〝ろくろの神様〟93歳、現役の人間国宝に聞く人生・仕事の極意——陶芸家・井上萬二

93歳のエネルギーに圧倒される

陶芸家・人間国宝の井上萬二さんの取材は、もともとは、以前の編集会議で、ある編集者から提案のあった企画でしたが、その時は採用に至らず、しばらく眠ったままになっていました。

しかし今回、「実行するは我にあり」という特集を組むことに決まり、特集全体のラインナップを考える中で、『致知』らしい重厚感のある人間学の達人、長年にわたり一つの道を極めてきた「一生一事一貫」の人物にトップを飾っていただきたいと思い、改めて井上さんの存在に注目しました。

そこで詳しく調べてみると、この方は間違いなく本物であると感動し、取材を申し込みました。

井上さんが部屋に入ってこられた際、一瞬、「えっ、この方が人間国宝の陶芸家!?」と疑ってしまうといいますか、面喰ってしまったくらい、よい意味で゛普通のおじいちゃん゛でした。

つまり、「俺は人間国宝だ」「当代随一の陶芸家だ」などという感じが一切なく、世界的なデザイナーのコシノジュンコさんがおっしゃっていた「一流の人は普通の人」をまさに体現されている方だと感じました。

また、93歳とは全く思えないほど矍鑠(かくしゃく)としていて、こちらの質問に的確に淀みなく答えてくださる。声は大きいし、頭はシャープ、耳も遠くない。そしてユーモアがある。開口一番、「93歳といっても、私は39歳って言ってるんです」と切り出され、一気に惹き込まれました。

そこから取材前後の雑談を含めると約230分、話がとまらず(笑)そのバイタリティーに圧倒されっぱなしだったんです。

人生・仕事の極意「名陶無雑」

取材では、実体験を通して生まれた含蓄に富む金言の数々に、とても心を打たれましたが、最も感動したのは井上さんの座右銘である「名陶無雑」という言葉です。

これは「よい焼き物には雑念がない。創り手に雑念があるうちは名陶を生み出すことはできない。だから、技と心を磨き続ける」という意味だといいます。

「私のことを゛ろくろの神様゛と紹介するメディアがありますけど、まだまだそんな域には達していません。死ぬまでが努力ですから、これでいいというゴールはないんです」

「壺に心を惹かれている限りは何歳になっても青年期です。年だと思ったら作品も枯れるし、自分自身も枯れてくるから、いつまでも現役で、心は万年少年の気概で、きょうも作陶に魂を込めていく」

これらの言葉に象徴されるように、謙虚で飾らない誠実さ、一途に道を求める純粋な情熱、何歳になっても感動する心を持ち、これでいいと思わず学び続ける姿勢に、これぞまさに超一流たる所以であると教えられます。

人間国宝・井上萬二さんのロングインタビューは、『致知』2022年9月号「実行するは我にあり」でお読みいただけます。

本記事には、

・「仕事とは死ぬまでが恋」

・「下積みの六年間で徹底的に技を盗む」

・「運を掴むには人並み以上の努力をせよ」

・「仕事をすればするほどアイデアは浮かぶ」 

など、井上さんが93年の歩みの中から掴んだ人生発展の法則を語っていただいています。あなたの人間力・仕事を力を高めるヒントが満載、井上さんの記事の【詳細・購読はこちら(「致知電子版」でも全文をお読みいただけます)】

◇井上萬二(いのうえ・まんじ)

昭和4年佐賀県生まれ。15歳で海軍飛行予科練習生に入隊。復員後、17歳で柿右衛門窯に弟子入りし、初代奥川忠右衛門に師事。県立有田窯業試験場での勤務、米国ペンシルべニア州立大学の焼物の講師を経て、46年に独立し、現在の井上萬二窯を開く。平成7年重要無形文化財指定(人間国宝)に認定される。9年紫綬褒章受章、15年旭日中授章受章。活動は国内だけに留まらず、アメリカ、ドイツ、ハンガリー、モナコ、ポルトガル、ポーランドなど、世界各国で多数の個展を開いている。現在、日本工芸会参与、有田町名誉町民。

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