「躓くのは歩いている証拠」 ホッピー石渡美奈社長の〝前に進む勇気〟が出る話

酒屋の赤提灯が印象的な「ホッピー」をはじめ、サワー、ビールなども手掛けるホッピービバレッジ株式会社。同社は7月15日を、1948年にホッピーの製造・販売を始めた「ホッピーの日」と定めています。3代目社長として、そんな会社を大きく発展させてきた石渡美奈(いしわたり・みな)さんに、読めば勇気が湧いてくる若き日の体験談をお話しいただきました。

結婚生活の挫折を機に

〈石渡〉
私にとっての20代、それは自分がどう生きればよいのかに悩み、そして壁にぶち当たってばかりの時代でした。

「躓くのは歩いている証拠」

これは以前、尊敬する先生からいただいた言葉ですが、人生において躓くのは歩いている証拠、つまり躓くということは成長している証拠だというのです。

だからどんどん躓きなさい、ただし転ぶ時は前向きに、後ろ向きには転ぶな、とも教えていただきました。私の20代はまさに躓きの連続でしたが、それを一つひとつ乗り越えてきた中で自分なりに得た気づきというものを少しでもお伝えできればと思います。

現在私が社長を務めるホッピービバレッジは平成22年に創業100周年を迎え、創業者である祖父の跡を父が引き継ぎ、私が3代目です。

優秀な婿(むこ)をとって会社を継いでもらえばいい。いつしか芽生えたそのような考えのままに、大学卒業後はいわば婿探しで大手食品メーカーに入社。自分が本当は何がやりたいのかというイメージすら持つこともなく、私は社会人デビューを果たしたのです。

おかげさまで跡継ぎとしては申し分のないよきご縁に恵まれ、入社3年にして寿退社。周囲からは、羨望(せんぼう)の目で見られていたことでしょう。

ところがある日、ふと気がつきました。社会に居場所のない自分、どの組織にも所属していないことがどれだけ寂しく、そしてつまらないことか、ということにです。

その年の秋に式を控えているわけですから、花嫁修業でもすればよいものの、私はじっとしていることができず自分の居場所を探しました。

友人の伝手で、広告代理店のフルアルバイトを始めたのは、式の2か月前のこと。それまで自分が育ってきた実直な飲料メーカーや食品メーカーとの環境の違いに違和感を覚えたものの、私の飢餓感を満たしてくれるには十分なものだったと思います。

ところが肝心の結婚生活はといえば、私の気持ちがついていかず僅(わず)か半年で破綻。それまでずっと胸に抱いてきた、婿に会社を継いでもらうという構想がもろくも崩れ去った時、私の心を占めたのは、「私は何を使命に生まれてきたのだろう」ということでした。

すぐに答えが出ない問題を抱えながら、まずは正社員として働こうと再び就職活動を始めましたが、世はバブル経済の崩壊で新卒すら就職困難な時代です。四大の文学部出で一般職を3年経験しただけのキャリアではどこも雇ってくれません。

小学校から学業に関してはずっと優等生コースを歩んできただけに、どの会社からも必要とされていないという現実に、私は大きな挫折感を味わわされたのです。

私に残されたもの、それはアルバイト先の広告代理店の仕事だけでした。それまではほんの腰掛けのつもりでいましたが、ならば本気でここで頑張ろうと心に決めると、不思議なことが起こりました。その覚悟を誰に伝えたわけでもないのに、上司から「クライアントを持つか」と持ち掛けられたのです。ずっと事務の仕事ばかりで営業は未知の世界でしたが、思い切って挑戦させてもらいました。

早速、見よう見真似で営業に出てみても、トークがたどたどしいものだからあえなく玉砕するのですが、この時にある思いが湧き上がってきました。私は仕事が好きなんだな、と。かつて結婚退職した際に感じた喪失感も、もとを辿(たど)ればこういうことだったのかと、埋もれたままの本心を知ることができた瞬間でした。

時を同じくして、規制緩和の波を背に、父が念願のビールの醸造免許を取得した日のこと。偶然会社に立ち寄った私に、父は万感の思いで創業以来の夢だったビールづくりができる喜びを私に語ってくれたのです。

この時、私の中で何かが弾けたことをはっきりと感じました。仕事が好きで一生仕事に携わりたいという思いと、目の前で父が仕事に対するロマンを語る姿とが相俟って、私が会社を継ごうという覚悟が決まったのです。

同時に、会社で祖父と父とが頑張る後ろ姿を子供ながらにしっかりと受け止めていた自分にとって、二人が灯した会社の灯を私の代で消すわけにはいかないという強い使命感も、どこからともなく湧き上がってきたのだと思います。

もっとも経営者としての苦労が骨身に染みていただけに、娘に同じ苦労をさせたくなかったのでしょう。父を説得するのに1年も要しましたが、平成9年4月1日、29歳にして社会人として再スタートを切ることができました。

人生に何一つ無駄はない

いまにして思うことは、何一つ無駄な経験はなかったということでしょう。

例えば、大手食品メーカーで働いた3年間、私は当時花形部署といわれる人事部に配属されたのですが、そこの女性の上司が教育にもの凄く厳しい方でした。箸の上げ下げから叩き直されて、とにかく毎日が窮屈で仕方がありません。

ところがそれから20年近くを経て自ら社員を教育する立場になると、かつての教育が至極真っ当だったことに気づかされます。

現在、新卒採用、社員育成を我が社の生命線と位置づけていますが、怒られてばかりいた私の三年間が役に立っていることを実感せずにはいられません。

また、昭和22年に誕生した「ホッピー」ですが、発売50年を過ぎたあたりから、ブランドとして確立させていく新たなフェーズを迎えていました。折しも広告代理店で3年間アルバイトしていたため、ここでも自らの経験を生かすことができたと感じています。

そして、お嬢様育ちで鼻持ちならなかった私が、再就職しようとした際に味わった挫折感、そして自分は役に立たない人間かもしれないという孤独感。その一つひとつの体験が、社会人として、ひいては経営者として独り立ちする上で大事な基礎となりました。

よく母が笑いながら、私くらい過去の経験や出会いを活用している人間はいないと言います。意図して歩んだ道ではありませんでしたが、自分の経験を踏まえて若い社員に伝えられることは、どんな経験も無駄な経験はない、必ず生きてくることがある、ということです。


(本記事は月刊『致知』2012年2月号 連載「20代をどう生きるか」より一部抜粋・編集したものです)


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◇石渡美奈(いしわたり・みな)
昭和43年東京都生まれ。平成2年立教大学卒業後、大手食品メーカー入社、人事部に勤務。広告代理店のアルバイトを経て、9年ホッピービバレッジ入社。15年副社長、224月社長に就任。

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