2021年07月06日
ブランディング戦略によって社業発展を続ける老舗企業・中川政七商店。社長の中川政七さんとタッグを組むのが、くまモンの生みの親でもあるクリエイティブディレクターの水野学さんです。そのお二人に事業発展の要諦を語り合っていただきました。経営のヒントが見つかること間違いなしです。
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事業に大義はあるか
〈水野〉
……実は(中川政七商店の)仕事をお受けしたのにはもう一つ理由があって、それは中川さんが大義を持って仕事をされているなと思ったからなんです。
中川政七商店で扱っている商品というのは、最先端のデジタル機器ではなく、何百年もかけて培われてきた知恵と技術の結晶である奈良晒という伝統的技法をベースにしたものじゃないですか。そういった知恵や技術を大切にする企業を経営されているってことは、そういったものに対する尊敬の念があるわけで、もっと言えば、人類の叡智に対する尊敬の念ですよね。
だから中川政七商店を応援することは、僕も人類の叡智を応援することにも繋がるわけで、それって素晴らしいことだなと思ってお引き受けしたんです。
〈中川〉
水野さんとお付き合いさせてもらうようになった最初の頃から、わりと大義っていう言葉が出てきたので、中川政七商店における大義って何だろうというのは、より意識して考えるようになりました。
そこから「日本の工芸を元気にする!」っていうビジョンも生まれてきたんですよね。実際、そのビジョンを掲げ出してから中川政七商店は本当の意味で変わったと思います。
それを社内に向けて言い出したのは2008年くらいのことで、それこそ最初はみんなが、「何を言ってるんやろう」ってポカンとしてましたけど、ずっと言い続けてきたことで、だんだんと理解してくれるようになりました。いまは400名の社員一人ひとりが、大義のもとに誇りを持って仕事をしてくれていると思っています。
〈水野〉
それに付随して、コンサルティングを始めたのも大きかったですよね。
〈中川〉
そうですね。「日本の工芸を元気にする!」と言った以上、それを行動に移さなきゃということで、傾きかけている工芸メーカーを再生するためのコンサルを始めたのが2009年でした。
最初は長崎県にあるマルヒロという陶磁器メーカーのお手伝いに入って、その翌年には新ブランド「HASAMI」をつくって大成功させたことで、そういう案件がいっぱいくるようになりました。それ以降、僕の仕事の半分はコンサル業になりましたけど、社内のことは社員が中心となってしっかり回してくれるようになっていたので随分助かりました。
〈水野〉
その取り組みが、全国の工芸メーカーによる合同展示会「大日本市」の開催にもちゃんと繋がっていますもんね。
〈中川〉
コンサルで全国の工芸メーカーと関係を持つことで、それがビジネスモデルとして、10年後、20年後にものすごく効いてくることには、当時から何となく気づいていました
それに、実際にコンサルをやったことで、なぜ多くの工芸メーカーが傾いているのかもよく分かりました。病は一つで、経営がないこと。100社見たら99社は予算表すらない。これって、要は経営をしていないということなので、経営をちゃんとやったら絶対によくなるんですよ。
〈水野〉
中川さんって、きっと「経営おたく」なんですよね(笑)。経営することが好きというか。
〈中川〉
好きですね(笑)。要は商売が好きなんだということは、自分でも思いますね。
ただ、商売は好きでも、僕はクリエイティブとかデザインに関するリテラシー(情報や知識の活用能力)は、水野さんと付き合う中でだいぶ分かってきたと思うんですよ。
だいたい、経営者の方でそういったリテラシーが高い人って本当に少なくて、ブランディングのことなんか分かっているような顔をしているだけで、ほぼ分かっていませんからね。
〈水野〉
それだけに、クリエイティブとかデザインが分かっている参謀っていうのが、いまの経営者に必要なんじゃないでしょうか。
〈中川〉
そうですよね。その点、僕は恵まれました。
〈水野〉
そう言わざるを得ないですよね、いまの話の流れからいって(笑)。まぁそれは冗談として、ブランディングとは何かとか、なぜ必要なのかっていうことを、きちんと理解されてない経営者の方が多いのは確かですね。
例えば、いま僕らの前にメーカーの異なる3台の録音機が並んでいますよね。簡単に言えば、ブランディングっていうのは、どうやってその中の一つを選んでもらえるかってことなんです。というのも、いまはメーカーが違っても機能はどれも似たり寄ったりで、それ以外のところで判断してもらうしかない時代になってしまいました。つまり、技術の踊り場、サービスの踊り場にきてしまったということです。
〈中川〉
まさに踊り場ですね。
〈水野〉
その時に何が大事かと言ったら、ブランドのビルドアップ作業だということなんです。要はブランドを丁寧につくっていくことになるわけですが、僕がよく言っているのは、「ブランドというのは、小石を一つひとつ積み上げていく作業だ」ってことです。
ブランドって、すごく大きな岩みたいなものを想像する方が多いんですが、本当はそうではなくて、例えば封筒のデザイン、社員の言動、名刺などすべてにブランドが宿っていくということなんです。極端な話、経営者がインタビューを受ける時のネクタイの色まで目を光らせなければ、ブランドというのはビルドアップされていかないと思うんです。
その小石というのをどんどん小さくしていくと砂のようになっていくわけで、見方によっては砂山だと言うこともできるんですよ、企業というのは。それだけに、もしどこか一か所でも崩れると、いろいろなところが崩れてしまう。それがすごく怖いところで、いかに砂山が崩れないように一つひとつ積み上げていくかが、ブランドを築いていく上ですごく大切なことだと思います。
(本記事は月刊『致知』2017年9月号 特集「閃き」より一部抜粋・編集したものです) ◎最新号申込受付中! ≪人間力を高めるお供に≫
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◇水野学(みずの・まなぶ)
昭和47年東京都生まれ。多摩美術大学卒業後、平成10年good design companyを設立。ブランドの各種デザインからブランドコンサルティングまでをトータルに手掛け、現在はイオンや相鉄グループのブランディングに携わる。
◇中川政七(なかがわ・まさしち)
昭和49年奈良県生まれ。京都大学法学部卒業後、富士通を経て、平成14年中川政七商店入社。20年社長就任。28年「中川政七」を襲名。