周年の節目に、200億円の私財を投じて稲盛財団を創設すると、翌年に「京都賞」を立ち上げ、人類社会に多大な貢献をもたらす人物の顕彰を続けてきました。京都賞受賞者の中から後にノーベル賞を受賞する方が何名も誕生したことから、日本発の国際賞として世界的な権威が高まっています。
稲盛さんの稀有なところは、自らが真剣に仕事と人生に打ち込む日々の中で体得した仕事哲学・人生哲学を、著書や講演活動を通じて余すところなく説き明かし、年齢や性別や職種や国籍を超え、たくさんの人がその言葉に惹きつけられた、という点にあります。
稲盛さんと『致知』の縁
稲盛さんと弊誌の出逢いはいまから35年前、そのきっかけをつくってくださったのがTDK中興の祖と呼ばれた素野福次郎先生です。
素野先生は『致知』の熱心な愛読者で、「これからの日本に一番大事なのは人材教育だ。そのためには『致知』を社長に読ませなくてはいけない」と巻き紙の手紙を添え、身銭を切って約250名の企業経営者に『致知』を1年間贈呈してくださいました。
その中の1人に稲盛さんがいらっしゃり、ご縁ができたのです。1987年2月号に初めてご登場いただいて以来、折に触れて様々な方とご対談いただき、7回にわたり表紙を飾っていただいた上に、5冊の書籍の刊行、数々のご講演を賜りました。
また、創刊15年目、弊誌が大きな試練に見舞われていた際には、「致知出版社の前途を祝して」というメッセージを寄せてくださいました。それは単なる励ましの言葉ではなく、ご自身が企業経営を通して掴まれたエッセンスが凝縮されており、30年近く経ったいまなお、いささかも色褪せることのない、普遍的な内容だと言えるでしょう。
「昨今、日本企業の行動が世界に及ぼす影響というものが、従来とちがって格段に大きくなってきました。日本の経営者の責任が、今日では地球大に大きくなっているのです。
このような環境のなかで正しい判断をしていくには、経営者自身の心を磨き、精神を高めるよう努力する以外に道はありません。人生の成功不成功のみならず、経営の成功不成功を決めるものも人の心です。
私は、京セラ創業直後から人の心が経営を決めることに気づき、それ以来、心をベースとした経営を実行してきました。経営者の日々の判断が、企業の性格を決定していきますし、経営者の判断が社員の心の動きを方向づけ、社員の心の集合が会社の雰囲気、社風を決めていきます。このように過去の経営判断が積み重なって、現在の会社の状態ができあがっていくのです。そして、経営判断の最後のより所になるのは経営者自身の心であることは、経営者なら皆痛切に感じていることです。
我が国に有力な経営誌は数々ありますが、その中でも、人の心に焦点をあてた編集方針を貫いておられる『致知』は際だっています。日本経済の発展、時代の変化と共に、『致知』の存在はますます重要になるでしょう」
以後、創刊20周年から40周年まで、5年ごとの周年行事には必ず『致知』への期待を込めたご祝辞を直接間接に頂戴しました。
稲盛さんが高く評価し、応援してくださっていた『致知』を今後さらに充実した内容に磨き上げ、世の中に人間学を広め伝承していくこと。それが本誌の責務であり、多大なるご厚情を賜った稲盛さんへのご恩返しと受け止めています。
稲盛さんが説き明かした繁栄への道
稲盛さんの追悼特集号を組むことが決まったのは、8月末、訃報に接した直後でした。本誌主幹を中心に編集部が総力を挙げて企画を練り、京セラ㈱稲盛ライブラリーの全面的なご協力のもと、稲盛さんの講演録や本誌最後のインタビューといった貴重な肉声はもちろんのこと、稲盛さんと特にご縁の深かった各界の方々に取材をさせていただき、発刊の運びとなりました。
本誌でしか組めない豪華ラインナップをここにご紹介します。
○特別講話
「人は何のために生きるのか」稲盛和夫
盛和塾生の経営者のみならず、一般の方々にもよりよい人生を歩んでいただきたい――。そんな稲盛さんの想いにより実現した盛和塾主催の市民フォーラムは、2002年から2016年にかけて、日本・海外の各地で累計10万人もの人々を動員しました。
とりわけ、2013年10月29日に大阪国際会議場で開催された講演会には2,500名を超える参加者が集い、ホールに入りきらない人々が別室モニターから聴講するほどの熱気に溢れ、「人が自ら運命を創り、素晴らしい人生を生きるためのヒント」が語られたといいます。これまで門外不出だった珠玉の名講話がこのたび本誌で初公開されました。
○対談
「稲盛さんに学んだリーダーの条件」
伊藤謙介(京セラ元社長)×小野寺正(KDDI元社長)
京セラとKDDI。稲盛さんが創業した両社は現在、数兆円規模の大企業へと成長しています。それぞれの創業期に稲盛さんと共に会社を盛り立ててきたのが伊藤謙介さんと小野寺正さんです。
「いまはとにかく寂しい、残念」。伊藤さんのこのひと言に始まり、創業の苦楽を共にしてきたお二人ならではの逸話が数多く披露され、稲盛さんの偉大さを改めて実感させられました。長年稲盛さんの謦咳に接し、その人柄を熟知するお二人だからこそ語ることのできる稲盛さんとの思い出、エピソード、稲盛さんに学んだリーダーの条件のお話に興味は尽きません。
○インタビュー
「後世に伝えたい稲盛さんの創業者魂」
永守重信(日本電産会長)
共に京都の地で会社を興し、一代で日本を代表する1兆円企業へと導いてきた二人の経営者がいます。稲盛和夫さんと永守重信さん。同じ申年生まれで年齢はひと回りの差があり、永守さんは常に稲盛さんの背中を追いかけ、目標として仕事に邁進してきたといいます。
永守さんは現在、多忙で取材は断っているものの、稲盛さんに関する取材だけは受けるとのことで時間を捻出してくださいました。稲盛さんが亡くなられたいま、永守氏は何を思い、これからどう歩んでいこうとしているのか。約40年に及ぶ稲盛氏との付き合いの中で受けてきた影響を交えつつ、胸の内を明かしました。創業経営者としての迸る情熱や気魄と共に、時に垣間見える少年のような眼差しから、稲盛さんへの深い敬慕の念が伝わってきます。
○エッセイ
「我が心の稲盛和夫」
このコーナーには稲盛さんとゆかりのある9名の方にご登場いただきました。五木寛之さん(作家)、柳井正さん(ファーストリテイリング会長兼社長)、村田純一さん(村田機械会長)、門川大作さん(京都市長)、清水新一郎さん(日本航空副社長)、伊藤雅章さん(京都サンガF.C.社長)、武隈晃さん(鹿児島大学 稲盛アカデミー長)、曹岫雲さん(稲盛和夫〔北京〕管理顧問有限公司董事長)、大田嘉仁さん(日本航空元会長補佐専務執行役員)です。いずれのお話も胸を打たれずにはいられません。
○対談
「稲盛さんに教わった人生で大切なこと」
岡田武史(FC今治オーナー)×栗山英樹(侍ジャパントップチーム監督)
稲盛さんの生き方・哲学を学んでいるのは経営者やビジネスパーソンだけではありません。スポーツ界もその一つです。
サッカー界で活躍する岡田武史さんは稲盛さんと親交があり、監督時代に盛和塾へ入塾するほどの熱の入れよう。野球界で活躍する栗山英樹さんは稲盛さんに私淑し、著作を通してその哲学を学んできました。
そんなお二人は指導者として、どのように稲盛哲学をチームマネジメントに生かしてきたのでしょうか。笑いあり、学びあり、感動ありの稲盛さん談義から、職業のジャンルを越えて真に人を導く者のあり方が見えてきます。
○座談会
「我ら、かく稲盛フィロソフィを学び、経営を発展させてきた」
十河孝男(徳武産業会長)×小池由久(日本経営HD名誉会長)×濵田総一郎(良知経営社長)×京谷忠幸(ピーエムティー社長)
稲盛さんには経営者の顔だけではなく、後進の中小企業経営者を育成する教育者としての側面もありました。地元京都の若手起業家から生きた経営哲学を学ぶ勉強会を開催してほしいと懇願され、これまでお世話になった方へのご恩返しとしてボランティアで始めたのが盛友塾(後の盛和塾)です。
1983年から2019年の解散まで36年にわたって指導を続けました。稲盛さんを師と仰ぐ盛和塾生は約1万5,000名に及びます。
中でも稲盛さんや弊誌と縁の深い徳武産業会長の十河孝男さん、日本経営HD名誉会長の小池由久さん、良知経営社長の濵田総一郎さん、ピーエムティー社長の京谷忠幸さんの4名に、厳しくも慈愛に満ちた稲盛さんの教えを語り合っていただき、3時間超に及んだ白熱の座談会をギュッと凝縮してまとめました。
○アーカイブ/インタビュー
「利他の心こそ繁栄への道」稲盛和夫
2018年5月号特集「利他に生きる」の巻頭を飾り、本誌最後の取材となった貴重なインタビュー記事をここに再録しました。単なる復刻版ではなく、中面に掲載している写真を大幅に差し替え、デザインを刷新していることもポイントの一つ。
取材当日、与えられた時間は60分。体調が芳しくないため、30分ほどで打ち切りになるかもしれないと側近の方から伝えられていました。しかし、本誌が質問を発するごとに、どんどん稲盛さんの表情がほぐれ、生気が漲り、時には満面の笑みを、時には真剣に質問の答えを考えられる仕草を見せられ、実際には1時間15分に及ぶ白熱の取材に。側近の方が「これだけ長い時間の取材に応じ、こんなに笑顔の稲盛を見たのは久しぶりです」と驚嘆するほどでした。
そこで語られた内容は、京都賞を創設した理由、京都賞受賞者の共通点に始まり、松風工業での修業時代の日々、そこでの転機と心掛け、京セラ創業のドラマ、経営理念に込めた思い、さらには働くことの大切さ、盛和塾で訴えかけていること、KDDI創業の経緯と成功秘話、JALを奇跡の再生に導いたカギなど、稲盛さんの生き方・働き方・考え方のエッセンスが鏤められています。
稲盛さんが説き明かした「人生と経営」、そして「繁栄への道」――。そのすべてが「追悼 稲盛和夫」には込められています。ぜひ本誌をご覧ください。
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◇追悼アーカイブ◇
稲盛和夫さんが月刊『致知』へ寄せてくださったメッセージ
「致知出版社の前途を祝して」
平成4年(1992)年
昨今、日本企業の行動が世界に及ぼす影響というものが、従来とちがって格段に大きくなってきました。日本の経営者の責任が、今日では地球大に大きくなっているのです。
このような環境のなかで正しい判断をしていくには、経営者自身の心を磨き、精神を高めるよう努力する以外に道はありません。人生の成功不成功のみならず、経営の成功不成功を決めるものも人の心です。
私は、京セラ創業直後から人の心が経営を決めることに気づき、それ以来、心をベースとした経営を実行してきました。経営者の日々の判断が、企業の性格を決定していきますし、経営者の判断が社員の心の動きを方向づけ、社員の心の集合が会社の雰囲気、社風を決めていきます。
このように過去の経営判断が積み重なって、現在の会社の状態ができあがっていくのです。そして、経営判断の最後のより所になるのは経営者自身の心であることは、経営者なら皆痛切に感じていることです。
我が国に有力な経営誌は数々ありますが、その中でも、人の心に焦点をあてた編集方針を貫いておられる『致知』は際だっています。日本経済の発展、時代の変化と共に、『致知』の存在はますます重要になるでしょう。創刊満14年を迎えられる貴誌の新生スタートを祝し、今後ますます発展されますよう祈念申し上げます。
――稲盛和夫
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