人の悩みもマジックも原理は同じ。人生の〝思い込み〟を解く!(志村祥瑚)

新体操日本代表のコーチを務め、チームを史上初の世界大会金メダルへと導いた精神科医兼マジシャンの志村祥瑚さん。精神医学とマジックを融合したメンタルトレーニングによって多くの人々の心を花開かせてきた志村さんは、「実は人が悩むのもマジックで騙されるのも原理は同じ」と語ります。人間の悩みの原因となる〝思い込み〟はなぜ生まれるのか、その解き方について伺いました。※記事の内容や肩書はインタビュー当時のものです。

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見えたものがすべてではない

――精神科医とマジシャンを掛け合わせた仕事をされていると伺いましたが、お会いして早々、スマートフォンから名刺が飛び出してきたマジックには驚きました。

〈志村〉
言葉で伝えるよりもお見せするほうが早いですから(笑)。外来で治療する時や講演やメンタルトレーニングを行う時も、実際にマジックを披露しています。

精神医学とマジック、なぜこの二つを? と多くの方が疑問を抱くと思いますが、実は人が悩むのもマジックで騙されるのも原理は同じで、どちらも〝思い込み〟によるものなのです。

それを理解していただくためには、やはりマジックをお見せしたほうが早いので、ここでもう一つマジックをします。いま右手にハンカチがありますね。これを左手の握りこぶしの中に押し込んでいきます。ギュギュっと中まで押し込んで、おまじないをかけると、ハンカチが消えるんです。

――?? 本当に消えてしまいました(笑)。

〈志村〉
今回は特別にタネ明かしをしましょう。いま必死にハンカチをご覧になっていますが、実は仕掛けはハンカチではなく、手にあります。親指をよく見てください。親指にサックをはめているのに気づきませんか(笑)。先ほどはこのサックの中にハンカチを押し込み、再び親指にはめていたのです。

タネ明かしをする志村さん

――こんなあからさまなところにタネがあったのですか。気づかなかった自分にも驚きます。

〈志村〉
これがまさに〝思い込み〟です。僕が「ハンカチが消えます」と言ったので、皆さんはハンカチを注目して見ていた。意識はカメラのレンズのようなもので、ピントがあったところは見えますが、そうでないところは意識外に押し出され、視界に入っていたとしても見えなくなってしまう。

これはマジックだけでなく人生についての考え方も同様です。外来にいらっしゃる方の中には、「コロナ禍で行き詰まり、死ぬしかない」「試合のレギュラーになれなかったからもう終わりだ」と思い込みや囚われによって視野が非常に狭まってしまった方が多くいらっしゃいます。そうした方々に、初めから言葉で〝思い込み〟について説明してもなかなか理解していただけないので、マジックを通じて、自分が見ていると思っていたものがすべてではないとお話ししているのです。

――見えたものがすべてではない。

〈志村〉
私たちの脳には一秒間に7ギガバイトもの情報が入ってきているといわれています。視覚、聴覚、触覚、味覚など様々な手段がありますが、それらをすべて意識することができないため、無意識下で取捨選択しています。

例えば、いまこの瞬間、瞬きをしていることやお尻が椅子に接している感覚を意識していましたか? 話すという一つのことに意識を向けていると、それ以外の情報はカットされてしまうのです。

ハンカチのマジックも、僕がハンカチではなく「指を見ていてください」と声をかけていれば、絶対に仕掛けに気づいたはずです。と言っても、思い込みは自分では気づきにくいものですので、こうしてマジックのタネ明かしをして、意識のフォーカスを広げてもらっているのです。

意識を「ゴール」から「行動」にシフトする

──スポーツ選手のメンタルコーチ就任はどういういきさつで?

〈志村〉

医学部五年生の時に出演した朝の情報番組『スッキリ』の放送を見てくださっていた女子新体操日本代表の山崎浩子強化本部長から依頼を受け、2017年から選抜代表チームの指導に携わるようになりました。

実績もないのに、突然オリンピック選手のメンタルコーチを依頼され、初めは無理だと思いました。しかし、これも思い込みだと捉え直してお引き受けし、10代~20代の選手たちを3か月に1度のペースで指導しています。

──どのような指導をされているのですか?

〈志村〉

ここでもマジックです。選手たちは勝利に命を懸けているので、綺麗なんですけど尖った刃のような怖い目つきをしていました。そこでマジックを通じて少しずつ思い込みから解放していきました。

皆、「ゴールは達成しなければいけない」「幸せな状態・成功というのは、何か結果を出すことだ」と、結果重視の思考に陥っていました。これを精神医学上「ゴール・フォーカス志向」と呼びますが、これでは終わりのないラットレースを走っているようなものです。

慢性的な欠乏感やフラストレーションに襲われ、ゴールまでの過程を楽しめるはずがありませんし、燃え尽き症候群になりやすい。

このゴール・フォーカス志向と対を成すのが「バリュー・アクション志向」です。価値に沿った行動をし続ける、意識をゴールから行動にシフトするという考えです。

──結果ではなく行動が大事。

〈志村〉

そうです。僕の場合、マジックを使って人々の思い込みを解く活動をすることが幸せなのでいまこの瞬間も、結果が出ていないとしても成功なんです。世の中を見ても、将棋の羽生善治さんや藤井聡太さんなどはバリュー・アクション志向で生きていますね。

ただ、ゴールが不要と言っているわけではありません。〝ゴールは自由への切符〟です。例えば、僕が医師国家試験に合格すると、精神科医としてより様々な場面で活動ができますよね。ですから正しい視点でのゴール設定は不可欠です。そうでないと達成しても満たされず、ゴールなき戦いとなってしまいます。

特に近年はSNS社会で常に人と比べやすくなったため、その傾向が顕著に表れています。こうした考え方を選手たちに一つひとつ丁寧に教えていきました。


◉月刊『致知』2021年7月号に志村祥瑚さんが登場!◉
過去にうつを患い、そこから人生に光を見出してきた軌跡と、意識の「フォーカス」(焦点)を変えて生きる大切さを4ページにわたってインタビューしました。


(本記事は月刊『致知』2021年7月号 特集「一灯破闇」より一部を抜粋・編集したものです)

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◇志村祥瑚(しむら・しょうご)
平成3年東京都生まれ。幼少期よりマジックを始め、24年20歳の時にラスベガスジュニアマジック世界大会優勝。「思い込み」の研究のために精神医学を専攻し、精神医学とマジックを融合させたオリジナルのメンタルトレーニングライブを確立。慶應義塾大学医学部卒業後、銀座駅前メンタルクリニック院長として診療。その他、カヌースラロームオリンピック日本代表選手、新体操日本代表「フェアリージャパンPOLA」等、トップアスリート、企業経営者などのメンタルコーチを務める。著書に『人生のタネ明かし 成果を出す人に共通する心の秘密』(講談社)など。

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