【限定連載 第5回】松下幸之助に学ぶ中博の経営問答 ——「日本人としての誇りと気概が日本を再生へと導く」

松下電器産業(現・パナソニック)で経営の神様・松下幸之助の薫陶を受け、その教えの神髄を多くの人々に伝導している一般社団法人「和の圀研究機構」代表の中博氏。中氏はコロナ禍に直面するいまだからこそ、松下幸之助の教え、経営哲学はより一層の輝きと真理をもって私たちに迫ってくるといいます。連載第5回は、松下幸之助の言葉と教えから、〝コロナ敗戦〟を乗り越え、日本を再生へと導く日本人としての誇りと気概を学びます。連載 第1回⇒「真剣さから新たな知恵が生まれる」

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日本が直面する〝第4の敗戦〟

連載第4回では、コロナ禍という国難を克服するためには、日本人が本来持っている力、環境の変化に柔軟に対応していく「融通無碍」の精神を取り戻すことが大切だと言いました。しかし、ここ一か月の動きを見ても、日本人の融通無碍の精神はいったいどこにいってしまったのか、首をかしげざるを得ない状況が次々と起こっています。

例えば、いま進められているワクチン接種。先般、私が住んでいる世田谷区(東京都)でも、一般高齢者へのワクチン接種が始まり、「28日の午前10時から予約を受け付けます」という通知が行政から届きました。考えてみれば世田谷区民は高齢者だけでも数十万人います。その家族も含めると、予約の連絡をする人の数はもっと膨れ上がるでしょう。

案の定、受付時間になり、電話・インターネットの両方で予約してみたところ、全く繋がらない。ようやく予約できたのはお昼過ぎで、電話を掛けた回数は実に600回を超えていました。私は「ああ、予約できて運がよかった」と安堵するよりも、オリンピックを目前に控え、日本の命運を握っているともいえるワクチン接種がなぜスムーズにできないのか、この国の仕組み、システムはいったいどうなっているんだと驚愕しました。それはPCR検査でも、ワクチン開発でも同様です。

実際、世界の中で、日本のワクチン接種はかなり遅れています。国によっては、アジアやアフリカの途上国よりも遅れています。要は、デジタル化の問題も含めて、日本はシステム後進国になってしまっているのです。

かねて私は戦後70年の中で、日本は「3つの敗戦」を経験してきたと考えてきました。一つには1945年の大東亜戦争の敗戦、二つにはバブル崩壊以降のマネー(経済・金融・IT)敗戦、三つには2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故による原発敗戦です。しかし、いまの日本を見ていると、まさに第四の敗戦、即ち〝コロナ敗戦〟に直面していると言わざるを得ません。

自主自立の精神を取り戻す

ではなぜ日本はそんな状況になってしまったのか。一つには、大東亜戦争に大敗した結果、日本人は何に対してもノーリスク・ローリターン、ルールを大きく変えたり、新しいチャレンジをすることに対して非常に慎重な国民になってしまったことが指摘できます。

そして、そうした中で力を持ってくるのが行政組織であり、お役人です。PCR検査しかり、ワクチン開発、ワクチン接種しかり、お役所が法律や規則、利権で雁字搦めにしてしまって遅々として進まないのです。PCR検査でも、いまは民間から非常に優れた検査機器が出てきています。そうしたものを大胆に活用していけば、もっと効率のよい検査体制がつくれるはずですが、政府も行政もリスクを取って本気で取り組もうとはしない。

一方、アメリカなどを見ると、コロナ禍に対してもやはり国家が前面に立ち、ハイリスク・ハイリターンで施策の大枠を決め、どんどん推進していっています。特に欧米諸国は、感染症問題を国家の危機、国防の問題として捉えており、トランプ前大統領は「国防生産法」に基づき、民間企業に人工呼吸器の生産を命じています。また、イスラエルは諜報機関「モサド」が積極的に動いて世界中からワクチンを集め、短期間で国民へのワクチン接種を進めました。日本とは対照的です。

ノーベル賞を受賞した山中伸弥さんが「ファクターX」と言ったように、日本には様々な問題がある中でも、諸外国と比べて新型コロナウイルスによる感染者や死者数はそこまで深刻な状況になっていません。しかし、その幸運がこれからも続いていく保証はどこにもありません。ですから、これを機に日本人一人ひとりが、この国のあり方、この国をどうしていくのかを真剣に考えなければいけないと思うのです

そのために大きな指針を与えてくれるのが、第35代アメリカ大統領であるジョン・F・ケネディの就任演説の次の一節だと思います。

「……アメリカの人々よ、あなたの国があなたのために何ができるかを問わないでほしい。あなたがあなたの国のために何ができるかを問うてほしい。
我われと共に住む世界の人々よ、アメリカがあなたのために何をするかを問うのではなく、われわれが人類の自由のために、一緒に何ができるかを問うてほしい。」

つまり、ケネディは、この就任演説でそれぞれの国家と国民が「自主自立」することの大切さを訴えかけているのです。自分の国のこと、自分の生活のことは自分たちで知恵を絞って、一所懸命に汗を流して、守り支えていくという精神であり、気概です。そして、この精神と気概を強烈なほどに抱いていたのが松下幸之助に他なりません。

求められるのは日本人としての誇りと気概

「花が散って、若葉が萌えて、目のさめるような緑の山野に、目のさめるような青空がつづいている。身軽な装いに、薫風が心地よく吹きぬけ、かわいい子供の喜びの声の彼方に、鯉のぼりがハタハタと泳いでいる。

5月である。初夏である。そして、この季節にもまた、日本の自然のよさが生き生きと脈うっている。

春があって夏があって、秋があって冬があって、日本はよい国である。自然だけではない。風土だけではない。長い歴史に育まれた数多くの精神的遺産がある。その上に、天与のすぐれた国民的素質。勤勉にして誠実な国民性。
 
日本はよい国である。こんなよい国は、世界にもあまりない。だから、この国をさらによくして、みんなが仲よく、身も心もゆたかに暮らしたい。

よいものがあっても、そのよさを知らなければ、それは無きに等しい。

もう一度この国のよさを見直してみたい。そして、日本人としての誇りを、おたがいに持ち直してみたい。考え直してみたい」

これは松下幸之助が『道をひらく』という著書の中で語ったものです。ケネディがアメリカ国民に投げ掛けた言葉と同様に、私はこの松下幸之助のメッセージをいまの日本の人たちはぜひ深く胸に刻んでいただきたいと思うのです。松下幸之助に限らず、ひと昔前の政治家や財界人、あるいは一般の人たちでも、こうした日本人としての誇りや気概を当たり前のように持っていたものです。

実際、いま知っている人は少ないかと思いますが、高松塚古墳で有名な飛鳥の文化保存に最初に声を上げたのは松下幸之助でした。

1971年、松下幸之助は、知人で鍼灸師の御井敬三氏から、「日本の心の故郷である飛鳥に、高度経済成長の開発でどんどん住宅地が増えている。このままでは飛鳥の古跡が全部なくなって、日本の歴史が抹殺されてしまう。松下さんの力でなんとか救ってください」と懇願されます。御井敬三氏の訴えに心動かされた松下幸之助は、その内容を録音し、ある会合の席で当時の佐藤栄作首相に聴かせるのです。

松下幸之助の行動力にも驚きますが、佐藤首相も実に立派でした。「それは大事なことだ。何とかしましょう」と、佐藤首相は閣議で「飛鳥保存対策」を決め、あっという間に官民一体となった「財団法人飛鳥保存財団」が発足するのです。そして、「あんたが言ってきたことだから、責任をもってやってもらいたい」という佐藤首相の後押しもあり、松下幸之助が初代理事長に就任します。

松下幸之助はポリシーとしてあらゆる公職・名誉職をすべて断っていた人でしたが、この財団法人飛鳥保存財団の理事長職だけはまさに臨機応変、〝融通無碍〟の精神で敢然として受けたのです。それほど日本の歴史と文化を守るという強い思いをもっていた。そして、その翌年、1972年に発見されたのが高松塚古墳の壁画です。松下幸之助の頑なにならない融通無碍の精神が、我が国の至宝発見へと繋がったといっても言い過ぎではないでしょう。

ですから、私たちもかつての日本人、松下幸之助のように、日本の歴史と伝統の素晴らしさを認識し、自分がこの地域、この日本を守り、立て直すんだという誇りと気概を持って事に当たれば、今回のようなコロナ敗戦もなかったはずです。

「もう一度この国のよさを見直してみたい。そして、日本人としての誇りを、おたがいに持ち直してみたい。考え直してみたい」

この松下幸之助の遺したメッセージを一人ひとりが噛みしめることから、日本再生の一歩が始まるのだと私は信じます。

※次回の配信は6月を予定しています。


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ウィズコロナ時代の経営・人生に生かす松下翁の経営哲学を上甲晃氏とご対談いただきました◆


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◇中 博(なか・ひろし)
昭和20年大阪府生まれ。44年京都大学経済学部卒業後、松下電器産業入社。本社企画室、関西経済連合会へ主任研究員として出向。その後、ビジネス情報誌「THE 21」創刊編集長を経て独立。廣済堂出版代表取締役などを歴任。その間、経営者塾「中塾」設立。令和2年には一般社団法人和の圀研究機構を立ち上げ代表を務める。著書に『雨が降れば傘をさす』(アチーブメント出版)がある。

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