2022年06月25日
▲「千房」創業前に営んでいたお好み焼きにて
大阪・千日前の地に産声を上げたお好み焼き屋を、国内外70店舗を超す業界屈指のグループへと育て上げた中井政嗣氏。学歴も能力もないと謙虚する中井氏は、いかにしてかくも大きな成功を収めたのでしょうか。体験を通じて掴み取った、若い時代の過ごし方、氏を成功に導いた4つの習慣とは――。
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よきご縁に恵まれるには
〈中井〉
千房を創業した昭和48年は第一次オイルショックの真っ只中でしたが、当時新聞もテレビも見る余裕のなかった私は、日本が深刻な不況に陥っていたことを知りませんでした。
人間、知らないということほど強いものはありません。客足が伸びない原因をすべて自分の責任と捉え、お客様に喜んでいただく工夫を徹底的に重ねていったのです。
そうした中、若い私に目をかけ、貴重なアドバイスをくださる常連のお客様がいらっしゃいました。
「お金が欲しい時にお金を追ってはいけない。人を追いなさい」
「君が体を張って稼いでいるのは、自分の血を売って商売しているのと一緒。自分が動かなくてもお金が入ってくるのが企業だ」
「成功は急いではならない」
「中井の姓を決して傷つけるな」
偶然にも私と名字も郷里も同じその方は、常盤薬品工業の創業者・中井一男社長でした。能力があって努力もしているのに伸びない人がたくさんいる中、能力もお金もなかった私がここまでこられたのは、中井社長をはじめたくさんの方に引き立てていただいたおかげです。
人間、誰かの引き立てがなければ、どんなに能力があっても、どんなに努力をしても光り輝くことはできません。そして、私が多くの方に引き立てていただいた理由は4つあると思います。
1つ目は、年長者を敬うこと。
2つ目は、年長者から言われることを積極的な謙虚さを以て素直に受け入れること。
3つ目が、言われたことを誠実に実行すること。
そして4つ目が、損得ではなく善悪で判断すること。そうすれば不思議な力が湧き、神のご加護によって必ず誰かが引き立ててくださるのです。
成功者の中には自分は運がよかったという方が多く、大概そういう方は縁を大事になさっています。二十代のうちにどんな人と出会い、どう関わったかによって、その後の人生は大きく左右されます。
中途半端な関わり方ではなく、相手を敬い、与えられた助言を素直に謙虚に実行すること。何事も損得ではなく、善悪に基づく行動を積み上げていくことによって、人間はつくられていくものです。そして、そういう学びが最もできるのが二十代なのです。
努力は100%報われる
〈中井〉
常盤薬品工業の中井社長が経営の師であれば、創業時に無担保で融資してくださった信用組合の理事長さんは金銭の師でした。
後で聞いた話ですが、理事長さんが若い私に無担保で3,000万円もの大金を融資してくださったのは、私が兄の教えに従い、5円、10円という僅かな金額まで克明に金銭出納帳に記録してきたのをご覧になったからだそうです。
この話は、継続がもたらす大きな力を物語っています。能力のない私には、誰でもできることしかやれません。そんな私に唯一勝っていたことがあるとすれば、誰でもできるけれども、誰も続けようとしないことを続けてきたことでしょう。
例えば、私は社員の給料袋に毎月毛筆のメッセージを同封しています。誰でもできる些細なことですが、きょうまで31年以上続けていくうちに、会社は大きく発展しました。
もともと三日坊主で、飽きっぽい私が継続する習慣を身につけることができたのは、「三日の哲学」があるからです。10年前のことを反省したり、10年先のことを計画したりするのは大変ですが、昨日のことを反省し、明日何をするか考え、きょうやるべきことを実行するのは簡単です。いっぺんに大きなことを成そうとするのではなく、昨日の反省、きょうの実行、明日の計画、この三日間を確実に繰り返していけばよいのです。
中でも大事なのが、「いま」。いま目の前のことに精いっぱい取り組むことです。一生懸命ではなく一所懸命、全力投球。その積み重ねによって人間はつくられていくのです。
若い方の中には、せっかく努力しても報われないことのほうが多いと感じている方もいらっしゃるかもしれません。けれども私は、努力は100%報われると断言します。ただしそのためには、報われるまで努力することです。あの松下幸之助先生も、成功する方法は簡単で、成功するまでやめないことだと説かれています。報われるまで努力すれば必ず報われる。これが今日まで生きてきた私の結論です。
(本記事は月刊『致知』2018年9月号 連載「二十代をどう生きるか」より一部を抜粋・編集したものです)
◎「努力は100%報われる」――中井政嗣氏が若い頃の体験を経て掴んだこのメッセージに自然と心が奮い立ちます。
『致知』2022年7月号では、氏のご子息であり現社長の中井貫二氏にご登場いただき、「体に染み込んでいた千房のDNA」「〝三代目〟としての覚悟」について熱く語っていただきました。
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◇中井政嗣(なかい・まさつぐ)
昭和20年奈良県生まれ。中学卒業と同時に乾物屋に丁稚奉公。48年大阪ミナミ千日前にお好み焼き専門店「千房」を開店。大阪の味を独自の感性で国内外に広める。その間、40歳にして高等学校卒業。現在、自身の体験を踏まえた独特の持論で社会教育家としても注目を集め講演も行う。著書に『できるやんか!』『それでええやんか!』(ともに潮出版)『社長の教科書』(日本実業出版社)がある。