借金、夜逃げ、転職……100円ショップの先駆け「ザ・ダイソー」誕生秘話

左が矢野氏、右が鈴木氏

100円ショップの先駆けであり、業界トップの規模を誇る「ザ・ダイソー」。しかしその道のりには借金、夜逃げ、転職地獄など、様々な困難があったといいます。「ザ・ダイソー」をゼロからつくりあげた矢野博丈さんに、どん底から這い上がってきた歩み、創業秘話を語っていただきました。対談のお相手は、日本最大のコンビニチェーン「セブン-イレブン」創業者の鈴木敏文さんです。

◉誰の人生にも、よい時と苦しい時があり、その時々で心に響く言葉は違う。仕事にも人生にも、真剣に取り組む人たちの糧になる言葉を――月刊『致知』のエッセンスを毎日のメルマガに凝縮! 登録特典〝人間力を高める三つの秘伝〟も進呈しております。「人間力メルマガ」こちら

きょう一日、一所懸命頑張ろう

〈鈴木〉
最初に100円ショップって聞いた時は首を傾げたけど、一度店に入ってみたら、いろんな商品があって実に面白いなと。そのアイデアを思いついたことがすごい。

〈矢野〉
アイデアじゃないんですよ。もともとは80円から200円くらいまで小間物がいっぱいあって、それに一個一個値段をつける暇がなくなっただけなんです。

というのも、創業当初は固定の店舗があったわけではなく、トラックに雑貨を積み込み、公民館や空き地で移動販売をしていました。

ある時、お昼頃に着いたら、お客さんがたくさん待っておられましてね。トラックから商品を下ろしよったら、お客さんが勝手にそれを開けて、「これなんぼ?」「これなんぼ?」って言われるんですよ。私もいちいち伝票を見る間がないもんで、もう途中から「なんでも100円」って、ついつい言うてしもうたのが始まりなんです。

よくいろんな方から「先見の明があったんですね」って言われるんですけど、戦略で始めたんじゃないんです。困って仕方なしに100円にしたのが実際のところです。

〈鈴木〉
普通のセンスじゃできないですよ。やっぱり100円ショップをつくったというのは、ある意味の天才だと思う。

〈矢野〉
いや、鈍才なんです、超がつくほど。頭が悪くて能力もない。だから、うちは経営計画をつくったことがないんですよ。そんなものはお客さんが買ってくださってできることなので、経営計画なんかつくる必要ないと。あと、企業理念も社是社訓もありません。

会社を大きくしたいと思ったことがないんです。儲けようなんて大それたことは考えない。売れればいいんだと。きょう一日、一所懸命頑張ろう。その一点でしたね。

〈鈴木〉
そういう思いに至った原点は何だろうか?

〈矢野〉
私は学生時代に結婚して、大学を出てすぐ女房の実家へ行ったんですよ。尾道で当時70坪の魚屋を3つ経営していて、従業員も60人くらいおる会社でした。

義父がやり始めた養殖業を引き継いだんですが、2年半後に700万円の借金を背負いましてね。このままやっていたら一生浮き上がれんなと思うて、26歳の時に、女房と小さな子供を連れて東京へ夜逃げしたんです。

その後は、もう地獄でしてね。百科事典の訪問販売をやったんですが、全く売れなくて、30人中30番。ちり紙交換の仕事とか、いろいろやりましたけど、何をやってもダメで、結局9回も転職しました。義兄が経営するボウリング場を手伝ったものの、そこも倒産してしまったんです。その時にこう思いました。俺は運命の女神に嫌われているんだって。

〈鈴木〉
でも、それをずっと乗り越えてやってきたバイタリティーは大したものだ。

〈矢野〉
バイタリティーじゃなくて諦めですよ。俺の人生、夜逃げで終わったなと。運は最低だから、一所懸命に働いて飯さえ食えれば満足だと。欲がゼロでした。

それで1972年、29歳の時に雑貨の移動販売を行う矢野商店を広島で創業し、5年後に大創産業を設立して100円均一の移動販売を始めたんです。あの頃は毎日朝五時から売りに出掛け、帰ってくるのは夜11時、12時。もう生きることに精いっぱいでしたね。

〈鈴木〉
資金調達はどうしたの?

〈矢野〉
僕の親父もきょうだいも医者だったんで、もう兄貴たちのところへ行っては、「50万円貸してください」「300万円貸してください」って平身低頭して借りていました。借金を踏み倒して夜逃げした身ですから、本当は一生家族に合わす顔がないんですけど、兄貴たちが貸してくれるんでね。講演でこの話をするといつも涙が出るんです。

〈鈴木〉
立派なごきょうだいだね。

〈矢野〉
この間、『カンブリア宮殿』に兄貴も出演して、「なんで貸したんですか」って司会者が聞いたら、「だって弟って可愛いじゃないですか。子供と一緒ですよ」と言うてました。あの頃、兄貴たちに優しくしてもらったことはいまでも感謝しています。


(本記事は月刊『致知』2019年2月号 特集「気韻生動(きいんせいどう)」より一部抜粋・編集したものです)

◉『致知』2019年2月号のトップ対談にご登場いただいた鈴木さんと矢野さん。それぞれの人生の歩みはまさに、危機を突破し、革新的な事業を生み出す仕事の要諦を語っています。


王貞治氏、稲盛和夫氏、井村雅代氏、鍵山秀三郎氏、松岡修造氏など、各界トップリーダーもご愛読! あなたの人生、仕事、経営を発展に導く珠玉の教えや体験談が満載、月刊『致知』のご購読・詳細はこちら各界リーダーからの推薦コメントはこちら


致知出版社編集部ブログ

◇鈴木敏文(すずき・としふみ)
1932年長野県生まれ。1956年中央大学経済学部卒業後、東京出版販売(現・トーハン)に入社。1963年ヨーカ堂(現・イトーヨーカ堂)に転職。1973年セブンイレブン・ジャパンを設立し、コンビニエンスストアを全国に広め、日本一の流通グループとして今日まで流通業界を牽引する。2003年イトーヨーカ堂及びセブンイレブン・ジャパン会長兼CEO就任。同年、勲一等瑞宝章受章、中央大学名誉博士学位授与。20165月より現職。著書に『わがセブン秘録』(プレジデント社)など多数。

◇矢野博丈(やの・ひろたけ)
1943年広島県生まれ。1966年中央大学理工学部卒業。学生結婚した妻の家業を継いだものの、3年足らずで倒産。その後、9回の転職を重ね、1972年雑貨の移動販売を行う矢野商店を夫婦で創業。1977年大創産業設立。1987年「100SHOPダイソー」1号店が誕生する。1991年初の直営店を香川県高松市にオープン。1999年売上高 1000億円を突破。2000年『企業家倶楽部』主催の「年間優秀企業家賞」を受賞。2018年売上高4548億円で業界シェア56%の業界トップ企業である。20183月より現職。

人間力・仕事力を高める記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 10,500円(1冊あたり875円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 28,500円(1冊あたり792円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

閉じる