憎しみの連鎖をいかに断ち切るか——お釈迦様の言葉に学ぶ|鈴木秀子×横田南嶺

人類の発展や心の救済に大きな影響を与え続けてきた聖人・お釈迦様。特に現代のような混迷の時代には、ますますその教えが求められています。私たちはお釈迦様の教えから何を学び、どう生きていけばよいのでしょうか。禅の師家である鎌倉円覚寺管長の横田南嶺さんに、いま現代人に伝えたいお釈迦様の言葉を教えていただきました。対談のお相手は、文学博士の鈴木秀子さんです。

◎【残り僅か!3/31まで】お申込みくださった方に『渋沢栄一 一日一言』プレゼント!新生活応援CP実施中。この春、新たなステージに挑戦するあなたの「人間力」を磨き高めるために、人間学を学ぶ月刊誌『致知』をぜひご活用ください。

たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら

慈しみの心が憎しみを断つ

〈鈴木〉
特にいまのこの混迷を極める時代には、お釈迦様やイエス様という偉大な聖人の残した言葉から私たちが汲み取っていかなくてはいけないものも多くありますね。

〈横田〉
おっしゃる通りですね。きょうはそのことについてもお話ししたいと思って、お釈迦様の言葉を3つほど選んでみました。

一つには『法句経』にある次の言葉です。

「彼はわれを罵った。彼はわれを害した。彼はわれにうち勝った。彼はわれから強奪した。」という思いを抱かない人には、ついに怨みが息む。実にこの世においては、怨みに報いるに怨みを以てしたならば、ついに怨みの息むことがない。怨みを捨ててこそ息む。これは永遠の真理である。(『法句経』4、5番)

この言葉の後半は、後にスリランカ大統領となったジャヤワルダナ氏が1951年のサンフランシスコ講和会議の時、演説の中に盛り込んだことで知られていますが、私たちの歴史に鑑みても憎しみや報復の連鎖というのは、1000年経っても2000年経ってもやむことがありません。これから新しい時代に向けて、この連鎖を断ち切らなくてはいけないというのが仏教者としての私自身の切なる願いでもあるんです。

もちろん、スポーツの勝ち負けなどはいい意味での競争ですから別としても、あらゆる面において怨みを残すような勝ち方は、禍根を生むことしかないと思いますね。怨みの連鎖を止めるのは慈しみしかありません。その意味でも、この言葉はいまを生きる私たちが噛みしめるべき言葉の一つかと思います。

〈鈴木〉
私も全く同感です。

〈横田〉
2番目の言葉ですが、お釈迦様を信奉していたコーサラのパセナーディ王にこのような逸話があります。王はある時、「この広い世に、自分自身よりも愛しいと思うものはあるだろうか」と王妃に問うと、王妃は、「自分よりも愛しいと思われるものはない」と答えます。それで国王はお釈迦様を訪ねて、「自分たちの考えは間違っているのではないか」と問いました。それに対するお釈迦様の答えが『相応部経典』にある言葉です。

人の思惟は何処へも行くことができる。されど、何処へ行こうとも、人は己れよりも愛しきものを見いだすことを得ない。それと同じように、すべて他の人々にも自己はこのうえもなく愛しい。されば、おのれの愛しいことを知るものは、他のものを害してはならぬ。

これは「不害の教え」と呼ばれるもので、自分は誰よりも自己を愛しいと認めた上で、あらゆる命ある存在も大切にしなくてはいけないと述べているわけです。孔子様が「己の欲せざるところは、人に施すなかれ」とおっしゃっていますが、それとも通じますね。この言葉もお釈迦様の根本の教えといえるでしょう。

〈鈴木〉
自分を愛おしく思う心を、否定することなく受け入れていくということですね。

〈横田〉
最後、3つ目にご紹介したいのは、『スッタニパータ』という原始経典にある言葉です。

人が生まれたときには、実に口の中に斧が生じている。愚かな者は、悪口を言って、その斧によって自分を切り裂くのである。自分を苦しめず、また他人を害しないことばのみを語れ。これこそ実に善く説かれたことばなのである。

私がこの言葉を挙げましたのは、いま会社でもいろいろな人間関係でも、嫌いな相手に直接的に暴力を振るうことは少なくなったように見えます。しかし、半面、SNSなどの世界では、自分の顔が見えないのをいいことに徹底して罵詈雑言を浴びせかけ、言葉で傷つけたり、時として死に追い込んでしまうケースもあります。せめて、誰もが自分の中に恐ろしい斧や刃物を持っていると自覚してさえいれば、発する言葉には慎重にならなくてはいけないと思うはずです。

しかも、悪口は相手を傷つける前に自分自身の尊厳を傷つけるんですね。特にいまのネット社会には心に刻むべきかと思い、最後に挙げてみました。


(本記事は月刊『致知』2021年10月号 特集「天に星 地に花 人に愛」より一部抜粋・編集したものです)

◎鈴木秀子さんと横田南嶺さんの対談の全文は『致知』2021年10月号をご覧ください。また、お二人には、『致知』にてそれぞれ「人生を照らす言葉」と「禅語に学ぶ」を連載していただいています! 人生・仕事を導く教え、感動実話が満載の好評連載です◎

◎【残り僅か!3/31まで】お申込みくださった方に『渋沢栄一 一日一言』プレゼント!新生活応援CP実施中。この春、新たなステージに挑戦するあなたの「人間力」を磨き高めるために、人間学を学ぶ月刊誌『致知』をぜひご活用ください。

たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら

 

◇鈴木秀子(すずき・ひでこ)
東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。聖心女子大学教授を経て、現在国際文学療法学会会長、聖心会会員。日本にエニアグラムを紹介。著書に『自分の花を精いっぱい咲かせる生き方』『幸せになるキーワード』(共に致知出版社)『死にゆく人にあなたができること』(あさ出版)など。近刊に『機嫌よくいれば、だいたいのことはうまくいく。』(かんき出版)。

◇横田南嶺(よこた・なんれい)
昭和39年和歌山県新宮市生まれ。62年筑波大学卒業。在学中に出家得度し、卒業と同時に京都建仁寺僧堂で修行。平成3年円覚寺僧堂で修行。11年円覚寺僧堂師家。22年臨済宗円覚寺派管長に就任。2912月花園大学総長に就任。著書に『人生を照らす禅の言葉』『禅が教える人生の大道』『命ある限り歩き続ける』(五木寛之氏との共著)など多数。近刊に『十牛図に学ぶ』(いずれも致知出版社)。

人間力・仕事力を高める記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 10,500円(1冊あたり875円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 28,500円(1冊あたり792円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

閉じる