【追悼・宮脇昭先生】現場に出て、目で見て、匂いを嗅いで……!現場主義を貫いた理由

土地本来の樹木を活用し、森を再生させる独自の植林活動に長年取り組み、2006年には国際環境賞「ブループラネット賞」を受賞された横浜国立大名誉教授の宮脇昭さんが、7月16日にお亡くなりになりました。宮脇先生の信念を貫いたご活動により、どれだけの森林が蘇ってきたか――その地球への貢献は計り知れません。宮脇先生のご冥福を祈り、『致知』2012年12月号にご登場いただいた際の言葉をお届けします。お相手は、松下幸之助の薫陶を受け、志ネットワーク「青年塾」代表として後進の育成に取り組んでいる上甲晃さんです。

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大事なことは現場、現場、現場

〈上甲〉
……いまの役人の話じゃないですが、私が先生のお言葉でもう一つ衝撃的だったのは

「私は人と付き合って騙されたことはない。なぜなら本物としか付き合わないから」

だと(笑)。「本物ってなんですか?」と聞きましたら、こうおっしゃいましたね。

「私は〝そのうちに〟と言う人とは付き合わない」

〈宮脇〉
日本人の「そのうちに」は、「やらない」という意味です。植樹にしても、何月何日に第一回目をやると決められるか。そして決めたら必ずやるか、ということです。

〈上甲〉
「やれることからすぐに始める。これが本気さの証明だ」という言葉もなかなか強烈でしたが、やはり私も長年人づくりに関わってきて、それはすごく共感するところがありました。

また、先生はとにかく「現場、現場、現場」とおっしゃって、いまも世界中飛び回って植樹をされていますね。私が主宰する「青年塾」も「現場が教室だ」と言っているんです。

この前、台湾から「青年塾」の取材があった時、「まず、校舎を撮影したい」というので、「青年塾には校舎はありません。現地・現場が教室です」と申し上げたのですが、どんなことも現場に行き、現物を見て、そこから物事を話し合わないと何も進みません。

だから今年の「青年塾」のサマーセミナーでは、参加した塾生およそ百人が気仙沼の紫会館という神社に併設した集会所に泊まったんです。ここは50人も入れば満員の広さなのですが、震災の時は100人以上の人が2か月以上寝泊まりしたところです。しかも被災された方はあの3月に着るものもない、食べ物もない、断水だからトイレも流せない状態だった。

たった1日ですけれど、塾生たちをそこに泊まらせました。ここ100人もの人たちが2か月もいるのはいかに大変なことだったかを、頭ではなく、身をもって実感したはずです。

〈宮脇〉
現場を前にして議論をしないと、すべてが空論になります。

〈上甲〉
そのとおりですね。そういう点からも、宮脇先生とは出会ったばかりですが、私が人づくりで求めてきたことと先生が森づくりでやっておられることが、非常に通ずるところがあると感じているのです。

〈宮脇〉
私に「現場」の大切さを教えてくれたのは、師であるチュクセン教授です。

私は農家の生まれですから、一年中草むしりに追われる両親の姿を見て育ちました。なんとか楽にさせてあげたいと思い、雑草の研究に取り組んだのですが、地味な研究ですから、どんなに論文を書いても日本では相手にされませんでした。

その論文に目を留めてくれたのがチュクセン教授で、彼の招きで2年間ドイツに留学しました。

どんな学びがあるのかと思ったら、来る日も来る日も現場へ行って植物を調べ、土を掘り続ける毎日でしたから、一度だけ「せっかくドイツに来たのだから、いろいろな本も読みたいし、ほかの教授の話も聞いてみたい」と訴えたんです。すると彼は、

「見よ、この大地を! 39億年の生命の歴史と巨大な太陽エネルギーの下での生命ドラマが目の前にある。現場に出て、目で見て、匂いを嗅いで、舐めて触って調べろ! 現代人には二つのタイプがある。見えるものしか見ない者と、見えないものを見ようと努力する者だ。ミヤワキ、君は後者だ。現場が発しているかすかな情報から見えない全体を読み取りなさい」

この言葉をもらって以来、50年現場主義を貫いています。


(本記事は月刊『致知』2012年12月号の対談「震災の瓦礫から未来を拓く」より一部抜粋したものです)

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◇宮脇昭(みやわき・あきら)
昭和3年岡山県生まれ。27年広島文理科大学卒業。33年から35年までドイツ国立植生図研究所研究員。横浜国立大学講師、助教授を経て、48年教授に。平成5年から同大学名誉教授。4年紫綬褒章受章。12年勲二等瑞宝章受章。17年ブループラネット賞受賞。代表的な著書・編著書に『日本植生誌』(全10巻・至文堂)『鎮守の森』(新潮社)など。震災復興に関して、『瓦礫を活かす「森の防波堤」が命を守る』(学研新書)『「森の長城」が日本を救う』(河出書房新社)などの著書がある。

◇上甲晃(じょうこう・あきら)
昭和16年大阪府生まれ。40年京都大学卒業、松下電器産業に入社。56年松下政経塾に転任し、平成7年10月まで同塾塾頭、常務理事、副塾長を務める。8年松下電器産業を退職し、志ネットワーク社設立。青年塾などを展開している。著書に『志のみ持参』『続・志のみ持参』『志を教える』『松下幸之助の求めたるところを求める』(いずれも致知出版社刊)などがある。

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