東京タワーはかくて完成した──建築家・内藤多仲の生き方

 

写真:『建築と人生』(鹿島出版会)より

名古屋テレビ塔、大阪通天閣(二代目)、東京タワー。各地で名物として親しまれるこれらの構造設計を一手に引き受けたのが、「日本の耐震建築の父」「塔博士」の異名を取る建築家・内藤多仲です。自らも同じ建築の道へ進んだ次男の内藤多四郎氏に、家庭での知られざる素顔を交え、多仲博士の足跡を辿っていただきました。

「鉄塔造りは、私に課せられた宿縁」

〈内藤多四郎〉
1957年、東京タワーの設計者として、父・内藤多仲に白羽の矢が立ちます。産経新聞社社長で、時の国会議員だった前田久吉から、「エッフェル塔の320メートルを凌ぐ世界一高い電波塔ができないか」と要望があったのです。

地震と台風が多発し、敗戦から立ち直り切っていない日本で、そんなことが可能なのか。関係者の誰もが心配しましたが、父はそれを「鉄塔造りは、私に課せられた宿縁」と快諾するのです。

この時、父70歳。45年間勤めた早稲田大学を退職し、名誉教授となったばかりでした。父はすぐさま基本設計に入り、同時に二人の教え子に声をかけ、共に構想を練っていきます。

前例のないタワーであり、膨大な計算が必要でした。驚くべきことの一つは、それを電卓やコンピュータではなく、恩師の佐野先生にもらった小さな計算尺を使ってすべて自分の手で行っていた点です。

いまならこんな計算もすぐできると思われるでしょう。しかし、電卓があればできるわけでもないのです。

東京タワーに求められる役割は、テレビ局が増え電波が錯綜する時代に、関東一円に安定したテレビ電波を流すこと。そのためには前例のない高さの塔を建て、同時に揺れを最低限に抑える必要がありました。加えて、戦後間もない東京で鉄を大量に揃えるのは大変難しかったのです。

これではタワーがつくれません。そこで父が打ち出したのは、過去に地震や台風を乗り切った塔の構造を踏まえ、鉄をエッフェル塔の半分以下にする案でした。教え子たちが驚く中、様々な揺れや風に耐え得る部材の強度を割り出すべく膨大な計算に入ります。耐震構造理論を打ち立て、知悉(ちしつ)していた父だからできた提案でした。

当初はアンテナも含めた高さは380メートルと予定されていましたが、それでは先端のアンテナが揺れすぎるため、結果として誰もが知る333メートルの高さに落ち着きました。設計はやり直しとなり、描かれた図面は3か月で1万枚に及んでいます。

この時、学生だった私も一所懸命、構造計算書の清書を手伝ったことをいまも懐かしく思い出します。

そうして1958年、多くの人が待ち望んだ夢のタワーが完成したのでした。

様々な困難を乗り越えて、努力を重ねてきた人生でしたが、父は決してその苦労を表に出さない人でした。東京タワー完成の6年後、日本の建築界への貢献、功績が認められ、勲二等旭日重光章を受章します。こういう時ばかりは普段は寡黙な父も、親戚一同を集め、大いに感謝を伝えていました。

授章式の後には、郷里・山梨へ車を走らせ、若き日に学資の援助を受けた恩人の家を訪れています。

「積み重ね
  つみ重ねても
   またつみかさね」

84年の天寿を全うした父が晩年したためた揮毫では、この言葉が厳正な漢字からだんだんと末広がりのひらがなに変わっています。父の生活全般で徹底していた生き方が表れているようです。


◉本記事は『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社)に掲載されています。詳しくはこちら

◇内藤多仲(ないとう・たちゅう)——明治19年山梨県に生まれる。43年東京帝国大学建築科を卒業後、早稲田大学講師。以降教授、理工学部長などを歴任し、昭和32年定年退職、名誉教授となる。33年紺綬褒章、34年紫綬褒章、39年勲二等旭日重光章を受ける。4584歳で逝去。著書には専門書の他、『建築と人生』(鹿島出版会)がある。

◇内藤多四郎(ないとう・たしろう)——昭和7年東京生まれ。33年早稲田大学理工学大学院修士課程修了、日建設計入社。62年同社取締役・東京技術センター所長。日建アクト・デザイン社長、東西建築サービス社長を経て、平成7年より12年間、日本建築積算協会副会長を務める。

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