【最後の日本兵】小野田寛郎さんはなぜ、29年間潜伏したルバング島で孤独を感じなかったのか

1万本以上に及ぶ月刊『致知』の人物インタビューと、弊社書籍の中から、仕事力・人間力が身につく記事を精選した『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(藤尾秀昭・監修)。本日は本書に収録された365篇の中から、フィリピン・ルバング島のジャングルで、太平洋戦争終了後も29年間潜伏し、生還した元陸軍少尉の小野田寛郎さんのインタビュー記事をお届けします。

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決して一人で生きているわけではない

ルバング島にいた30年間で発熱は2回でした。それは仲間が負傷して、介護疲れでちょっと出しただけです。熱が出たところで、医者も薬もないですから、まずは健康でいることが大事です。そして健康でいるには頭をよく働かせなければダメです。自分の頭で自分の体をコントロールする。健康でないと思考さえ狂って、消極的になったりします。

島を歩いていると、何年も前の遺体に会うこともあるんです。それを埋めながら、「早く死んだほうが楽ですね」と仲間に言われ、本当にそうだなと思ったこともあります。

獣のような生活をして、あと何年したらケリがつくか保証もないですし、肉体的にもそういつまでも戦い続けるわけにもいかない。いずれはこの島で死ななきゃいけないと覚悟しているので、ついつい目の前のことに振り回され、「それなら早く死んだほうが……」と思ってしまう。

結局頭が働かなくなると、目標とか目的意識が希薄になるんです。だから、仲間と喧嘩をするのも、頭が働かずに正しい状況判断ができない時でした。

右に行くか、左に行くか。そっちへ行ったら敵の待ち伏せに遭うから嫌だと言う。しまいには、「隊長は俺たちを敵がいるところへ連れて行くのか、そんな敵の回し者みたいな奴は生かしておけない」と言って銃を持ち出します。

「馬鹿、早まるな。やめろ」と言えばいいんですけど、こちらもついつり出されて銃を構えてしまう。しまったと思って、「じゃ命があったらまた会おう」と言って回れ右して、僕は自分が行こうと思っていた道を行くのですが、背中を見せるわけだから、そこで撃たれたら死んでいました。だから僕らの場合は議論をするにも命懸けでした。

いずれにしても、頭がしっかり働かなくなると正しい状況判断ができなくなる。よく孤独感はなかったかと聞かれましたが、僕は孤独なんていうことはないと思っていました。22歳で島に入りましたが、持っている知識がそもそもいろいろな人から授かったものです。すでに大きな恩恵があって生きているのだから、決して一人で生きているわけではないのです。

一人になったからといって昔を懐かしんでは、かえって気がめいるだけですから、一人の利点、それを考えればいいんです。一人のほうがこういう利点があるんだと、それをフルに発揮するように考えていれば、昔を懐かしんでいる暇もなかったです。


(本記事は『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』より一部を抜粋・編集したものです)

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◇小野田寬郎(おのだ・ひろお)
大正11年和歌山県生まれ。旧制南海中学卒業後、貿易会社に就職、中国へ。17年入隊。陸軍中野学校でゲリラ戦の特殊訓練を受け、19年フィリピンのルバング島に遊撃指揮、残置諜者として派遣される。終戦を信じずジャングルを盾に戦い続け、49年、30年ぶりに帰還した。翌50年4月ブラジルに渡り、牧場を経営。現地の初代日本人会会長も務める。59年自然塾開設、後に㈶小野田自然塾設立。平成16年ブラジル空軍より民間最高勲章メリット・サントス・ドゥモンを授与される。同年ブラジル国南マットグロッソ州名誉州民。17年藍綬褒章受章。著書に『たった一人の30年戦争』(東京新聞出版局)、『わが回想のルバング島』(朝日新聞出版)等がある。

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