病気のサインを見逃さない——生命科学者と漢方医が語り合う健康長寿の極意(村上和雄×桜井竜生)

科学研究者の立場から生命の神秘の解明に生涯を捧げ尽くした故・村上和雄さん。漢方医として年間一万人の患者と向き合っている桜井竜生さん。そのお二人の対談では、心身を健康に保ち、よりよい人生を実現する長寿の極意がやさしく紐解かれています。

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健康は日々の習慣にあり

〈村上〉
『致知』読者の皆さんは、健康に関心の高い方が多いと思うんですが、桜井先生は健康を保つために大事なことは何だとお考えですか。

〈桜井〉
まずご理解いただきたいのが、全員に効く健康法というのはないということです。その上で大事なことは、自分の体をよく観察することではないでしょうか。

単純に季節が変わって涼しくなった、寒くなった、厚着しなければと感じることを「自覚」するだけでもだいぶ違います。そして、最近ストレスを感じているなと思えば、ストレスを解消する工夫をする。睡眠不足を感じるなら、上司に多少不義理をしても早く帰宅して寝ることです。

体というのは、病気になる前に必ず何らかのサインを発しているはずですから、自分の体の声をよく聴くことが大切です。

〈村上〉
そのサインを見逃して無理を続けていると、病気になってしまうわけですね。

〈桜井〉
はい。未病を通り越して本当の病気になってしまいます。

漢方の何がいいかというと、自分の体の変化を感じる訓練になるんです。いまの食欲はどうか、体が冷えていないか、体重はどうかと、普段なら何も考えずに放置してしまう変化を意識することで、センサーが働くようになるんです。

ですから漢方というのは、薬効以上にセンサーを発達させる効果が大きいと思うんです。最近では、人の体が思った以上に季節とか時代に影響されていることを感じるようになりました。

〈村上〉
普段、あまり意識することはありませんけれどもね。

〈桜井〉
分かりやすいのは、夏になると早く目覚めるし、冬になると遅くまで寝ていたくなるでしょう。これも、誰もが季節の影響を受けている証拠です。

お寺の過去帳で人がいつ死ぬのかを見ると、江戸時代は多くの人が冬に肺炎にかかって亡くなっていました。いまは暖房があるからそんなことはないと思ったら、やっぱりお葬式は1月、2月が一番多い。どんなに暖房で暖かくなっても、人間の体が冬の寒さから負荷を受けていることは明らかです。

2,000年前に編纂された『黄帝内経(こうていだいけい)』という医学書には、

「季節に従え」
「冬は冬のものを、夏は夏のものを食べよ」

ということが書いてあります。

若い頃はピンとこなかったんですが、加齢で体が弱くなってくると敏感になりましてね。夏にスイカをたくさん食べると、確かに体が冷えて冷房が少なくてすむことが分かってびっくりしました。逆に、冬は白菜などの冬野菜を鍋物などにして食べると体がとても温まる。

季節に従えという陳腐に感じられていた言葉が、年齢を重ねると長く健康を保つ大きなヒントになることが、ようやく実感できるようになってきたわけです。


(本記事は月刊『致知』2017年11月号 連載「生命のメッセージ」より一部抜粋・編集したものです)

◉『致知』2021年6月号 掲載情報 ◉
連載「生命科学研究者からのメッセージ」最終回
村上和雄先生が綴った、人間の「究極の願い」とは――
ダライ・ラマ法王の言葉を交え、渾身の〝幸福論〟を遺されています。

【著者紹介】
◇村上和雄(むらかみ・かずお)
昭和11年奈良県生まれ。38年京都大学大学院博士課程修了。53年筑波大学教授。平成8年日本学士院賞受賞。11年より現職。23年瑞宝中綬章受章。著書にスイッチ・オンの生き方』『人を幸せにする魂と遺伝子の法則』『君のやる気スイッチをONにする遺伝子の話』『〈DVD〉スイッチ・オンの生き方』『〈CD〉遺伝子オンの生き方(いずれも致知出版社)など多数。令和3年4月逝去。

◇桜井竜生(さくらい・りゅうしょう)
昭和40年奈良県生まれ。佐賀医科大学(現・佐賀大学医学部)卒業。消化器一般外科を専攻後、米国University of Louisville付属病院、北里大学東洋医学総合研究所、聖マリアンナ医科大学総合診療内科を経る。著書に『カラダにいいことをやめてみる』(講談社)『病気にならない生き方・考え方』(PHP文庫)など。

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